第42話 アウトラに帰り夕食を
移動魔法でアウトラへ戻ったボクはベルさんたちのいるであろう街の中心部へと向かった。
その道中、朝に見た時は建物の残骸や王国魔法兵団による魔法攻撃で掘り返された地面のせいで歩くのもままならない場所が既に片付けられていて道になっていたことにボクは驚いた。
作業を終えて休憩している人たちの中に何人ものエルフが混じっているあたり、みんなで協力し魔法を駆使して復興作業を行ったのかもしれない。
魔法の出力をコントロールできないボクがいた所でなんの役に立たなかった事が推察できて自嘲してしまう。
「なにか面白いものでもあった?」
局所的ではあるが綺麗になった街並みを見ていると背後からベルさんに声をかけられた。
魚?のようなモノを持っている辺り、ボクのお出迎えに来てくれたなんて甘い展開ではなさそうだ。
「いえ、ちょっと……魔法のコントロールができないボクじゃこの街の復興に役立てないなって思ってただけですよ」
「なんかネガティブね。でもそんな事ないよ?ハートはハートにしかできないやり方でみんなを救ってるしみんな助かってるよ」
「そうですかね?そうだと良いですけど」
「なんか暗いなぁ……?なにかあったの?とりあえず夕食にしようか。漁のできる人たちが魚をくれたからみんなで食べよう!」
自ら『らしくない』と思う程度には暗い言動のボクをベルさんは気遣ってくれたのか深く掘り下げずにいてくれたのでボクはその優しさに甘えることにする。
「夕食は焼き魚ですか?その魚ちょっ見たことないんでわからないんですけど」
「んー煮ても良いかもね。オリーブもあったから色々できそう」
グロテスクな見た目のソレは魚であっていたらしい。ロックデールには近くに海がなく魚は川魚をたまに食べるくらいで馴染みがないボクは少しだけ恐怖を覚える。アレをこれから……食べるのか。
中心部へ着くと目に飛び込んで来たその光景にボクは思わず驚嘆する。朝は三つ程度しかなかったはずの土壁で作られた急造の建物が大量に増えていたからだ。
「これはベルさんが一人で?」
「これ?あぁ仮設住宅は土魔法が得意なエルフの面々で頑張ってもらったんだよ。私はロイ様と作戦会議してたからね。これで今日からみんな屋根の下で寝れるって喜んでたよ」
一際大きな建物に入って行くベルさんを追ってボクも入ると中はベンチと机以外なにもない空間が広がっていてその中心にはロイ様がいた。
「魚もらって来ましたよ。食べちゃいましょう」とベルさんが魚を見せると「もうお腹ぺこぺこだよ」と子どもじみたことを言ってロイ様は立ち上がったあと今の言動を恥じたのか口に手を当てて絶句した。
ボクとベルさんは顔を隠して笑わずにはいられなかったのだった。
夕食の準備を済ませた頃、街の復興を手伝っていたであろうグレッグや街の人たちが濡れた姿で帰ってきた。
海で汚れを落としてきたのかと思ったら普通に水魔法を使える人の魔法で洗ってきたらしい。海が塩水と呼ばれるもので出来てることすら知らなかったボクはからかわれて恥ずかしい思いをしたが嫌な気分にはならなかった。
「なんか暗いな。今日あの後なんかあったのか?」
復興に携わっていた人たちが各々のグループに分かれた後ボクの隣に座ったグレッグからそんな風に声をかけられた。
ベルさんが夕食を取った手を止めてグレッグに向けて首を振る。
「やめてください。そんな気使われるとかえって気まずいですよ」とボクは苦笑いを浮かべて話を続ける。
「……移動魔法を試しがてらロックデールに行ってみました」
「――ロックデールだとっ?!」
意外な事にロイ様が大声を上げて立ち上がったので周りにいた人たちはみんなして彼の言動に注視する。
「ロックデールがどれほど遠いか分かっているのか?そんなこと不可能に決まっている!」
あり得ない。ロイ様の表情と身振りがそう言ってるがボクとしてはやったら出来たのでなんとも言えない。
「ロックデールで墓参りをしたんですけど――」
「――いやいや不可能だ。移動魔法はそんな万能じゃないだろ!……どうしたみんな?エルフならわかるだろ?」
ロイ様は辺りを見回し味方を探すが人間たちは魔法のことがわからないしエルフの人たちは……「いやまぁ崩剣さまなら……なぁ?」的なことを小声で話し合ってる。
「ロイ様、とりあえず落ち着いてください。普通は不可能でもハートにはそれができるんです。だから崩剣なんです」
ベルさんが淡々と告げるとロイ様も落ち着きを取り戻した様子で「……そ、そういうものなのか?」と訝しみながらも座り「みな、騒いで済まなかった。歓談に戻ってくれ」と辺りの人たちに謝罪した。
「そんな、ロイ様が謝ることなんてないですよ……」なんて言ってる人間たちをみてエルフの人たちは不思議そうな顔をしている。
それに気づいたベルさんがロイ様に声をかける。
「せっかくなので今、自己紹介をなさってはいかがです?明朝を待つ理由もないですし」
「……たしかにな。朝は忙しい者も多いだろうしちょうど良い。すまない皆の衆!もう一度こちらに耳を傾けていただきたい。知ってる者も多くはないだろうから自己紹介させていただく。私はこの王国の前国王の息子であり現国王アーデハルトの甥、ロイ=ハンネスケンだ」
「は?」「え?まじ?」「……」
人々はみな思い思いのかたちで驚きを表現している。口に手を当て絶句する者、手に持っていた夕食をこぼす者なども現れる。
今朝、海岸沿いで出会った近くの集落から戻ってきたという人たちはまるで幽霊でも見るような目つきで腰を抜かしているみたいだ。
「王国の発表では私は死んだ事になっているので信じられない者もいるだろうが今、言ったことは事実だ。私は生きている」
……え?そうなの?
またしてもボクの知らない話が出てきてボクも目を見開き驚いてしまう。海岸沿いで会った人たちの変なリアクションはそういうことだったのか。
周囲の喧騒を無視してロイ様は話を続ける。
「王位を簒奪するために私を殺そうとした現国王アーデハルトの魔の手から私を救ってくれたのが今、ここにいるエルフの姫様であるベル=ゼブール=スロベルケ様と今はここにいない私の乳母だった。私の出自は彼女たちが証人となってくれるだろう」
ベルさんが命の恩人……?
エルフが人間から差別されるようになってから十年以上経つはず、ロイ様の年齢はそれより若そうに見えるのでベルさんは……人間にエルフが虐げられるようになってからロイ様を助けたのか?
凄いな。
ボクに同じことができるかわからない。
もしかしたらそこには何かボクの知らない打算があったのかもしれないけど、結果として人を救ったのだから凄いとしか言いようがないな。
何も知らなかった人たちがロイ様に向けて膝をついて崇めるように手を結び始めたが、それを見たロイ様は嫌そうな表情を浮かべ、「そういうのはやめてくれ。私はアーデハルトとは違う。王国は前時代的な支配構造から変わらなければいけないんだ」と言って膝をついた人に手を差し伸べて立たせたるとそれを見た人たちは沸き立った。
「明日、我々は王都を攻める!民衆に何ももたらさず奪うことしかできない現国王アーデハルトに『崩剣』が鉄槌を降す時が来たのだ!捕えられたエルフを!アーデハルトが簒奪した王位を!正しき道に戻す時だ!!」
えぇ……。
盛り上がり呼応する民衆とそれをノリノリで煽動するロイ様を尻目にボクは一人、固唾を呑むことしか出来ないでいた。
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