第39話 アウトラを出て王都へ
夕食を囲むと言うには騒がしすぎた昨晩の食事会を終え気が付いたら朝を迎えていたボクは誰にも告げず街の外、海側へと足を運んだ。
炭鉱町ロックデールにいた時は噂でしか聞いたことのなかった『海』というものをマジマジと見ていると不思議と心が洗われるような気分になった。
アウトラに来た時から気にはなっていたが色々と起きてそれどころではなかったので、こうしてゆっくりとした時間を味わえるのは凄く助かるし嬉しい。
海岸線を歩くと壊れた橋や船の残骸が纏まっているところがあった。多分、潮の流れ的なモノでここに集まるのであろう、その場所にはすでに何人かの人たちがいて必死に復興しようと働いていた。
「おっ!崩剣様だ!」
こちらに気が付いた人たちに手を振られたので挨拶を返すと「昨日はご馳走様でした!あんな腹いっぱい食えたのは久しぶりですよ!」「うちのチビも喜んでましたわ」なんて言われた。
「お子さんもここへ?」ロイ様以外の子どもを日中は見なかった気がしたけど、よく考えたら昨晩はいたなぁと思い聞いてみる。
「俺らぁアウトラが荒れちまってから近くにある別のちっちゃい集落で暮らしてたんですよ」
「んだんだ。ほんで
「疎開してた集落ん中でアウトラ出身のやつら連れて昨日から復興手伝ってるってわげよ!」
炭鉱町にいた
地元でもそうだったが王都から離れた地域の人は『名の売れた人』を過剰に持ち上げる風潮があるな……ボクもそうだった気がするけど。
「……じゃあボクは散歩に戻りますね」と一抹の寂しさを感じながらその場を去ることにした。
街に戻るとコチラでもすでに作業が始まっていていい意味で騒がしくなっていた。誰も彼もが楽しそうで嬉しそうな表情を浮かべている。
「ハート、どこいってたんだ?」
顔を洗った帰りなのかさっぱりとしたグレッグに声をかけられる。
「散歩だよ。近くで海を見てみたくてね」
「そうか、どうだった?」
「んーボクは初めて見たんだけど多分、忘れた記憶の中で見たことあるんだろうね。あんまり初めての感動とかは感じなかったな。」
「……そういうもんなのか、そりゃ残念だったな」
「まぁ仕方ないよ。……ここにいてもボクにできる事はないし王都に向かおうと思うんだけど地図とか持ってる人しらない?」
ボクの質問にグレッグは呆れた様な表情を浮かべて「お前まさか……一人で行く気じゃねぇよな?」と聞き返して来た。
「そのつもり――」
「――ふざけんな!」
往来の人たちが一斉にコチラを注視したのがわかる。それくらい大声でグレッグが怒鳴ったからだ。
「一人で敵の本拠地に乗り込むバカがどこにいんだよ!作戦は?あんのか?いくらお前が強いからっておかしいだろ!俺は仲間じゃねぇのかよ!」
グレッグは今にも飛びかかりそうな程ブチキレたが偶然近くを通りかかった大柄の大人に取り押さえられている。
「放せ!はなせよ!」
「なにがあったかワシにはわからんがとりあえず落ち着きなさい!」
「うるせぇ!あんたにゃ関係ないだろ!」
「ワシの街で暴れるなら関係はあるだろう!感情的になるのは子どものすることだ。君は大人だろう?」
「…………」グレッグは急におとなしくなった。
グレッグは見た目通りエルフの中では幼い方であるし確か成人してないとかギリギリとかそんな話だったはずだ。だからこそ子ども扱いされたくなかったのだろう。この大柄の人間は子どもの扱いがずいぶんと上手い。ワシの街でーと言っていたしアウトラの役人かなにかなのだろうか。
「……あの、どちら様か存じてなくて申し訳ないんですけどありがとうございます」
グレッグを後ろから羽交締めにしたままの大柄な男性に礼をする。
「ワシはアウトラの街で評議会長をしとった者だ。君たちのおかげで街に人と活気が戻ってきたので感謝してるが往来で喧嘩するのはいただけないのぅ」
「俺を挟んで会話すんな!」
解放されたグレッグはまだ少しイラついている様子だ。
「ごめんなさい。グレッグもごめんね。危険だと思ったから――」
「危険だからこそ着いてきてくれって言えよ!そんなに役立たずか俺は?…………たしかに魔獣以外と戦ってる姿は見せた事ねぇかもだけど……」
どんどん尻すぼみになるグレッグは少しいたたまれない感じだった。
「なるほど、悪い喧嘩じゃなかったわけだ!」
評議会長とやらよくわからない納得の仕方をする。
「でも往来でするもんじゃないぞ!」と言い残して去っていった。
「喧嘩にいいも悪いもねぇだろ」
「ボクも同感だね」
二人で変なおじさんを見送った。
「あーなんか萎えたわ」
「スンって持ち上げられてたもんね」
「うるせぇ!なんだよアイツ本当に人間かよ!デカすぎんだろ」
「猫みたいに持ち上げられてた」
「しつこいぞコラ!」
「ごめんごめん!……一人で行こうとした件もごめん。」
「ハート、それはごめんじゃねぇ。誘いたいって思わせられなかった俺も悪いんだ……すまん」
二人して謝って気まずいというか気恥ずかしい感じになっているとまたしても知らない人に話しかけられた。まだ朝なのに何回目だ?今日はそういう日なのか?
「崩剣様とグレッグさんですよね。ロイ様とエルフの姫様がお呼びです」
「わかりました。だってよグレッグ」
「わかってるよ」
ボクらは二人足並み揃えて呼び出しに答えた。
呼び出された先にはベルさんとロイ様がいた。ピジョンはどこか別のところにいるのかすぐには見えなかった。
「よく来たな崩剣、グレッグ」
ロイ様は身分を隠す必要がなくなったからなのか偉そうにふんぞりかえっている。
あんな人だったか?とグレッグと顔を合わせていると「そこまで露骨にしなくていいのよ。威厳はあとからついてくるわ」とベルさんが指導しているので幼いながら頑張って偉そうにしているロイ様に少し可愛げを覚えてしまった。
精神年齢より上を演じる大変さはボクもわかる。
(と言ってもボクはそんなもの演じていないんだけど)
「んんっ!二人ともいきなり呼び出して悪かったな。王都の連中との闘いのことで話しておきたいことがあってな」
仕切り直したロイ様はそう言ってベルさんをみた。
「勇者や王を倒したり捕まえればいいってわけじゃないのはわかるよね?私たちは市民を味方につける必要があるの」
「「……市民を味方に?」」
悪いやつを倒して終わり。なんて子どもじみた考えでいたボクは同じく似た様な考えだったであろうグレッグとハモってしまう。
「……正当性が必要なのよ。今の王が間違っていてロイ様が人間の王であるって納得させる必要があるっていうのかな」
「崩剣の存在じゃダメなんですか?魔王を倒したのもハートなわけだし。市民は皆んなその強さをよく知ってるでしょ」
意外にもグレッグがベルさんの話に反論した。
「……王都は残念ながらそうでもないんだよ」
ロイ様は首を横に振りながらため息をついている。
「そうでもないってどう言うことですか?」
「崩剣はあくまで勇者パーティの一戦力でしかないって認識になっているの。王国の端の方は実際に魔族やら魔獣の被害があってそれらを崩剣から救われてたりするけど王都ではそういう経験がないから」
ボクの疑問に答えてくれたベルさんはロイ様同様に苦しそうにしている。
「じゃあじゃあ!逆に、いっそ王都に乗り込んで大暴れしたらその強さとヤバさがわかるんじゃないっすか!?」
グレッグは名案を言った感を出しているがボクらは呆れて誰も何も言えない時間が訪れた。
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