第37話 ボクたちの向かう先
勇者ルーシーが逃げ去った後、ベルさんに呼ばれ地上へと降りたボクはコチラへと歩いて向かって来るグレッグを見つけた。グレッグもコチラに気が付いたのか少し小走りになった。
「二人にはここの、土塊で捕まえた王国魔法兵団の監視を頼みたいの。万が一にも逃げ出さないように」
ベルさんからそう頼まれたボクとグレッグはアウトラの街の外で二人、時折呻き声の聴こえる大きな土塊を見ていた。
「どれくらい待てばいいのかな?」
「さあな……兄さんたちなら今、出発して明日には辿り着くはずだけど、問題は出発の邪魔する奴らがいるかいないかってところだな」
「兄さんってことはエルフの騎士団がくるって事?」
ボクは誰を待ってるのかすら理解していなかったがグレッグは知っていたらしい。助かる。
「とりあえず捕虜として捕まえとくんだろ?アウトラの街を攻めたのはエルフでも魔族でもなく人間だって証拠と証言が必要になる時が来るだろうからな」
「……」
ボクは言葉に詰まる。
それはボクがグレッグたちエルフと違い人間だから、今何か言える立場にない気がするからだ。
「そういえばお前なんで服の左側だけボロくなってんの?コイツら捕まえるのにそんな苦労するほど強かったのか?」
グレッグは土塊を顎で指して不思議そうにしているのでボクはさっきここで起きたことを、勇者と遭遇し、戦闘になったことをグレッグに伝えた。
「……は?マジで言ってんの?勇者が?」
意外な人の名前が出た事にグレッグは驚きを隠せていない。最初は驚き戸惑いだんだんと怒りに変わった様子だ。
「……あのヤロー、やっぱり絡んでやがったか!」
全て話し終える頃には血管が切れそうなほど怒りに支配されかけていたグレッグをボクはなんとか宥める。
「次あったらゼッテー許すなよ!アイツこそ諸悪の根源だからな!」
ボクの肩をガシッと力強く抱いてグレッグは「うおーー」と雄叫びを上げた。ボクは彼と対照的に静かに悩んでいた。
「――おい!大丈か?どうしたんだよ……いったい」
肩を抱かれたまま考え込んでしまったらしく揺らされて初めてグレッグに話しかけられていた事に気がついた。
「……いや、ごめん。聞いてなかった……」
「なんだってんだよ?なんか悩んでんのか?」
グレッグはそう言うと俺に話してみろってと言って地べたに座り込んだのでボクも同じように向き合って座る。
「あの魔法を無効化する剣の攻略法が思いつかなくて……」
ボクは素直に弱音を吐いた。事実アレが勇者の手にあるうちはコチラに勝機は生まれないだろうと思う。そう言う意味では弱音ではないのかもしれないが。
「
グレッグは呆れたように仰向けに寝てしまった。
「深刻そうな顔するなら深刻な悩みの時にしろよ紛らわしいー」仰向けに寝転がったままグレッグはそう言って大きくあくびをした。
「……物量でドガーン……??物量……土魔法とか水魔法で攻めるって事か?」
「魔法で生成したら消されるけどなー」
「……つまり魔法で生成せず、あるものを直接操ればいいってわけか!……あれ?でも風魔法は消されたしダメージがなかったけど?」
「風は魔法で操らなきゃ無害だろ?土魔法で大量の土を勇者のカスの上から降らせたら……?」
「滅魔剣で魔法を打ち消したところで大量の土は勇者を襲うってことか」
「そゆことー」と言ってからグレッグは静かになった。どうやら本当に寝てしまったらしい。
いくら草の上とはいえ、こんなところでよく寝れるなとボクは少しだけ感心する。滅魔剣の対処法については大いに感心した。
勝てる。
勇者はあの感じだと魔法が使えなそうだった。あの剣さえ奪えば戦えるし戦えば勝てる。ボクは柄にもなくそう確信している。
……でも気になっていることがある。
それはこのまま行くとボクは『人類の崩剣』から『人間の敵』になるんじゃないかってことだ。
人間たちの中では勇者たちが魔王を倒した事になってると言っていたのにそれをボクが倒したとなれば……。
かと言って逃げて生きていくのも現実的じゃない、それにあの勇者の性格上ボクとベルさんが繋がっている事を知られたのも最悪だ。きっとボクが逃げ隠れたらベルさん、ひいてはエルフ全体に攻撃を仕掛けることすら厭わないだろう。
勇者ルーシーは他者を傷つけるということが選択肢の一つ目に入っているタイプの人間だという確信がボクの中にはある。
そんなことを考えているといつの間にか日が暮れていてグレッグは昼寝から目を覚ました。
「身体中がいてぇ……」地べたで寝たのだから仕方ないだろうと思ったがあまりにウルサイいので回復魔法をかけてあげたが効果はあまりなかったようだ。
「外傷にしか効かないのかな?」
「回復魔法の専門家とかに聞いたらわかるかもしんねぇけど俺にはわからん……首がいてぇ」
「寝るのもだけど食事もどうしようか、腹減ったよ」
「あーそう言われると俺もそうだわ、いつから食ってなかったっけーなぁ」
二人して腹を鳴らしながら土塊の監視を続ける。
最初の頃は換気用にいくつか開けた穴から声が聞こえていたのだがグレッグが寝たあたりから静かになってる。
「……なぁまさか、中で死んでたりしねぇよな?」グレッグはそう言って怪談話でも聞いたかの様な青ざめた表情を浮かべる。
「いや、大丈夫でしょ環境の穴もあるし」
「じゃあ移動魔法使えるやつがいたり、外から移動魔法使えるやつが入って逃げていたりして!」
暇なのか暇なのだろう暇なんだな。
ひぃぃい!とか言いながら、わざとらしく自らの肩を掴んでぶるぶると震えるグレッグをみてボクは笑った。
「笑ってるけど、ありえない話じゃないんだぜ実際。移動魔法はいろんな魔法があるなかでもぶっちぎり規格外な魔法だからな!」
「たしかにそうだね。ごめんごめん」
ボクは適当に軽くあしらう様に謝るとグレッグも笑っていた。
「……あれ?そういえばボクってロックデールに飛べばいいんじゃね?」
「あっ……」
なんで思いつかなったんだろう?
ボクは地元ロックデールに帰って家族のことを詳しく知りたいから旅を始めたけど、よく考えたら移動魔法でひとっ飛びすればいい話じゃないか!
「なんてこった……」こんな簡単な事に今まで気がつかないとは。
ボクはまだ自分の魔法を自分のものとして扱い切れてないんだなと実感した。
「すげー距離あるけど行けるのかな?」
グレッグは頭を傾げる。
「どうなんだろ、前に移動魔法を使った時行った場所は王都のお屋敷がなんかみたいなところだったから相当遠くまで行けるはずだけど」
「レヴィ=アータントの屋敷か、詳しくは知らんけど多分、王都周辺だろうな……そこまで飛べたなら行けるかもな」
「勇者の件が片付かないのに行くのはどうかと思うけど一度行ってみたいな」
ボクは生まれ故郷に想いを馳せる。あの空とこの空が繋がっていると思うと、ただの夜空を見上げる人の気持ちがわかった気がした。
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