第32話 空から見た景色
探知魔法はピジョンだけでなく、広範囲に広がった謎の攻撃により崩壊した場所から数人を見つける事に成功した。
ピジョンの元へと駆け寄るロイ少年をベルさんに任せてボクとグレッグは別の場所に救助へと向かうことにする。
土魔法で土を動かし空間を作ったり瓦礫をどかす。
それを数回繰り返し助け出した人たちに回復魔法を再度かけていく。
結果として見ると回復魔法のおかげで死傷者はゼロに抑えることができたが元々荒れていた街は完全に崩壊したと言えるだろう。
助け出した人たちに話を聞くとみなココ以外に行くところもないと言っている。
「礼を言うぞ、崩剣」土塊の底から救助されたピジョンが感謝を伝えにきたがボクとしては『ボクがいたからこんな攻撃がきたのかもしれない』という疑念に心穏やかでいられない。
「次の攻撃がこないのは終わったと思い込んでるからなのか?」グレッグは誰に問うでもなく全員が感じていた疑問を口に出した。
「ボクが自分で言うのも何だけど『崩剣』が狙いなら広範囲攻撃の一撃で終わらせるかな?もっと確実な方法じゃないと意味ない気がする」
「うぅむ、なるほど。それなら狙いは我々、いや私ということだな」
ロイ少年は顎に手を当てて唸る。
「何故、我々がここにいることがバレたのか、何故それが今なのか……」
「ピジョン、寝てなくて平気なのか?」
傷はボクの回復魔法で治せたから良かったが土や瓦礫の下に埋もれていた事により大量の体力を使ってしまっていたピジョンをロイ少年が心配している。
「なにも問題ないです」と強がる彼女に覚悟と責任が見えた。彼女がたった一人だけで王族のロイ少年を護衛しているのか理由は知らないが、きっとそれなりの理由や事情があるのだろう。
王族を狙うなんてマトモじゃないが今のボクではわからないことが多すぎて動機や手段を始めとした推理の方向で役に立つことはなさそうなので、この放射線状に広がった謎魔法の使われたであろう場所へ向けてとりあえずで探知魔法を放ってみる。
先程とは違い地中にまで意識を伸ばす必要がないので遠く、とにかく遠くまで探知範囲を広げるイメージで魔法を使うとかなり離れた範囲まで意識の中に入ってきた。
「見つけたかも、この先の方向をずっと行ったところに五十人程度の……騎馬隊?みたいな人たちが馬車のようなものを護衛ています。騎馬隊は武装しているけどコチラから距離を取ろうと移動しているように見えますね」
犯人像と何故居場所がバレたのかについて話し合っていたベルさんに伝えると全員がコチラをみた。
服装の特徴をかいつまんで伝えるとやはり王家の所持している騎士団のものだったらしくロイ少年とピジョンに緊張が走った。
今にも駆け出しそうなグレッグをベルさんが抑えてるうちにボクは前にベルさんが使っていた浮遊魔法とやらを唱えてみることにした。
「『
あっという間に空高く身体が浮いていく。
「ちょっと!!」ベルさんの制止する声が聴こえたがそれもすぐに地面と同じく遠くなった。
「凄い、飛んでる……」
魔法を使うたび不思議な感覚を味わうのだがコレはいつものソレとは一味も二味も違う。
普段なら感じることのない上下に移動しようという意思がそのまま反映されるし、脚を動かさなくても前後に進退できる。
「すごく楽だなぁコレ……」
遠くまで見通せるし風が気持ちいい。
ってそんなことより、敵の確認だ。
と考えると同時に身体が凄いスピードで移動してしまう。
ヤバいっと思った瞬間、今度はそのまま急に止まって身体にもの凄い負荷がかかる、回復魔法を即座に使ったから事なきを得たがコレはかなり難しい部類の魔法かもしれない……。
もっとゆっくり歩くようなイメージで使わないとダメだ……。
「今度こそ敵のところへ……」
ボクは小走りするイメージで身体を動かすと思ったように進んでくれた。
そういえばベルさんも空中を歩いていたかもしれない。あれはそういう事だったのか。
単身、空を進むとすぐに騎士団の群勢が見えてきた。幸い向こうはコチラに気がついていないらしい。
それもそうだ。空から追われるなんて夢にも思わないだろう。飛行魔法なんてものは魔族の専売特許的なことを誰か言ってたしな。
完全に無防備な人たちの真上を取れたが果たしてどうするべきか……。
不意打ちをされたとはいえ被害者もいないし、やり返すのもなんだし……。
記憶を失う前のボクなら迷わず殲滅していたんだろう状況ではあるが、残念ながらボクはまだ『人の命を奪うこと』が正しい選択肢とは思えない。
今、そう考えるボクに何があったら、ああなるのだろうか。記憶を失う前の自分自身に思いを馳せていると下が騒がしくなっていた。
どうやら影かなにかのせいでボクの存在に気づかれてしまったらしく地上の人たちが皆、こちらを指さしている。
すぐにこちらを攻撃してくるかと思い身構えたが、どうにもそうではないらしい。
そもそも攻撃が届かない距離なのかもしれないが、この近くからアウトラまで攻撃してきたんだから遠隔魔法はあるはずだ。
……なにか言っているが聞こえない、そして未だに攻撃をしてくる気配がない。
もしかして魔力切れをおこしているのか?
あれほどの広範囲魔法ならそうなるのかもな。
自分でも底がわからない膨大な魔力を保有するボクには魔力切れがどんなものかイマイチわからないけど。
「とりあえず降りて話をしてみるか。」
向こうに攻撃の意思や手段がないなら話を聞くくらいはできるかもしれないと考えたボクは高度を下げて対話を試みることにする。
言葉が通じるという事と会話が成り立つという事は決してイコールではないという事に気がついていなかったボクは、だから子どもなんだろう。
記憶にないボクがあんな風な性格になったのもわかる気がした。
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