第30話 アウトラの話
ベルさんに連れられて廃墟の群れになってしまった辺境の街アウトラの最奥部まで来たボクとグレッグ、そして謎に包まれたピジョンと呼ばれる女性とその子ども。
ピジョンを紹介された街の中心部は少し掃除がされていたが最奥部のココは完全に手がつけられていない状態だが何故、こんなところへ連れてこられたのだろう。ボクとグレッグは展開についていけずにいる。
ベルさんは『
ピジョンの息子は初めて魔法を目の当たりにしたのか物凄く興奮している。
「本当は移動しながらだったり、さっきの綺麗な場所で話したいんだけどそんな時間はなさそうだし、誰が聞いてるかわからないから」とベルさんが前置きしてから話し始める。
何が差し迫っていて、何を聞かれたらマズいのか知らないボクには先を促すよう頷くことしかできない。
「結論から言うとね。この子はハートたち人間の現国王の甥であり、本来なら国王になるべきだった人なの」
ベルさんの話は冗談にしか聞こえない話だが、どうやら表情や雰囲気から見るに本気で言ってるらしい。
「甥ってそれ本気で言ってます?」グレッグは、ボクの飲み込んだ言葉を素直に口に出す。ボクはその愚直さが羨ましいと思えた。
「だって仮に姫様の今言ったことが本当なら、甥ってことは現王の……」
「そう。現国王の兄の子よ」
ばるほど、そうなるのか。
いや、話の流れ的にはそうとしかならないのか。
「えぇ?!じゃあピジョンって人は……?!」
グレッグのその言葉で遅ればせながらボクも気が付いた。
「私は護衛兼世話係だ」
そういうとピジョンは顔を隠すため被っていたフードを脱いだ。意外と言ったらフードで全ての情報が隠されていたので変だが、想像よりも若い女性だった。
「喋れたんすね」とグレッグがこぼすと「そう思わせるのが目的なのよ」とベルさんに言われる。
「?」グレッグはあまりピンと来ていないようだ。
「つまり王族だと思わせるために顔を隠して母とまで呼ばせているということですか?」
「そう。ハート、正解。ロイを守るためにはいくつかの策と罠が必要ってことでね」
『ロイ』とよばれた少年はいつの間にか先ほどまでのあどけなさが消え失せ、一気に数年分成長したかのような面持ちになっている。
……おかしいな。
ボクは不思議な違和感に襲われる。さっきまで五歳か六歳程度の子どもだったはずなのに今は十歳前後の少年に見える。
「あれ?……もしかして変身魔法?」
違和感に対する一つの解答を出してみたボクを驚いた顔でベルさんとロイ少年が見つめてきた。
「記憶がないとはいえ、さすが崩剣といったところか。」ピジョンは感心したように呟いた。
「何故それをっ……」と言って気がつく。ベルさんが教えたのだろうということに。
「勝手に言ってごめんね。でもすぐにバレるってわかってたから」とベルさんは申し訳なさそうにしている。
「あの崩剣が記憶喪失だなんて半信半疑だったが私が誰かわからんのだろう?なら信じるしかあるまい」
なるほど。どうやらボクらは知り合いだったようだ。崩剣は勇者パーティにいたんだ、王族関係者と知り合いでもおかしくはないのか。ならまぁ遅かれ早かれピジョンにはボクの記憶喪失がバレていただろうし、ベルさんが伝えたのは当たり前か。
「この二人とボクの旅にどんな関係があって紹介されたのか。そろそろそこについて教えてもらってもいいですか?」
「その前にこの街の歴史について知りたくはないか?」ボクの質問をはぐらかすようなカタチでピジョンが割り込んできた。
「そうそれ!ずっと気になってたんだよ!」グレッグが撒き餌に食いつく魚のように反応した。
「崩剣は?」
ボクも気になっていたからこの場は彼女の話を聞くことに集中するため頷いた。
「私とロイ様がここへ来た経緯に繋がる話だ。」
卓についた全員の顔を重々しく見渡した後ピジョンは話し始めた。
「ここアウトラは元々、三割以上の住人がエルフの街だったのは知っているか?」
「なんとなく聞いてます」
ボク以外は知っている話だったので一人、答えるとピジョンは話を続けていく。
「十年前、前王が不審死したのち、その空いた玉座に今の国王が就任した。」
不審死、という物騒な単語にボクは驚くがボク以外は誰も、ロイ少年ですら全く反応していない。
「現国王アーデハルトはロイ様に王座が渡るまでの間だけ間に合わせの国王として君臨するフリをして全ての実権を駆使し自らの立場を盤石にし今日へ至るワケだ」
「これはこの街というより、この国の現在までの話に思えるんですけど……」ボクはピジョンにそう訪ねる。
「まぁ焦るな、ここから繋がる。――そしてアーデハルトはまずエルフを追い出すべく邪智を張り巡らせた」
「……ちっ」ピジョンの言葉を黙って聞いていたグレッグは小さく舌打ちをし、ベルさんは暗い表情を浮かべているのが見える。
微かにロイ少年の唇が動いたように見えた。
すまない。と、そう言ったのかもしれない。
「……なぜ国王はエルフを?」
ボクは気になったところを質問する。
「エルフは魔法に長けていて武力があり、さらに長寿だ。歴史を都合よく改竄し利用するアーデハルトには邪魔な存在だったのだろう……あとは色々思いつくが、下世話だからあまり口に出したくないな」
「……すみません」
ボクは誰にでもなく謝る。
本当はベルさんに謝るべきなんだろうけど、なんとなくソレをしたら……上手く言えないけど絶対に良くない気がした。
「そしてエルフと親交の深かったこの地を国王自らの命令で軍を使い攻め入ったワケだ。」
ピジョンはそう言って黙った。
話は終わりということなのだろう。
ボクとグレッグは驚き、顔を合わせる。
「そんな話聞いたことねぇぞ!」
「ボクもです!」
「ハート当時、子どもだったからだろうが……そっちのエルフは何故知らなかったんだ?」
「グレッグたちが知ったら徹底抗戦になりかねなかったからね」
ピジョンがベルさんに確認するとベルさんはそう答えた。
グレッグたち……エルフの騎士団のことか?
「姫様は知ってて黙ってたんですか?!」
「仕方ないでしょ!お父様はあんな風に呪いか病かわからない状態になって、お母様は攫われて、急に私はエルフの命運を握らされたのよ!」
ベルさんはグレッグの言葉に珍しく感情的になった。今にも泣き出しそうな慟哭にボクらは何も言葉が出なかった。
ボクは頭の中で今の言葉を反芻すると気になる部分があった。ソレは「
今すぐ詳しく訊きたいが、どうにもそんな空気じゃないので静かにしていると少しもしないうちにベルさんが「ごめんなさい」とグレッグに謝った。
その瞬間、ボクらのいた土の小屋が何者かの攻撃によって破壊された。
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