第26話 目的
ベルさんはボクの言葉に面を食らったようで何も言わずにいる。
「……やっぱり何か、言ってないことがあったんですね」
ボクがそう言うとベルさんは顔を伏せてコチラへ見えないようにした。
言っていないこと。
それが何かはわからないが何かはある。という事が今のやりとりでハッキリとわかった。
知りたい気持ちはあるが今すぐ聞き出すのは難しいかもしれない。でも、それはきっとボクらに不利益があるような事じゃないはずだ。
もしボクやグレッグに関わることなら多分教えてくれるだろうから。
お互い無言のまま時間だけが過ぎていく。
下処理の終わったグレッグに呼ばれたのでそちらへ行こうとするボクの背中にベルさんが声をかけた。
「ごめん、今は言えない……」
「……わかりました。いつか言ってくれるのを待ってます」
「ありがとう……」
隠し事されるのは好きじゃないけど、それなりの理由がありそうなのでこの話はここで一旦、止めておくことにした。
――――
ベルさんが魔法で作ってくれた土壁の建物で夜を過ごす、ボクとグレッグは同室で、隣室にベルさんがいる。
ボクの作ったそれとは違い、土でできていることを除けば普通の建物なので驚いた。
慣れてるから。と言っていたがボクが同じようなものを作れるようになる姿が想像できない。
「姫様はやっぱ凄いな。お前みたいに地面ボコボコにせずにこんなの作れちゃうんだもん」
グレッグはベッドの上に座り楽しそうに話しかけてくる。
ボクは向かい合うよう同じように座る。
「ベルさんと比べるなよ。出力が安定しないんだよなぁ……」
「お前の場合ほとんどが暴走状態だもんな。先頭においては強いから羨ましいけど」
グレッグは 他人事なのでつまらなそうにしている。
「いやいや今日とか露骨に不便、感じたけどね」
「そうだよ!お前!あれなぁ!戦ってる時にいきなり地面が揺れ出したの、こっちマジで焦ったからな!次から事前に言うかなんかしろよ?!」
「アレはホントごめんっ!自分でもどっから土を運ぶかコントロールできないからなぁ。もう土魔法はゴリゴリだよ……」ボクはグレッグに手と合わせて誤った。
土魔法はボクと違って細かいコントロールができる器用な人向けの魔法な気がする。
「つーか思ったんだけど、お前の規格外バカ出力があれば地面の土を操らなくても生成しちゃえばいいんじゃないの?土魔法はよくわからんのだけど」
グレッグは寝転がって天井を見ながらテキトーな感じで言ったがボクはその言葉が刺さった。
「……生成?って水魔法みたいに何もないところから出すこと……?」
「あぁそうだよ。わざわざ地面に手ぇつける必要もなくなくなるし、……って!そうなったら戦闘中できる事増えそうじゃね?」
寝転んでいたグレッグはガバッと起き上がり一人、ボクの新しい戦い方を模索してくれている。
「え?あれっ?土魔法って地面に手つけなくていいの?!」
ボクはベルさんや魔王が土魔法を使う時の姿から勝手そういうもんだと思い込んでいた。
……でも、よく考えたらアズウェルの部下、ハウラスが確かに手を地面につけずに土魔法を使っていたことを思い出す。
「……とりあえず明日起きたら試してみようぜ!幸い時間はたっぷりあるわけだし」とグレッグは横になるのでボクも横になってロウソクの火を消した。
ちなみにこのロウソクもベルさんに貰ったものだ。
塩といいロウソクといいボクらの考えの浅さがよくわかって恥ずかしくなる。
そんなことを考えながらボクは眠りについた。
――――
翌朝、目が覚めると真っ暗で何も見えなかった。
土壁に囲まれた部屋に小さな換気用の窓をつけてもらったがあいにく外は雨らしく窓から陽の光が入ってこなかった。
「……ぐごっ……」
寝言?かわからないがグレッグはまだ寝ているらしい。見た目と違って豪快なやつだがイビキはなかったようで助かった。
が、土壁の臭いと素焼き魔獣肉の獣臭さが混ざり合ってあまりよろしくない目覚めだった。
木の扉を開けて寝室を出ると既にベルさんが起きていた。
「おはよう」
コチラに気がついたベルさんが木で作ったコップをこちらに掲げる。
「おっお、おはようございます」
寝ている間に少し喉が乾燥したのかくぐもった声でボクは挨拶し返した。
朝から美貌が眩しすぎるのでさっきまで眠たかった頭が一気に覚醒したが代わりに少し緊張してしまう。
「顔洗う用の水、私が出そうか?」
「いえ、大丈夫です。自分で出します」
「うそ、どうせ大量に出して水浸しにするでしょ?ただでさえ雨で水だらけなんだからやめてよ?」
使い勝手のいい量だけ出す訓練しないとな……。
「『
ベルさんは程よい量の水を魔法で出してくれた。
お礼を言ってそれを受け取る。
……桶に張った水を見てボクは疑問が浮かんだ。
「水魔法って土魔法と違ってどこかから水を持ってきてたりしないですよね?」
「……?……あぁ外が穴だらけだったのって土魔法使うために周りから持ってきたんだ。ハートなら生成したほうが速そうなのに」
「やっぱり、土魔法も水みたいに生成できるんですね。」
「まあね。でも普通は土とか風のようにあるものを利用した方が魔力を消費しないんだけど、ハートの場合はそういう普通の悩みとは無縁でしょ?だったらわざわざ地面触るより生成したほうが良いんじゃない?」
「そもそも地面触らないと使えないと思ってました」
ボクは頭を掻きながら少し恥ずかしい告白をした。
ベルさんは呆れるような驚くような顔をして「知らなくても使えちゃうんだもんなぁ……」と寂しそうに呟いた。
詳しくはわからないけど普通、皆んなが苦労して覚えていく魔法をボクは簡単に使えてしまうことになんとなく罪悪感を感じる。
『失った記憶のボク』がボクと違い、少し素っ気なく冷たい印象の大人になっているのはそういうことの積み重ねとかだったのかもな。なんて少し被害者ぶってみる。
まぁ実際は家族のこととかが関係ありそうだけど……。
「おいーっす……」げだるそうにグレッグが起きてくるとベルさんの存在に気がつき、すぐに背筋を伸ばして謝罪する。
「旅の間はあんまりそういうの気にしなくて良いよ?帰ったらダメだけどね」と優しく許されていた。
こうしてボクは三人で旅に出た。
まずは過去、最もエルフの町と交流が盛んだった町『アウトラ』、そしてそこでボクの生まれ故郷ロックデールの情報を手に入れる。
建物を出てすぐ、ベルさんは魔法でボクのやった雑な分も含めて地面を整地してくれた。
崩れた土塊の中からボクが圧殺したエイファンクの死骸が出てきてしまい朝とは思えない悲鳴が辺り一面に鳴り響いた。
「ごめんなさい」
ボクはエイファンクの件で説教を受けながら旅路を急いだ。
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