第19話 魔王襲来?

 「――我になんだって?」


 そんな言葉が聞こえてきた方向を向くと、そこには空に浮かぶ『誰か』がいた。


 褐色の肌に銀の髪、背中には黒い翼の…………少女?

 魔族なんだろうけど、その幼い見た目のせいで威圧感はまったく感じない。


「……」「……」しかしベルさんもグレッグも言葉を失ってしまったようで固まっている。

 まぁ仕方あるまい、彼女の姿は少女ではあるが、今の話の流れからするとその少女は……。


「我は魔王フニゴルスじゃ。おい!そこの白黒頭、キサマが『人類の崩剣』だな。ウワサに違わぬ奇怪な頭をしておるのー?」


 くそっ!やっぱりこの子が魔王か!

 なぜこんな嫌なタイミングで現れた?

 しかもボクが実はかなり気にしてる白髪部分を初対面で弄りやがった。

 ボクは昔から『白髪をバカにしたやつは許さない』って決めてるんだ!

 

 ボクは後退りしつつ迎撃体勢をとる。

 今のボクに何ができるか、魔王に何が通用するかわからないが、せめてベルさんたち二人は逃がす。

 そして白髪をバカにした借りを――。


 ――って、あれ?

 

 おかしいな。 

 ベルさんもグレッグも完全に固まったまま動かない。

 いくら魔王がいきなり現れたとはいえ、ここまで硬直していてはマトにしかならないし、その危険性がわからない二人とも思えない。

 とにかく逃げてもらう必要がある。


「二人とも早く逃げてください!ここはボクが――」


「――あなたはいったい誰なの?」

 

 固く閉ざしていた口がようやく開いたと思ったらそんな言葉がベルさんの口から発された。


「誰ってこの子今、自分で魔王って――」

「――魔王はこんな小さな子どもの姿じゃないんだよ」

 ボクの言葉をグレッグが遮った。

 どういうことだ?

 それじゃあこの子は魔王を語るただの魔族?

 魔族の上下関係に疎いからわからないけど、果たしてそんなことが許されるのか?

 

「ほほう?お前らエルフは前の魔王を知っておるようじゃのー。ベンキョー熱心だな!!そーじゃ!我は新たな魔王フニゴルス様じゃ!」

 そう言って魔王少女は地面へと降りてきた。


 今なんて言った?

 新たな魔王?

 魔王って代替わりとかあるんだ……じゃなくて。

 

「キミが新しい魔王を名乗るのなら前の魔王はどうなったんだ?」

 ボクは半身になっていつでも魔王の攻撃に反応できるよう構えつつ魔王へと訪ねた。

 

「あーん?!死んだに決まっとるじゃあろうが!……キサマがウチの親父を倒してくれやがったからのーこの白黒頭!」

 ビシッと指差すその先はボクだ……。

 ボクが?!え?


「ボクが?!」

 思わず自分で言って自分を指差す。

 それくらいには衝撃的な話だ。

 いつの間にボクはそんな大それたことを?


 ベルさん達に聞いてみようと振り向くと二人とも魔王が倒されたことを知らなかったらしく驚きを隠せずにいる。

 

「ああーん?なんだキサマその腑抜けた顔は!まさかほんの数日前のことをもう忘れ……ってあれ?キサマ、見た目はウワサと同じだけど、なんというかウワサで聞いてた雰囲気とてんで違うのぅ?まさかキサマ、影武者が何かか?」


 くっ!マズイ、疑われてる!

 もし、ボクが記憶喪失状態だってバレたら……どうなるかわからない。わからないけどヤバいことになりそうだってのはわかる。


 新魔王の思いがけない発言に冷や汗をかくボクを守るようにベルさんが新魔王に話しかける。


「わかりました。……で?その『新魔王様』直々にどのようなご用件でいらっしゃったのですか?」

「なんじゃお前は?顔が可愛いからって我に偉そうにするなよ?我魔王じゃぞ??ぞ?ぞ?」

 

 新魔王は唐突に目の前の空間を殴り始めた。

 なんだアレは?何をしている?

 まさか空気を殴っているのな?

 ボクの知らない魔族特有の魔法とかか?!

 


「自己紹介が遅れてすみません。私の名前はベル=ゼブール=スロベルケ。これでわかりますか?」

「スロベル……姫様か!?くぅーいきなり目的の相手に会えるとはさすが我!魔王が過ぎるー!――んん?!なぜエルフの姫と崩剣が一緒におるのじゃ?!まさかキサマら仲良しなのか?!」


 さっきからコイツは何がしたいんだ?

 何を言っているのかもよくわからない。

 

「お前の目的はなんなんだ?」

 

 無意識に口をついた言葉に万感の思いが乗った気がする。そうだコイツの目的がわからない。

 エルフの町を襲うつもりならボクたちに声をかける必要なんてないはずだ。


「そらあれじゃあ!わかるじゃろうが……って、その前に我の質問に答えるのが先じゃろうがい!先代を瞬殺したからって偉そうにするな!我は新魔王、いや真魔王じゃい!」

 

 魔王は急に地団駄を踏み始める。

 なんだこの少女、さっきから言動が幼すぎる。

 まさか魔王を名乗っているのに見た目のとおり……幼いのか?だとしたら色々と腑に落ちるが……。

 

「我々はつい先日、出会ったばかりですが魔王軍、いえ旧魔王軍四天王が一人、アズウェルとその部下の悪行をコチラの崩剣によって納めていただいた折り、多少関係ができました。それを仲が良いというのは人によってまちまちでしょう」


 コチラもコチラで急にベルさんがをしながら早口で捲し立てる。すると魔王は

「……ん?なるほど?」とキョロキョロしながら適当に相槌を打った。

 

 どうやら魔王は今の話の理解を諦めたようだ。

 わかった。

 この子は見た目通り幼いのだ。

 ボクはそう確信した。


「とりあえず、お前らは別に仲良くはないんだな?よろしい。なら話してやろう。」


 そう言って魔王は地面に座るも、さっきボクの放った水魔法のせいで地面はびちゃびちゃだったことに気がついていなかったらしく座ってから凄い怒ってる。

 

「さっき地団駄踏んだ時に気づけただろ」ってグレッグが小さくツッコんだら魔王は「たしかにの?」と言っていたので多分この魔王、嫌なやつじゃないかもしれない。


 ベルさんが土人形を出し、ボクがさっき轢き倒した木々を使って簡易的な椅子を作ってくれたので四人で座った。


「はー、ゴーレムは便利じゃなあ。我も使えるようになりたいのー」

「魔王様なら魔力に余裕もあるでしょうし簡単に覚えられるのでは?」 

 なんてベルさんは魔王と普通に雑談混じりで話しているがグレッグはあくまでも警戒状態だ。さすがエルフの町を護る騎士団様だな。


 魔王登場時は二人とも固まっていてどうなることかと思ったが、それは元の魔王と違いすぎてビックリしていただけだったようで二人とも今はもとの調子を完全に取り戻したようだ。


 これで一安心と思いボクが座ると、

「俺だけ完全に場違いだな……」とグレッグが呟いたのが聞こえた。あれ?もしかして警戒状態なんじゃなくて、ただ緊張してるだけか?


 ……まぁ仕方ない。彼からしたら今この場には新たな魔王、エルフの姫様、そして『人類の崩剣』とかいう仰々しい二つ名を下賜された男が同席しているのだから普通に考えたら緊張しない方が難しいだろう。


 と言ってもボクは未だ崩剣としての自覚と言うものがないんだが。


 そして魔族とエルフと人間の偶発的で突発的な三者会談が始まった。


 さて…………どうしてこうなった?

  

 

  


 

 

 

 

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