第18話 ボクの魔法能力
町の外へ出てすぐのところでグレッグが待ってくれていたが、どうやらベルさんが一緒に来ていた事に今更ながらに気がついたらしく困惑していた。
グレッグは意外とベルさんに対して敬意を払っている節があるのは単に姫様とその……あれ?そもそもグレッグやその兄たちってどういう役職なんだ?
「あの、今更だし、関係のない話で申し訳ないんだけど、グレッグたちってさ、どういう役職になるの?」
「役職?」「それって今、話す事?」
グレッグは残念ながらピンと来てないし、ベルさんは少し呆れている。
「ごめん、忘れて……」
ボクは諦める事にした。
いいんだ、どうせ知らなくても関係性は何も変わらないし……。
「……グレッグ。この町でのあなたの役割とその名称が知りたいらしいわよ。ようは今更だけど自己紹介ってわけね」
露骨に落ち込んだボクを見かねてベルさんがフォローしてくれた。
そういう優しさが刺さるのよなぁ。
「あぁー!なるほど、そういえば確かにちゃんとした自己紹介はしてなかったかもな。――名前は今更いいな。仕事はエルフの騎士団(見習い)だぜ!」
「ん?今なんか小声で足さなかった?」
エルフの騎士団、の後に小さく言葉を付け足していたように聞こえたが勘違いか……。
「……キチンと見習いって言いなさいよ、全く。ちなみにもう知ってると思うけど、私はほら……わかるわね?」
自分でわざわざ姫様と名乗るのが恥ずかしいのかそれ以上は言いたくないと言いたげな雰囲気なのでボクは察した感を出して頷く。
「よし!じゃあ始めましょうか!」
ベルさんは無理矢理に話を終わらせて張り切って仕切り始める。
「で?グレッグ、何からするの?」
「まずは色々試してみて、崩剣と今のハートの違いを確かめてみようと思います。もしかしたら使えなくなってる魔法があるかもしれないので」
過去のボクとの違いを知ることから始めようってことか?どちらかというと感覚派に見えるのにグレッグはまたも意外に論理派だ。
「まずは……エアロと風刃は使えたんだよな?」
「うん。割と暴走気味だけど……」
正直な話、暴走気味というか完全に暴走してるのを無理矢理、打ちだしてことなきを得てるだけとも言えるが。
「キミがハウラスを相手にした時、連続でエアロを打ちだしてたじゃない?あれって練らずにあの威力なの?」
「……ねる?」
ねる?ネル?寝る?……話の流れからすると『練る』かな?
すぐに放たないで掌にキープしておく状態が練るっていうのかな?
ボクはすぐに答えず考え込んでしまう。
「……はぁ、つまり素の威力でアレってことね」
ベルさんはまたしても呆れたようなポーズを取る。
ボクはこれまで何度、彼女を呆れさせているのだろうか。
「せっかくだし、そのエアロちょっとだけ見せてもらってもいいか?」とグレッグに頼まれたので適当に人の居なそうな方向へ向けてエアロを放つも、いくらかの木々を巻き込んで倒してしまったあとすぐに立ち消えた。
不思議と今まで何回か撃ってきた中で最も威力が弱かったように見える。
「……そうか今まではもっと必死にやってたから威力が高かったのかも」
言い訳をするわけじゃないが多分、気持ちの入り方とか必死さがないからこの程度の威力なんだと説明するが、どうもグレッグは納得いかないらしい。
「いやいや、おかしいだろ……」
「そうなの?じゃあもうちょっと集中してやってみるね」
「はぁ、違うでしょ。逆の意味よ」
……逆の意味?
「初級魔法にしては威力が高すぎるってこと」
「はい。姫様の言う通りです。ただのエアロがここまでの威力とは思いませんでした」
今度は二人とも呆れているようだが、こればっかりは仕方がない。だってボクは他の人の魔法なんて全く見たことがなかったんだから。
「そういう意味だったのか……」
「初級魔法って普通はもっと生活に便利くらいっていうか……見せた方が早いか」
グレッグはそういうとコチラに向けて初級魔法を唱えた。
「
ブワッと風が吹いて前髪が持っていかれる。
思わず防御の姿勢をとったが必要はなかったようだ。
「……わかったか?この程度なんだよ。普通は」
「な、なるほど……」
いきなりのことで驚いて思いっきり口を開けていた為、喉の水分が丸ごと持っていかれて喉が張り付いてしまう……。
「かはっかはっ」
「……え?どうした?」
「はぁ……どうせ口開けてたから喉が渇いちゃったんでしょ?グレッグもいきなり撃っちゃダメよ。ハートの中身はまだ子どもなんだから」
声が出ないので頷くことしかできない。
「
ベルさんが何かを掬うかのように両手を空のまま唱えると掌から水が湧き出てきた。
噴水のように湧き出た水を掌で掬い取って飲み干し、ボクはようやく声を取り戻した。
「あ、ありがとうございます……」
「ごめんな。……しかし、魔法の威力そのものはウワサ通り崩剣のそれなんだけど……なんか、締まらないんだよなぁ……」
グレッグの中でボクの好感度的なものが下がったのを感じる。
「じゃあとりあえず今、私がやった魔法やってみて?」
と言ってベルさんはボクの両肩を軽く叩いた。
「え?あっはい」
何も考えず返事をする。
たしか、アックアとか唱えてたな……掌から水が出るイメージなら向きが大事だ。自分にかかりたくない。
誰もいない方向へ向けて両手を突き出し唱える。
「
唱えた瞬間ドバッと溢れ出た水が森の方へと流れていき勢いのまま小さな木々を引き倒す。
土も石も巻き込んで流れていくそれはまるで土石流のようだ。
「もういい!ハート止めろ!」グレッグは焦ったようにそういうが残念ながら止め方がわからない。
「魔法はイメージ!水が途切れる様子を思い浮かべながらもういいって念じて!!」
ベルさんに言われた通りのイメージを頭の中で浮かべる。
「水が途切れるイメージ、水が途切れるイメージ」
ゆっくりと掌にかかる圧が減っていくのがわかるが、まだ多くの水が掌から溢れてる。
「止まれ!止まれ!」
…………ようやく止まった。
あたり一面を水浸しにして木々をいくつも薙ぎ倒しようやくだ。
「……すみません。初めての魔法で……」
これは完全に言い訳だ。
人に被害が出ない場所でやって本当に良かったと思います……。
「出力が異常ね。コントロールとかって話じゃないわ。生活に支障が出るレベルよコレは。しかもこれだけの威力で全く疲れた様子もないでしょ?」
「この威力……ハート、お前やっぱ本物の崩剣なんだな……」
二人揃って困惑している。
いや正しくはボクも含めて三人で困惑する。
「まぁ、でも逆に言えばこれだけの威力が常時出るなら超がつくほど戦闘向きなわけだし、いっそ良かったと思いましょう!」
「確かに、姫様の言う通り常にこの威力なら本当にちょっと、鍛えるだけで魔王にすら完勝できるかもしれません」
「魔王に――」
――「我になんだって?」
薙ぎ倒した木々の向こう側の空からそんな声が聞こえてきた。
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