第17話 ボクが倒します
「ボクが倒します?キサマ自分が何を言ったかわかっているのか小僧!!」
大婆様の一喝で場の全員が黙り、背筋が伸びた。
怖い。ここ数日で会った誰よりも怖いが、ボクは大婆様の眼をまっすぐと見返し繰り返す。
「ボクが
「……全員?」
辺りを囲う誰かがそう呟いた瞬間、大婆様とベルさんが睨みを利かせたので全員が自分じゃありませんって顔をして発言者が誰かはわからなくなる。
まぁそんなことは本題じゃない。
「全員って?」ベルさんが代表して再度聞き直してくれた。
ふうっと息を整えると「さっさと説明しな!」と大婆様に急かされた。
「ボクが四天王アズウェルを倒します。そうしたら多分、魔王が怒ると思うので魔王も倒します。」
「は?!どうやって!いくらキサマが崩剣とは言え記憶がないお子様――」大男が突っかかってくるが
「
「――…………」口だけ動かすがなにも聞こえない。
声を消す魔法?そんながあるのか…………あれ?なんか聞き覚えがある気が――。
――っ!!
頭痛がする。頭の中で誰かが必死に暴れるような感覚に襲われてボクは膝から崩れる。
「ハート!!」ベルさんがすぐに抱えてくれたのは感じる。
「すみません。すぐ収まると思います……」
ボクはベルさんの手元からすぐに離れて近くの木に寄りかかる。
「いったいどうしたの?」
「わかりません……急な頭痛……がっ……!」
断続的な頭痛が続く。なんだ、こんなこと今まで……なかったのに……。
「そんな調子で魔王を倒すなんてよく言えたもんだね。考えが甘いんじゃないかい」
大婆様の呆れたような声が聞こえた。
「四天王が魔王の手下だってわかってるのかい?四天王どもが勝てない相手、それが魔王だよ。」
「でもハートはさっき初級魔法で四天王を押し返したんだよ?」ベルさんがボクの代わりに反論してくれた。がそれにさらに反論をしたのは意外な人物だった。
「初級魔法で押し返したって言うよりか、実際のところ崩剣ってのは初級魔法しか使えないんだよ」
グレッグがグレッグ自身の見た目に戻っている。
やほっ!とグレッグの隣でパーシィさんが手を振ってる。彼女に戻してもらったのか。
「待ってよ、じゃあなんで変身魔法は使えたの?あれはいくつもの属性を掛け合わせた複合魔法なんじゃないの?」
そうだ。今朝唱えた変身魔法は……
「いやー実はあれ私のイタズラだったりしてぇ」
「「はあ?!」」
気恥ずかしそうに頭を掻いて戯けるパーシィさん、いや、もうこの人にさん付けはいらない気がする。
パーシィは「タハハッ!」と笑いながら走り去っていった……。
「そういうことみたいです。ご迷惑おかけしました」
グレッグはベルさんに深々と頭を下げて謝るが彼が謝る必要があるのか謎だ。
いつの間にか頭の痛みが治ったのでボクから質問をする。
「あの場にパーシィはいなかったと思うけど?」
「だからアイツは専門家なんだよ。エン婆の家と近いって言ったろ?俺らが感知できない距離から魔法を掛けたんだよ」
……そんなことが可能なのか。
あの時エン婆の住む小高い丘から辺りを見渡した時、確かにいくつか近くの家はあったけど、それなりに遠かった気がしたんだが……。
「あの小娘にはいい加減誰かお灸を据える必要があるね」大婆様もお怒りのご様子で大男に話しかけていた。
殺伐としていた場の空気が弛緩してしまい、なんとなく全員がなにかを待つような空気が訪れる。
「……とにかく、ボクはここを出ようと思います」
当初の予定通りだが、それが一番丸く収まるだろう。追い出されるつもりはなかったが仕方ない。
「アズウェルはどうするんだい?あれはアンタのせいで相当怒ってるよ」
「はい、大婆様のおっしゃる通りだと思います。なのでまずアズウェルを倒すのを最優先にします」
「どうやって倒すの?さすがに初級風魔法で倒せる相手じゃないでしょ?風刃だって当たるかどうか……」
ハウラス戦を間近で見ていたベルさんが不安そうにするんだから他の人はもっと信用できないだろうな……。
「グレッグ、キミならボクがどんな魔法で戦ってたか、ある程度知っているだろ?それを全部教えて欲しい。覚えてる限り全部」
「なるほど!!確かにそうだ!忘れているなら教えて貰えばいい!良かったなグレッグ!崩剣マニアな、お前の雑学がようやく日の目を浴びる時が来たな!」
……グレッグの兄、エルフの防衛隊隊長が人混みの中から大声を張り上げた。
「グレッグ、頼めるかな?」
「……任せろ。でも俺はマニアじゃないから、ある程度しかしらねぇぞ」
「嘘つくな!崩剣のことなら全部知ってると豪語してただろう!」
またもどこかからグレッグの兄が叫ぶ。
「とりあえずここから離れよう。試すにしても町の外の方が安全だ」
そういって全速力で走り出したグレッグの後をボクは追いかけた。
「二度と戻ってくるなよ厄病神」
大婆様の側近の大男にそんなことを言われた。
「気にしなくていいよ。あの人たちはずっと前からああやって嫌なことばかり言う人たちだから」
いつの間にかボクと並走するようにベルさんもついてきていた。
「え?!なんでベルさんも?」
「崩剣の魔法に興味ある……っていうのは建前で、ホントは私も旅についていきたいんだ。ここは私には狭すぎるんだもん」
ベルさんはそう言って少し悲しそうに笑った。
「最初に会った時も一人で外出してましたよね?アレって逃げようとしてたんですか?」
「逃げるって言うとちょっと嫌な感じだけど……まぁそうだね。最後まで逃げ切るつもりはないけど、いろんなことが嫌になって町の外へ勝手に行くのは私のストレス発散方法なの」
その悲しそうな表情を見て、なにもかもを失って自由になってしまったボクには幾つもの縛りの中生きる彼女の苦難が理解できない。
できないけど……なるべく理解する努力はしようと思った。
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