第14話 最後の四天王襲来

「ん?なんだこれ……俺の身体が小さくなってる?これってまさか変身魔法メタモルフォーゼかっ?いきなり使えるなんて凄いな。さすがは崩剣だ」

 グレッグは自分の身体が別人に変わっていることを色々と動かしながら確かめている。

 

「呟いただけなのに発動したって事か……あっ、グレッグちなみに言うと、その身体ベルさんのモノだから」

「ベルさ――姫様かよ?!ヤバいだろ!なんてことしてくれたんだ!」


 グレッグは急に慌てふためいている。詳しくは分からないけど不敬罪?とかそういうのがエルフにもあるのかもしれない。

 

「あぁ確かに、ごめんすぐ戻すよ……ってどうやるんだろう?」

 ボクはなんとなく手のひらをグレッグに向けるが何をどうすればいいのか分からない。


「この手の持続魔法は普通、時間制限があるけど……」

 なるほどそういうモノなのか……。

「それってどれくらい?」

「人によるとしか言えないな。普通なら小一時間、パーシィはたしか半日近く持たせられるはずだけどアイツは専門家だから参考にならないんだよなぁ……それにお前の、崩剣の魔力量って規格外なわけだし、もしかしたらパーシィより長いかも……」


 どうやらグレッグは相当焦っている様子で頭を抱えている。

「ご、ごめん。そんな大変なことになるとは……ボクも一緒にベルさんに謝るよ!」


「はぁ?」とグレッグは呆れたようにコチラを見た。

「やべーのは姫様じゃねーよ!もっと他の、年寄りとか頭のかたーーい連中だよ!あの人らは本当に古いタイプのエルフだから姫様への溺愛っぷりもヤバいし……人間のお前なんか下手したら見ただけで石とか投げられる可能性すらあるぞ。」


「それは…………謝るとかってレベルじゃないね」

「そういうこと!謝ったところであの人らはそもそも聞いてないって……って、パーシィに頼んで解除して貰えばいいじゃん。」

 悩んでしゃがみ込んでいたグレッグは急に立ち上がってそう言った。

 

「簡単な話だったわ」タハハと恥ずかしそうに頭を掻くグレッグに「そのパーシィさんは近くに住んでるの?」と訊ねた。

「あぁすぐそこだよ。パーシィとかエン婆みたいに一つの魔法を専門的に極めようって人らはだいたい離れたところに居を構えるからな」

 そんなあるあるがあるのか。

「それってなにか理由があるの?」

 とボクが言ったその時――――。


 

 


 バフゥゥゥ〜ッ!


 なんだか最近聴いたような馬鹿げた音が辺りに響いた。「なんだっけコレ?」とグレッグに訊ねるが彼は青ざめた表情のまま動かない。

  

「おーい?グレッグ?どうした……ってまさかアレって」

 そうだ……忘れてた。あの音は――。

「アズウェルの軍隊だ!!」

 グレッグは大声でそう叫ぶとすぐさま集落の方へと走り出した。

 ……魔王軍四天王アズウェル。

 昨日ボクが倒したハウラスのボスだ。


 上空を見ると前に見た時とは比べ物にならない数の魔族たちが飛んで来ているのが見えた。

 あの時、ハウラスによって逃がされた魔族共が仲間とボスを引き連れてきたってことなら――ボクの責任だ。

 ボクもグレッグの後を追って駆け出した。

 小高い丘から転がるように疾るボクらは何度も転びそうになるが必死にバランスを取って駆ける。


 その甲斐あってアズウェルが襲来するよりも前に集落の広場的なところへと辿り着いた。

 広場には既に大勢のエルフたちが何事かと集まっている。「全員、家に隠れてろ!コレはいつもの勧誘じゃねぇ!」グレッグは民衆に叫ぶが皆こちらの声が届いていないのか動かない。

 

「エンゼルファー様、グレッグの置き手紙で一緒に旅に出たと聞いていましたがグレッグはどこへ?」

 

「?エンゼルファー様?……ボクか?!」呼ばれ慣れていない、記憶にない名前で呼ばれてもすぐに自分が呼ばれていると理解できない。

 

 声のする方を見ると若いエルフの集団が武器や防具を整えて隊列を組んでいた。声の主はその中でも一際大きく精悍で隊長然としている人、グレッグの兄だった。

「兄さん!アズウェルが!」

「??姫様……なぜここに?!」

「はぁ?ああっ!!やべぇ!そうだったあぁ!!!」


 ベルさんの外見のままグレッグは吠えた。

「ち、違うんです。これはボクのせいで――」

「――姫様がおかしくなったのはキミのせいなのか?!」

「違うんだ兄さん!そんなことより今は――」


 いくつもの影が急に現れ陽が隠れる。



  バフゥゥゥ〜ッ!


 またしても馬鹿げた音が鳴り響くとバサバサと大きな羽の音とともに、そいつは降り立った。

「ベル=ゼブール=スロベルケぇ!会いたかったぞ!我が未来の妻よ!」

 

 鷹を彷彿とさせる大きな羽根に巨大なツノ、うっすら赤みがかった茶色の肌……。演劇じみて馬鹿げたことを言うこの男が恐らく四天王アズウェル。


「……」「……」「……」誰も何も言わない。

 虚無の時間が流れる……。

 痺れを切らしたのアズウェルだった。


「なぜ未来の夫を目の前にして何も言わない?!ベル=ゼブール=スロベルケ!!」


「……」「……」「…………」

 全員が黙ってグレッグ(ベルさんの見た目)に目を向けるが本人は気づいていない。

 またしても虚無の時間が流れかけるが――。


「アズウェル!何度も言ってるが私はアンタのところへ嫁になんか行かない!!!!」


 広場の反対側からそんな声が届く。

 そこには仁王立ちで腕を組んだベルさんが立っていた!頼もしい!!


「ベル=ゼブール=スロベルケ……が二人?」

「……」「…………」「…………あっ、」

 ようやくグレッグは状況を理解したらしい。

 アズウェルが来る直前、隊長に説明しようとしてた時は自覚していたはずなのに今の今まで急に忘れていたのはアズウェルから感じる謎のプレッシャーのせいだろう。


 戦闘経験なんてハウラス戦しかなかったボクですら感じるんだ。さっきから防衛隊?のエルフたちが動けていないのも仕方ないだろう。

 魔王軍四天王の肩書は伊達じゃない……。

 本当に記憶を失う前のボクはこんなレベルの相手と戦って勝てたのだろうか?


「なぜ二人に増えているんだー?!」

 アズウェルはそう言うってふざけた踊りをし、驚きを表現しているがコチラへ気がつくと大人しくなった。


「崩剣!キサマ本当にいたのか。部下たちの勘違いかと思っていたんだがなぁ……」

 その言葉でそこにいた全ての魔族とエルフがコチラへと注目したのがわかる。


「……ハウラスをやったのはボクだ。エルフの人たちは関係ない」

 アズウェルの殺意に満ちた目をしっかりと見返してボクは宣言する。

「ボクを恨むのも襲うのも構わない。けどここの、ベルさんを含めた人たちからは手を引け」

 ……エルフの人たちは魔族と手を結びたがってる人が多い……。

 人と手を組めない……組みたくないから。

 人間対エルフ魔族連合なんてことになるのかもしれない……それはなんとしても止めなくては。


「――お前、本物の崩剣か?」

 アズウェルはさっきまでと違い不思議そうにコチラを見ている。

「一応本物だと思うけど?」

 周りに確認するように顔を向けるとグレッグ(見た目ベルさん)や防衛隊の面々、本物のベルさんも頷いてる。

「崩剣はこんなんじゃなかったはずだ。もっとみたいな――」


 そう言ったきりアズウェルは凍り付いたかのように動かなくなった。誰かが時間を止める魔法でも使ったのか?


「――ははっそうか!わかったぞ!エルフの姫君が二人になったのも、キサマがそんな人間のような表情をしているのも!」


 何かに合点がいったらしくアズウェルは踊りながら喜びを表現している。

 なにがわかったのかさっさと話してくれればいいのにめんどくさいやつだ。


 鼻歌混じりで踊るアズウェルをみんなで観るという過酷な時間が始まったがその実、魔族たちに気づかれないよう防衛隊の面々が一般人を広場から避難させてるのが確認できた。


 ここが戦場になる可能性を想定している?

 もしそうなら、先日までと違い、エルフの防衛隊はのを辞めたということだとボクは思う。


 人間たちに虐げられ、ここ魔王領に追いやられたエルフたちが魔王領最大派閥である魔族と友好的に過ごしたいのはわかる。

 ハウラスが来たときもギャラリーは別に嫌そうじゃなかった。あの時、嫌そうにしていたのは……勝手に結婚させられそうなベルさんだけだった。

 

 ベルさんの犠牲の上に平和が成り立つんだとしたら――誰かのために誰かが犠牲になるなんて……ボクには納得できない。

 

 ボクはまだ精神的に未熟だから――。



 

 

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