第11話 ボクはハート=ロックデールだ。って顔

「ボクはハート=ロックデールだ。って顔してるな。」

 グレッグに図星を突かれる。

 

「どんな顔だよ」「そんな顔だよ」

 ハハっと二人して笑った。

 見た目も歳も種族も違うし出会ったばかりだけど打ち解けているのは彼の屈託の無さのおかげだろう。

 いい意味で緊張せずに話せる。


「ハート……いや崩剣って呼んだ方がわかりやすいかもな。崩剣はご存知の通り炭鉱町で生まれ、十四歳で成人を迎えた至って普通の少年だった」

「ボクの記憶に残ってる部分だね」

 そうだ。とグレッグは頷き続けていく。

 

「崩剣は成人後すぐ王国による魔法使いとしての適性検査を受け、その結果『著しく高い魔力含有量』であることが発覚した。わかるか?これはずば抜けた才能が見つかったってことだ。」

 グレッグはとても嬉しそうに、それこそ子どもが宝物を自慢するかのように語る。

 

「ボクにそんな才能がねぇ……?」

「お前が崩剣ならそうなんだよ。まぁ正直俺もまだ少し信じられないけど……。まぁいい、続けいいか?」


 そういうとグレッグは腰掛けていたベッドから飛び降りて身振り手振りを使って語っていく。

 彼にとってこの話は英雄譚のようなものなのだろう。

「崩剣はその後、数ヶ月は地元ロックデールで過ごしていたんだがウワサを聞きつけた当代のクソ勇者がロックデールへと現れた。この当代の勇者ってやつは親子共々、魔法適性もなければ研鑽もしない。剣にも不誠実なゴミ野郎と呼ばれてたんだが一応はまがいなりにも勇者として王国のゴミ貴族共に任命されて、勇者パーティを名乗ったカス共と大陸中を回って魔族やら魔獣やらと戦ってたんだ。」グッと拳を握り締めるグレッグは今にも誰かを殴りそうな勢いだ。


「勇者様パーティに対する悪口が止まらないな……」

「あんな奴に様なんて付けるな!」

 グレッグは怒るがボクとしては国から選ばれた英雄である勇者に様をつけるのは小市民として当然なわけで……。

 と、言い訳がましいボクを無視してグレッグは続ける。

「勇者パーティはメンバーが全員、人間の貴族出身で能力が優れたから選ばれたわけじゃないってんで巷じゃ嫌われていたんだ。実際倒した敵よりも逃げた回数や負けた回数の方が多いって言われてたしな。それに俺たちエルフが迫害され差別されているのも見て見ぬふりしてやがった……勇者を名乗る資格なんかアイツらにはねぇんだよ」


……なるほどそれは怒り心頭に発するのも当然か。

 勇者といえば弱者を助け強敵に怯まず向かう市民の英雄っていうのが通例だ。

 だから子どもたちは憧れるし、大人たちは褒め称えるのだろう。 


「当代の勇者には素質も人間性も実力もなかった。だからアイツらは崩剣を仲間にする必要があったんだ!」コチラを勢いよく指差してくる。

「お前がアイツらを助長させたんだぞ!!」

「そ、そんなこと言われても……」

 

「……悪い。お前に言ってもしょうがないんだよな」

 グレッグはコチラの戸惑いを察知してすぐに聞き分け良く大人しくなった。

 少し感情的なだけで基本いいやつなんだ。


「ボクは田舎者だから多分、勇者パーティに誘われたなんてなったら喜んで着いて行ったんだと思う。炭鉱町が嫌いだったわけじゃないけど……けどやっぱり王国の貴族に選ばれた勇者様……勇者にスカウトされたら……」

 田舎だから勇者の悪いウワサなんて全然入ってこなかったし。

 

「まぁそりゃそうなるよな。悪かったよ」

「いや、グレッグの怒りも妥当だとは思うよ。その話を知った今のボクなら着いて行こうだなんて思えないし」

 その言葉が気に入ったのかグレッグはまた意気揚々と話を戻した。


「んでーどこまで話したっけ……そうだ、仲間になっちゃったんだ。ここからが好きなんだけど――」

 好きって言っちゃったよ。

「――勇者パーティに加入して直ぐ魔法をバシバシ覚えて敵もガンガン倒して!ってやってたら魔王達に目ぇ付けられちゃってさ。当時まだ十四歳とかなのに魔王軍四天王の一派によって拉致されたんだよ。」


「拉致?!ボクが?!」

「そう!お前が!」グレッグは心底楽しそうだ。


「拉致されてどうなったと思う?まだその時、崩剣は才能があったとはいえ初級魔法しか使えなかったんだよ!まぁ普通、初級魔法も年単位の修行したりするもんだけどさ。」

 そうなのか……ボクが見様見真似で初級風魔法エアロを使えたのはボクが崩剣だったから……?

 

「今ボクは生きてるわけだし、逃げ出したとか?」

「普通はそうだよな!普通はな!でも違う!なんと崩剣はたった一人、拉致された先で当時の四天王を含むその軍勢を壊滅させたんだよ!」


 ………………はぁ?!

「軍勢をひとりで?はぁ?なんだそれ?」

「だよな!そう思うよな!でもコレが本当なんだよなぁ〜」うんうんと頷くグレッグ。

 何を持って本当だ、なんて確信してるんだろう?

 いくらボクが世間知らずの田舎者だとしてもあり得ない話は信じないぞ。

 こちらの訝しげな目線に気がついたグレッグは自慢げに胸を逸らしながら「疑ってるな?」と喜んでいる。なるほど確信があるらしい。


「よし、なら聞かせてもらおうか。その確信にいたる所以ってヤツを」

「その拉致された人たちが閉じ込められてた現場から助け出されたエルフが何人もいたんだよ!四天王の一人が使ってたアジトからな!!」


 ………………。

 

 どうだスゲーだろっとでも言わんばかりのテンションで語るグレッグと対照的にボクのメンタルは落ち込んでいった。

 

「拉致されたエルフ……」。

 彼もそうだしベルさんもそうだがエルフは人間の価値観から見れば相当に美形揃いだから嫌な想像をしてしまう……。

 

「あぁ、昨日来てお前に斬られたハウラスのクズが『人間にやられた痛みをー』とかバカなこと言ってここの連中を煽動しようとしてたけどお前ら魔族だって同じことやってきただろってみんな思ってるよ。上の世代には一部本気で人間を敵視してるヤツもいるにはいるけど基本的にはハウラスに合わせてただけさ。ハウラスの後ろにいる四天王が怖いからな」


「ハウラス……」ボクが真っ二つにした魔族だ……二つに分かれた彼を思い出してまた落ち込む。

 いくら敵対していたとはいえボクはなんてことをしたんだと……。

 

 そんなボクに気がついたグレッグは「お前は悪くないよ。アイツが弱いのが悪い」と割りと独特な価値観で慰めてくれた。

 彼は見た目と違って相当な脳筋らしい。

 エルフより炭鉱町に生まれた方が向いてたかもしれない。


「えーと……そうだ!四天王の一人を軍勢ごと潰したあとも色んな活躍があって、魔王軍も魔王直属の軍と四天王の残り三人の軍勢以外ほぼ壊滅みたいなところまで追い詰めたのが三年前とかで、その時に『人類の崩剣』って二つ名を下賜されたとか。」


「なるほど……そうやって繋がるのか」

 思ったよりも端折ってくれたのか短く纏まっていたな。もっと長い話になるのかと思ってた。


 グレッグは続きを話し始めないまま黙ってる。

「あーごめん、まだ思い出さないや……そこから先の……最近の話は?」と聞くが返答はない。

 いや言い淀んでる様子だ。


「どうした?腹でも痛いのか?」

 

「……こっからは本当に聞いた話でしかないから伝えるか悩んでるんだよ……暗い話になるし、もしかしたら思い出さない方がいい類の話題かもしれん」


 日が当たるところには影ができる。

 明るい話の影の部分の話。

「どうする?」

 と、嫌そうな顔をしてコチラへ目線を送るグレッグにボクは頷いた。


「知らなきゃ始まらない」

「……知らなくてもいい事もあるけどな」

「それはボクが判断するよ」

「お前って意外と強情なのな」

 

「炭鉱町育ちだからね」


 観念したようにグレッグは両手を上に挙げた。

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