第9話 知らないお爺さん
「知らないお爺さんだ……」
ボクは目を覚ますと目の前に見たことのないお爺さんがいた。
「オバさんだよ!失礼な人間め!」
……オバさんでした。……お婆さんな気がするけど。
よく見ると耳がとんがってる……あぁ思い出してきた。そういえば四天王の側近とかいうのを倒した後エルフの集落まで後少しってところでなんか囲まれて……そこまでしか記憶がない。
「オバさん、ボクは……また記憶を?」
ゴンッ!「いだっ!?」
木のお盆で叩かれる。
「オバさんじゃないよ!お姉さんだよ!!」
さっき自分でオバさんって言ったのに……
「なんだい、その目は!文句あるってのかい!?」
「いえ!なんでもないです!」
「ふんっ!……安心おし、アンタは半日ほど寝てただけさ。あんだけの大怪我で大立ち回りしたんだって?ならぶっ倒れて当たり前さ。生きてるだけありがたいと思いな!」
「はぁ……良かった。ただ寝ちゃってただけなんですね……安心したらお腹すいちゃったな……」
……確かボクお金持ってないよな。
くぅー、ベルさんに貸してもらえるかな。
「ほらコレでも食ってな。後でちゃんとしたもん用意してやるから」
オバ――お姉さんはそういうと果物を投げてくれた。「ありがとうございます」と言いきる前に部屋を出て行ってしまった。その背中を名残惜しそうに見つめる自分に気がついて笑ってしまう。
「ふふっ。……とりあえずいただくか」もらった果物はボクの地元では見たことのない種類だが恐らく皮ごと食べて問題なさそうな顔をしてる。
……皮は剥くっぽい、食べちゃいけない味がした。
「え?皮ごと食べたの?」
「うわっ!?ビックリしたなぁ……」
皮ごと食べた部分を吐き捨てようと窓を開けたら、そこにはベルさんがいた。窓から入ろうとしてたのか?うーんなかなかに大胆だ。
「元気そうで良かったよー!いきなり倒れるからどうしたのかと思ったけどもう大丈夫そうだね。良かったよかった。」
「よかないよ!」バーンっ!と勢いよく扉が開くとさっきのお婆さんもといオバさんではなくお姉さんが入ってきた。
「エン婆ぁうるさいし扉壊れちゃうよ〜。」
ビックリしてるボクと違いベルさんは慣れた様子で落ち着いて対応してるところを見ると親しい仲のようだ。
「あの、ありがとうございます。果物も看病も……」
さっき言い損ねたお礼を告げるとエン婆はボクの手に持った果物を見つめると「……皮ごと食ったのか」と小さく呟いた。
なんか変なやつみたいな目で見ないでほしい。
こっちは初見だったんだから仕方ないだろう。と喉まで出かかった言い訳は一応飲み込んでおく。
「エン婆、記憶は戻せそう?」ベルさんは窓に腕を乗せて組み頭をその組んだ腕に乗せてゆらゆらしてる。
むっちゃ可愛い。
じゃなくてそれよりもっと大事なことが聞こえただろ!「記憶って?!エン婆さんが記憶魔法を?!」
ゴンッ!
「婆さんだぁ?!」
「す、すみません……お姉さんです……」
「エン婆にお姉さんは無茶すぎる!」
「アタシが使うのは記憶魔法なんてわけわからんもんじゃなくて『回復魔法』の応用さ。」
「回復魔法……」
「回復魔法は才能がないと初級すら発動できない特別な属性の魔法なんだよ」ベルさんは窓から手を出してボクの腕を掴むと握り込んで「はっ!」と言ったがなにも起きない。
「ね?」
「はい」……可愛い!
ベルさんの方をニヤニヤしながら見ているとエン婆が何かをベッドに置いた。パンだ!
「食べるか?」と言い終わるか否かってタイミングでボクはそれを貪り食った。
果物は嫌いじゃないけどやっぱパンが好き!
ムシャムシャ無言で食べ続けるボクを挟んでエン婆とベルさんは会話を続ける。
「で?結局、エン婆でも記憶は回復しきれなかったの?」
「アタシはできる限りのことはやったよ。でもコレは無理だね。相当な実力者にやられたとしか思えない。」
「……相当な実力者って?エン婆よりも?そもそもハートにそんなことできる相手なんて限られてるでしょ」
「さぁね。アタシより上の魔法使いなんて探せばいくらかいるだろう。それにアタシは人間の考えることはわからんよ。知りたくもないしね」
「……それってつまり魔王軍じゃなくて人間がやったって言ってるの?」
……なんだか物騒な話だ。
エン婆はなにも言わない。この沈黙が答えなのかもしれない。ボクの咀嚼音だけが部屋に響く。
「あの、そんなに凄い人……凄い魔法使いが本当にボクなんですか?」
無理矢理パンを飲み込み尋ねてみる。
「ボク今まで十三、四年間ずっと魔法なんて関係ない生活だったし、家族にも魔法使いはいないし。その崩剣って人とボクは本当に同一人物なんですか?聞いてる限りだと、どうしても自分の話とは思えないんです。」
「まだそんなこと言ってるの!?あれだけ魔法使って、魔王軍の側近まで倒したのに!?」
「ボウズ、アンタ記憶喪失がどうとか抜きに頭悪いだろ」
二人共に詰められる。エン婆に関して言えば興味すらなくなったのかタバコを吸い始める始末だ。
「だって本当に考えられないんですよ!ボクからしたら……はっきりとは覚えてないけどほんの二、三日前まで家族と普通に田舎で暮らしていたのに気が付いたら記憶喪失だのエルフだの魔法だの魔王軍だのって冗談としか思えないでしょ!」
「でも水に映った自分の姿はみたでしょ?大人になった自分の姿を」
そうだ。自分が記憶喪失で時間がたくさん失った証拠はそれしかないんだ。
「水に映った姿が本当に今のボクなんですか?!水を操る魔法とか見た目だけ変える魔法とか――」
「じゃあハウラスはどう説明するの?!」
「姫様、もういい。そやつも本当はこれが現実で事実ってことにはどこか気が付いているんじゃ。ただ認めたくないだけ。ほっといてやれ」エン婆はそう言い残しタバコのニオイだけ残して出て行った。
「……ゆっくり休んで」と言ってベルさんもどこかへ行ってしまうがボクはその後姿を目で追おうとも思えなかった。
たぶん、エン婆の言ったことは事実だ。
ボクは認めたくないんだ。
自分が大人になっていることも。
記憶を失っていることも。
魔法使いなことも。
その魔法を使って戦う道を選んだことも。
魔族とはいえヒトを殺めたことも。
自分が人によって記憶を失ったことも。
「もし本当にボクの記憶が誰かに消されたのだとしたら――」
「人間の国王の命令だろうな」
「うわっ?!……グレッグ?」
「今そこで姫様に挨拶したけど無視されたわ。お前なんか変なこと言ったか?」
ベルさんがさっきまでいた窓の外に今度はグレッグがきていた。
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