第7話 抗戦 part2


 唯一使える呪文を唱え片手をハウラスに向けると、辺りを舞い散っていた砂塵を巻き込みながら風の塊が形成される。


「魔法!?思い出したの?!」

 ベルさんの大声が後方からかすかに聞こえる。

「コレだけは知ってたんです!!」


「初級魔法だと?キサマ、この私を馬鹿にしてるのか!『魔王軍四天王』アズウェル様の――――なんだそれはぁ!?初級魔法の規模じゃないだろ!!」


 ハウラスの言から推察するに本来はこんなに大きくするものじゃないのか?

 早く放たないと……伸ばした右手に集まった風の塊は大きくなりすぎて、このままだと自分自身にも被害が出そうな勢いになってしまっていた。


 「ふざけるな!キサマ、規格外にも――」ベルさんの声もハウラスの声も風の音に掻き消されてしまう。


「吹っ飛べっ」軽くハウラスの方向へ手を押すと風の塊は暴風になり突き進んだ。

 

土牢インメイト!」

 

 土の壁が現れる。さっきボクを捕らえた魔法だ。防御にも利用できるのか?便利な魔法で羨ましい。

 土壁は生成される端から暴風に巻き込まれ防御として意味を成さない土塊と化し、ハウラス自身に襲い掛かる。


 「くそおおお!ぐわあああああ!」

 ハウラスの断末魔がこだまし遠くまで吹き飛ばされた。

 いくら魔族には羽が生えていて飛べるにしても、あの勢いで飛んでいくと素人目に見てもあれで生きていられるとは思えない……。

 巻き込まれていた石やら土塊も身体にぶつかっただろうし。


 我ながら中々に酷い魔法だったかもしれない。

 でも子供のころに聞いた話だとこんなに過激な魔法じゃなかったはずなのに……。

 

「ハート……大丈夫?」

「えっと、はい。特に問題ないです。ボクよりもベルさんこそ平気でした?石とか飛んで来ませんでしたか?なんか制御できなくて色々と巻き込んでたんで……」


「それは大丈夫だけど私が聞きたいのはそうじゃなくて普通あんな大きな魔法使ったら――」

 

真威解放リバレートッ!!!!」


 ハウラスの咆哮が聞こえたと思ったら黒い煙が巻き起こり、その中から先ほどまでの人間めいた姿とは異なる存在が現れた。

 猫のようなしなやかな肢体に斑点模様が浮かんでいて魔獣にしか見えない。

 

 「があうるうう!!」


 人の言葉すら失いあたりかまわず暴れる姿は、まさにケダモノのようだ。

 

「なんだ、あれは……?」

「あれは一部の上位魔族が使う真威しんい状態って呼ばれてるもので、とても危険で強力な姿だから……逃げよう。会話もできないし、魔力が尽きるまで暴れ続けるだけだから逃げればどうにかなるよ。」

「逃げても事態が好転しないなら逃げるな。……兄さんの受け売りですけど、ボクもそう思っています。今逃げてもヤツが仲間に伝えたら集落は危険なままですよ。」

「向こう見ずの勇気はカッコよくないよ?」

「まぁそれも同感ですけど。」


「がううっああ!!!」

 どうやらハウラスはこちらに気が付いたらしい。

 コチラへ向けて警戒するような姿勢をとる。

 正対し防御姿勢をとるが、もしこのまま飛び掛かられたら避ける間もなくボクらは倒されるだろう。

 

 「飛行魔法フェザーウォーク

 ベルさんが唱えるとフワッと浮き上がる。

 ここにくる時に使った魔法はコレだったのか。

「逃げるよ!」と言って手を差し出されるがハウラスから目を離せない。たぶん動い途端に攻撃される。そんな緊迫感がある。


 その手を無視したボクにベルさんは「私が選んだ選択なんだから勝手に背負わないで」と言ってくれたけど正直それどころじゃない。

 今にも――飛びかかってきた!


 ハウラスは長く鋭い爪で切りかかる。

 なんの武器も持たないボクはガードの為に顔の前で交差した腕を無残にも切られてしまう。

「ぐぅっ!!」

 衝撃的な痛みに情けない声が漏れる。

 

初級風魔法エアロ


 ハウラスの攻撃から距離を取るように飛んでいたベルさんが放った魔法によってハウラスもボクも吹き飛ばされる。

「……こういう使い方もあるのか」

 ボクと同じ魔法なのに使い方が違った。

 風を操る魔法というよりは風を突発的に発生させるのが本来の使い方なのかもしれない。

 熟練者のやり方はいつだって勉強になる。


 「今度こそ逃げるよ!!」

 ボクはもう一度差し出された彼女の手を無視する。

 


初級風魔法エアロ

初級風魔法エアロ

初級風魔法エアロ

初級風魔法エアロ

 呪文を唱えながら両手を交互に出し続ける。

 見たばかりの『溜めずにすぐに出す』を連続して相手に何もさせない時間をつくりだす。


 ……作り出したはいいけどここから詰める手がない……


「な、何発撃てるの……?」

 ベルさんはなにかにドン引きしている様子だ。 

初級風魔法エアロ

初級風魔法エアロ」ハウラスが大きく体勢を崩したタイミングを見計らってベルさんに尋ねる。


「すみません!この後どうしたらいいですか!?」

「……え?!どういうこと?」

「これしか使えないから決め手がないんです!」

「あっ」ベルさんは呆れたような驚いたような、なんとも言えない表情で固まってしまった。


「がるううう!!」「初級風魔法エアロ

 このまま初級の風魔法で押し続けても、ただお互い疲れるだけでどうにもならないことが明白だが……


風刃ウィンドカッター

 ベルさんが唱えるがなにも起きない。

「ふ……不発?!」

「私、風魔法は使えないの!移動魔法は近いけど全然体系が違うから!」

「があっ!!」

 また飛んできた。ダメ元でやってみるしかない!

風刃ウィンドカッター!!」


 …………コチラへと全力で飛び込んできていたハウラスが真っ二つになった……。

 切り口から溢れた血が空中に舞いボクたちに掛かった……


「うわ……」

「すごっ……ていうかツヨっ……本当に崩剣なんだ……」

「……そもそもその崩剣ってなんなんですか?」

 ベルさんもどうやら『崩剣』という単語を知っている様子だ。というかあの場にいたギャラリーのエルフたちもみんな知っているようだった。

 ボクだけが知らない……ボクのあだ名?


「……とりあえず集落に帰ろうか?着替えたいし……ここに居たくないし。」

 真っ二つになったハウラスを見下ろしながらベルさんはそう言った。


 その気持ちすごいわかります。

 自らの所業によって見るも無惨な姿になったハウラスを視界に入れないようボクらはその場を立ち去った。

 

 

 

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