第6話 抗戦 part1
「っ?!」
急に魔族がコチラを指さした事で熱狂する群衆たちが一同にコチラを向いた。ボクは物陰から顔を出すのをやめ完全に隠れるも「いるのはわかってますよ?」と魔族から声をかけられる。
完全に捕捉されているようだ。
「……はい」ボクはぐっと目を閉じ両手を挙げ隠れるのをやめて降参の意思表示をしながら物陰から出る。
「人間だ!」「殺せ!」とかみんな好き好きに言ってるのが聞こえてくるし、なにが投げつけられてるのもわかる……幸い当たっていないが。
エルフの人たちの人間に対する怒りを一身に受ける。
「……な、な、な、なんでキサマがここにいるっ?!」
エルフたちの怒号よりもさらに大きな声でそんな言葉が聞こえてきたので恐る恐る
なんだろう……知り合いなのか?
「えっと……もしかしてどこかでお会いしてます?」
「お前ら!大急ぎで
「は、はい!」魔族のリーダー格らしき男が告げると部下の様なヤツらは皆飛び去ってしまった。
「そこの半分白髪頭!なんの目的でキサマがここにいるかは知らんが――」
残った魔族はコチラへ向けて細い剣を構える。
「この命朽ち果てようとキサマはここで止める!部下たちを追わせはせんぞ!!この化け物がっ!」
………………どうしよう、すごい温度差だ。向こうはこっちを知ってるっぽいけど……
今まで盛り上がっていたエルフの人たちもなんかザワザワするだけで明らかに盛り下がっているし、この空間で唯一ボクの味方をしてくれそうなベルさんはどこかに行ってしまったらしく見当たらない。
「
「なんだこれ?!」地面がうごめき、ボクの周囲を囲うように隆起し始める。
しまった!逃げる方法がなくなる!
前後左右が一瞬で土壁に覆われてしまった。
さすが魔王軍四天王、ボクなんかが最初からかなう相手じゃなかったんだ……。
土に囲まれたこの空間はまさに棺桶と言ってもいいだろう。
「エルフの皆さん!見てください!あの崩剣を捕らえましたよ!捕らえたのはこの私『魔王軍四天王』アズウェル様の
なにやら高らかに喧伝する声が聞こえる。
ボクをその崩剣とやらと勘違いしているのかも知れないが残念ながらボクは崩剣じゃない。
いや、記憶にないだけでもしかしたら、そうなのかもしれない……。
記憶を失う前のボクはいったい何をしたんだ?
とにかくここに居続けても事態は好転しなそうだし試すだけ試してみるか、と思い土壁に手を当てて先ほどと同じ魔法を唱えようとした、その時。
「よけてっ!」
「うわっ!」
真上にベルさんがいきなり現れた。
「ふぐっ!」
「っきゃんっ!」
避けてと言われても避ける空間などないので当然ながら踏みつけられてしまう。
「い、痛いです……」
「後で謝る!行くよ!舌噛まないでね!」
「へ?――」うわあああああ?!
――ボクは空を飛んでいた。
ベルさんの小脇に抱かれて空を飛ぶボクの遥か下で「はっ!逃げるか崩剣!?――」と、なにか言ってるのが聞こえた。
結局あのヒトはなんだったんだろう。
魔王軍四天王とやらはアズウェルとかいってたし……。
「あばばあばば!」
ベルさんにさっきの魔族について聞こうと思ったが速度が速くて唇がぶるぶるしちって、まともに話せない。
着地してから聞いてみよう。
……どうやって着地するんだろう。
っていうかどこに向かうんだろう?
――――
集落がだんだんと小さく見えてきたころボクらは減速し始めた。
湖が見える。え?もしかしてあそこに落ちるの?!
「
地面が近づくとベルさんが魔法を唱えてくれたことで湖の手前でゆっくりと着地できた。
よかったぁ……さすが、ボクと違ってしっかりと魔法を学んだ人は違うな。
「さっきは踏んづけちゃってゴメンね?飛んでる時なにか言おうとしてたけどあれは?」
「い、いえ……大丈夫です。あの、さっきの魔族は誰っていうか何だったんですか?」
ベルさんは顔が暗くなってしまったので聞かない方が良かったかもと少し後悔する。
「……アイツらは『魔王軍四天王』アズウェルの部下で、偉そうに一人喋りしてた馬鹿が『ハウラス』。」
偉そうにって……まぁわからなくいもないけど。
この言いかたと物陰から見た感じを合わせると、相当にご立腹なんだろうな……。
「ハウラスは使いっ走りでアズウェルの伝言を伝えにきたの。まぁ今日、急にってわけじゃなくてここ何年かずっと言われてたことなんだけどね。なんか魔王軍で色々あったから急いでるみたい。」
「えっと、その内容っていうのは聞いても……?」
「不快だから私の口からは言いたくないんだけど……要はエルフ全体の為にアズウェルの嫁になれって話よ。」
「よめ……嫁?!そ、そういう話なんですか!?……なんか同盟とかそういう類の話かと勝手におもってました。」
まさかの方向だ……ベルさんの事を姫様って呼ぶ人もいたし、きっとそうなんだろう。お家のための結婚。規模や条件、格は違うけどボクの生まれた地域でもよくある話だ。でも――
「エルフと魔族……って種族が違いますよね?アリ、なんですか?そういうことよく知らなくて……」
「ん……?あーそっか十四歳、じゃなくて十三歳なんだもんね。忘れてたからビックリしちゃった。」
おどけて笑うベルさんの眼は笑ってなかった。
「……ごめんなさい」
「なにに謝ってるの?」
……全部にって言ったら怒られそうだけど本音としては全てにおいて謝りたい。
自分たち人間の行った事もエルフに起きた事も知らずに成人を迎えようとしていたことを。
それと――。
「昨日、ボクと出会わなければ……ベルさんは逃げられていたんですよね?」
彼女のバツの悪そうな表情をボクは見逃さない。
その表情がすべてを物語っていた。
「やっぱり、そうだったんですね。……エルフのお姫様が一人きりで外出なんて、おかしいですもんね?」
「もともと好きだったんだけどね。一人で出かけるのは。まぁ……昨日はそうね……。」
「理由を聞いてもいいですか?なんでボクの記憶のために帰ろうと?逃げるのをやめるほどの理由があったんですよね?ずっと気になっていたんです。なぜ人嫌いのエルフの里へ連れて行ったのか。なぜそこまでしてボクの記憶を戻したかったのか。」
…………気まずい時間が流れていく。
その沈黙を破ったのはどちらでもなかった。
「崩剣んんっ!!」
エルフの集落がある方角からそんな叫び声が聞こえたのでそちらを見るハウラスがコチラへと文字通り飛んできていた。
さっきとは全然違う。自身に満ち溢れたような態度だ。
「聞いたぞぉお!崩剣ん!キサマ記憶がないそうだなぁ!!ええ!?記憶のないキサマなどアズウェル様のお手を煩わせるまでもなく、この手で葬り去ってっくれるわぁ!!」
あはははぁぁ!!
馬鹿笑いのハウラスを物凄い形相で睨みつけるベルさんが「もうエルフがどうとかいいや。」と小さく呟いたのが聞こえた。
ヤツを睨みつける目は深く沈んだようだ。
今、ベルさんがハウラスに手を出せば、エルフと魔族の関係は完全に亀裂が入るだろう。
それはこの魔族が支配する魔王領で暮らすエルフたちにとって……。
「ボクが――ボクが相手になる!」一歩前に出る。
「は?なんで――」
「アズウェル様以外の四天王三人分の弔い合戦だぁっぁあ!
ハウラスは上空に浮かんだまま呪文を唱えると高速で地面の土が頭上まで隆起しコチラへ向かってきた。
「
「ぎゃうっっ――」
ハウラスの魔法がボクに届くより早くベルさんが動き、その攻撃の直撃から救ってくれた。
高速で首根っこを掴まれたので変な声は出たし、クビにスゴいダメージを負ったけど直撃するよりはマシだろう。
今さっきまでボクらのいた場所は土埃で見えないが恐らく地形が変わっているだろう……。
「ちっ!ベルさん、貴女の今の行いは人間の味方をし、全てのエルフを裏切るという選択になるという事を理解していますか?」
土埃の向こう側からハウラスの馬鹿にしたような声が聞こえてきた。
「アイツの言う通りです。ほかの人たちの為にも、ここは引いて下さい」
ハウラスに聞こえないよう小声でベルさんにそう伝え、今のボクに唯一使える呪文を唱えた。
「
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