第5話 魔王軍四天王の手下
過去の自分に思いを馳せていると誰かが近づいてくるのが見えた。若そうなエルフだ。ボクと同い年くらい……いや今のボクからすると歳下になるのか。
つーか顔ちっちゃ!男?女?服装とかの感じからは男に見えるけど顔面だけなら女の子にしか見え――
「おい人間!キサマ魔王軍四天王について知ってることを全て教えろ!今すぐにだ!」
唐突にそんなことを言われた。
「なっ?!まっ、まってくれ、なんなんだいきなり?」
「早くしないとヤツが来ちまう!早く!」
「ヤツって誰だよ?!それに四天王?そんなのウワサで聞いたことあるかなってくらいの――」
バフゥゥゥ〜ッ!
なんだか少し気が抜けるような大きな音が聞こえた。「えーと、今のは……ホルン?」「クソっ!もう来やがった!」
彼は憎らしそうに上空を見上げてそう言うと直ぐに来た道を戻ってしまう。
「待って!誰が来たのか教えてよ!」
と声をかけるも一度も振り返ることなく見えなくなってしまった。
「何だったんだ……」呆気にとられるボクを急に影が包んだ。上空を見ると複数の飛行体がこの集落に向かって着陸しようと高度を下げてきていた。
「……魔王軍四天王?」
さっきの少年がそんなことを言っていた。
話の流れから想像するとアレらがそうなんだろう。
魔王軍四天王がこんな所でいったい何を?
空中からなにか攻撃するような様子もなく遠くに降り立ったようだ。
戦闘するような喧騒もとくに聞こえてこない。
話し合いかなにかをしているのか?
……もしかしてボクをあいつら魔族に売りつけたりするのか?!
…………なにも起こらない。
何人かの人たちが少年が向かった方向へと駆けて行ったのは見たがそれ以外は何もない。
檻の中でただ時間が過ぎるのを待っていることしかできない自分が心底、嫌になる。
「だれかー!出してくれー!」
どれだけ騒いでも誰もいないし、必死に檻を揺らすがびくともしない……。
「こうなったら……」
地面に両手をつき昨日みた彼女の真似をする。
「『ゴーレムぅ!!』」
うぅ……うぅ……うぅ…………。
残念ながら何も起こらない。才能はないようだ。
もうあと試そうにも知ってる魔法は『
とにもかくにも、ここから出ない事には何もできない。もし、なにも起きていなかったら素直に謝罪です。
ボクは諦めずに檻を揺らし続けた。そしてはたと気づく。
「なぜボクはこんなに華奢何だろう……?」
二十歳のボクは炭鉱で働いていないのか?いやそんな事はあり得ない。
爺さんも父さんも兄さん達も……ボクたちはあの町に囚われ続けていくはずだ。
「……もしそうならこの身体は細すぎる。」
家族の中でも小さい方だったとはいえ筋肉が全然ついてない。
仮に、もし仮にボクがあの町から抜け出したとするなら――。
楽観思考はボクのいいところだ!二番目の兄さんはいつもそういって頭をぐしゃぐしゃにしてきていた。
子ども扱いみたいでイヤだったけど、今はあれが誉め言葉だったと思える。
物は試しだ!
「
手を正面に構えてそう唱えると手のひらに風が集まるのを感じる。
「やった!できたっ!ボクは魔法の素質があったんだ!!」
喜んでいられたのもつかの間、どんどんと際限なく大きくなる風の塊が辺りのものを吸い込み始める。
木も折れそうなくらい曲がるし、だれかの洗濯物やら干していた魚なんかも巻き込み始めた。
「やばいやばい!どうすればいいんだ!止められない!このままじゃ絶対やばいことになる!誰か魔法の制御の仕方を!教えてください!おねがいしまーすっ!!」
当然ながらなんの反応もない!
気づかないうちにボクを捕らえていた檻は跡形もなく消えていた。
「うっうわああああ!」
怖くなったのでとりあえず集落とは関係なさそうな方角にソレをぶん投げる、ものすごい勢いで飛んでいくソレを見てボクは「誰にも被害が出ないでくれ」と思わずにいれなかった。
ちなみにこの魔法はまだボクが生まれる前に炭鉱で大きな崩落事故が起こった時、偶然通りかかった旅の一団が事故の被害者を救うために使った魔法として一番上の兄から聞いたことを覚えている。兄さんはこの一件から魔法使いに憧れを持つようになり適性検査で素質なしの烙印を押された後も……エルフに興味をもって色々調べていたんだ。
そうだ、旅の一団にはエルフがいて、その人がこの魔法を使ったとか。
エルフの少年が向かった方向へと走りながらボクはそんなことを思い出していた。
……というかこのまま逃げるのが正解な気がしてきた。
ずっと様子を伺っているがどうにも何か騒ぎになって問題が起きてる様な感じもしないし、もし騒ぎになっていたとしても魔王軍四天王なんて相手にボクができる事はないし…………でもさっきの少年の言い方だと絶対問題あるんだよなぁ……。
「……と、とりあえず陰から様子を見て決めよ……」
建物や植物の陰を利用しながら身を隠しつつ前進すると少しずつ会話の様なものが聞こえてきた。
「………………!!」
訂正する、会話じゃなくて叫び声でした。その声の主はエルフの男性と……
人の見た目に浅黒いツノ、背中には翼が生えているのもいる……アイツらは魔族だ。
何体もいる……。六、七。
全部で七体……その中の一際大きなツノを持つ男が前に出て話をしているみたいだ。
「何度言ったらわかるんだ!キサマらエルフのために提案していると言っているだろ!」
「なにがエルフのためだ!お前らが我々の力を欲しがっているだけだろ!」
「そうよ!私たちは人間達とまた昔みたいに仲良くやれる日を目指して模索してる最中なんだからアンタたち魔王軍と手を組むなんてあり得ない!」……これはベルさんの声だ。騒ぎの渦中にいるみたいだな。
「姫様!黙っていてくれ!人間なんかと手を組みたいのはアンタだけなんだから!」
「はぁ?!そんなこと言ったってエルフだけで生きていく大変さはみんなも、もう十分わかってるでしょ?!」……?内紛?内部分裂?もしてるのか?
というかベルさん個人軍状態ってこと?
「嗚呼、何ということだ、姫様はかつてエルフに人間がなにをしたかもう忘れたのか?!」魔王軍の男が群衆に向かって囃し立てる。
「うるさい……!」ベルさんの罵声など無視して魔族の男は続けている。
「エルフというだけで奴隷にされ!女は慰みもの。魔法を使わせないために喉を潰され、使い物にならなくなれば殺される!」
「そうだそうだ!」「父さんはそうして殺されたんだ」「人間はクソだ!」魔族の口上で群衆は熱を帯びていく……。
「人間は殺すべきだろう?自分たちのことしか考えられない、他者から奪うことしかしない!差別し押し付け嘘ばかりの人間なんて!生かしておくほうが良くない!」
……魔族の男は群衆の心を掴んだと確信したのか拳を高々と挙げると真似する様に一人、また一人とエルフたちも拳を挙げた。
「敵は人間じゃない!シンズ王国の国王とその周りにいる奴らだ!国と人を――――」
ベルさんの悲痛な叫びは魔族たちに煽られた仲間のエルフたちによる声でかき消される。
「人間を許すな!殺せ!自分たちの土地を取り戻せ!!」
昔、領主が炭鉱町への重税をかけようとした時に見た怒りからくるそれとは違う、もっと根深い怨みの熱量にボクは気圧された。
「エルフのみなさーん!」
先程から率先して群衆を煽っていた魔族がなにかするつもりなのか、ほんの少しだけ空を飛び注目を集める。なにをするつもりだ……?
「なんで人間から迫害されたエルフたちの集落に人間が入り込んでいるんですかねー?プンプン匂ってきますよ?!」
そう言ってコチラを指さした。
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