第12話
それからお互い連絡もなく、薄曇りの日が増えて冬は本格的になっていく。
ついに、話したい事があると呼び出したのは私だ。
そこに着く電車は1時間に1本しかない。車内で会うかもと思ったが見当たらなかった。
駅のホームからは海が見えない。防風林の木々だけが見える。
しかし、堤防の階段を上がりきると一気に海原が広がる。
あの人は波打ち際から少し離れた所に立っていた。近づいてくるザクザクと小石の軋む音で気づいたようで振り向く。
「久しぶりです」
会いたかったとは言えないが、顔は正直にほころんでしまう。
ありきたりな挨拶を交わしながら、自然と波打ち際に沿って歩き出す。
波が打ち上がる時には、ゼリーのような断面が見える。漂う黒っぽい海藻や無数の小石。波は打ち上がってしまうとすぐに石の間に吸い込まれ、ツヤツヤと濡れた小石だけが並んでいる。
「それで…話したい事とは?」
あの人は歩みを止める。
徐々に冷えてきた頬。話しだす勇気を出す為顔をこする。
「私は海が好きです。子供の頃、海の近くに住んでいて貝殻や漂着物を拾って遊んだり、辛い、息詰まった時にはよく訪れました」
一息ついてあの人を見る。
「春には地元に帰ります。こちらに何がある訳でもないし、実家の親も一人暮らしで心配ですから」
「ただ、あなたに伝えておきたかった。あなたと知り合えてよかった。勇気を出せた事は私の糧になっています」
ザラザラと波に引かれて転がる石の音だけが繰り返す。
「そうですか。…寂しいですね」
あの人は遠くを見て、寒そうに身を縮めた。
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