第11話

噂の様な小説家ではなく仕事は別にあるが、趣味での月一投稿の構想のため、お店にきていたらしい。この家は親戚より管理を兼ねて格安で借りている。

「昔は料亭の真似事もしてたらしく、中庭もあります。今年の夏は手が回らず、庭は少し荒れてしまいました」

「今は古びて、室内に虫も出るし光熱費もかかります。でも懐かしくて好きなんですよ」

窓の外を見やるあの人の目は少し笑っている。どんな過去の記憶を思いだしているのだろう。


……

しばしの沈黙だ。何か話さねば。

「なぜ小説を書いているのですか」


「なぜ書いているのか?か」あの人は一目だけこちらを見た。

「私には、どうしても書かざるをえない程の衝動はない。ただ忘れないように記録しておきたい」

「今まではノートなどに書き散らすだけでした。こんな独りよがりな文章は人に見せる物ではないと」

「本屋や図書館へ行くとたくさんの人の文章があります。素晴らしい物。理解できない物」

「特にネット投稿では、題名だけで居た堪れなくなる物が人気だったりします。それに文句を言っていたのですが、これを公表できるのはすごいなと。私も恥ずかしさを超えてやってみようと思いました」

「でも一人で記録しておけばいいのに、投稿するのは、認められたい褒められたいからです」

あの人は、つらつらと語ると話したいエネルギーが切れたようで、そのまま宙を見つめていた。

一瞬のち

「すいません、調子に乗って語ってしまいました。…今日は来ていただいて感謝しています」

いつの間にか外は夕暮れ近くなっている。

結局、出し損ねた和菓子みたいな色が広がっていた。



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