第9話

前夜からよく眠れなかった。

朝も明るくなりかけて目が覚め、まだ早すぎるとゴロゴロしていたら寝坊だ。

すこしでも不快感を与えないように、歯を磨き髪をなでつける。急に濃い化粧はいけない。自然に。ただ興味がある人と話すだけ。それだけだ。


道すがら思いつく。何か手土産がいるのでは?駅前で和菓子を買う。グラデーションがきれいな、紅葉と銀杏の練り切りだ。 

和菓子はちょっと違うかなと迷いが出るが、いざとなれば持ち帰ればいい。


この辺りのはず。

地図を見た記憶でたどり着いたここは、少し傾いた古い木塀に囲まれていた。地図アプリを開き確認するが間違いない。

屋根のついた門には、チャイムがついていない。鍵はしまっていなかった。そっと中に入ると以前は日本庭園であったであろう庭石が草の中に埋もれている。松や梅なども伸びっぱなしで秋空に枝を競い合っている。

もったいない。荒れた庭も趣きがあるけど、もう少し整頓すれば良くなるのに。


庭を見つめていると、突然声をかけられた。

「もう、いらっしゃっていたのですね」

「どうぞ、中へ」

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