第8話
「これはアンモナイトの瑪瑙化した化石です。気持ちが息詰まった時に透かせてみると、ほら、構造線が見えます。生きていた1億年前の様子に思いをはせ、今自分の手の中に石化してある不思議に…」
あの人は滔々と夢見る様に語っていたが、ふと口を閉ざす。
「……すいません。つまらない事を語ってしまいました。これ、ありがとう。では」
あの人は、ふと遠くに視線を移し歩きだす。
「さようなら」
すれ違って行ってしまう。
振り向いて見るが、あの人は迷いなく進んでいく。私の様に振り向きはしない。
濃い紫と灰色の雲の間から少しだけ赤みを残す空は、もうほとんどが夜だ。晩秋の日暮は早い。
離れていく。
もっと話してみたい。
でも、どうやって?
何の繋がりもない。また、偶然を探すの?
勇気出せ。今が一番近い。素直に行け。
熱くなる体。歩き出すが、距離は離れるばかり。歩みを早める。ほとんど小走りになる。息が乱れ苦しいが、緊張か運動不足のせいかわからない。
その間にも「本当に?本当に声をかけるの?なんて言うの?」と心の声は続く。
足を止めたらダメだ。このまま行け。
やっと追いつき、そのまま横並びに声をかける。切れた息のまま、一気に話す。
「あの…また話したい。聞きたいから、また会いたいのですが」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます