第7話

それからは、壊れない様に紙に包んで持っていた。いつでも取り出せるようにしていた。しかし、あの人をみかける事はない。もちろん店舗には来ない。いつも川岸を通るようにしているが、いくら目を細めても逆光の中にはいない。


私は用事も終わり、ゆっくりと歩いていた。回り道の公園は、付近の建物より高い木が茂り、今何処にいるか忘れさせてくれる。低地のこの辺りはまだ本格的な紅葉は始まっていないが、木々は薄暗さをみせていた。

キャンプの焚き火が似合う季節がきたな。適度な枯葉や小枝を見て、にんまりと楽しい時を思う。

巡る季節に思い出になっていく過去。



そこに遠くに人影。

探していた背格好と合致する人。目が記憶との検証で離せない。見つめ合ったと感じたのは私の誤解かもしれない。

私の足は進む。もうすぐすれ違ってしまう。


話しかけたい。

話しかけれるの?

話したい。

話せるの?

話したかったでしょ。

話しかけろ。話せる。話せる。


「こんにちは〜」

いきなり間抜けなテンションで話しかけてしまう。

少々驚いた顔で足を止め、訝しげに私を見る。そして

「あぁ、あなたは」と少し表情をゆるませる。

心配していたより、おだやかな反応だったのでこの勢いで話してしまおう。

「これ、以前お会いした川岸で拾ったのですがあなたの物ではないですか?」

紙を開いてみせる。 

あの人は手のひらにのせ、しばらく見ていた。

「これは…」

そして、指につかんで沈みゆく夕日にかざす。

「私のです。ありがとう」

それは夕闇の中、今日最後の日の光に輝いている。

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