第4話
すっかり空が高くなり、金木犀の香りがする。何処からかわからないのに、毎年同じ場所で思い出す。夜はカネタタキの音が賑やかだ。
そろそろあの人が訪れる頃だと、注意していたが今月も今日で終わり。もうこないのだろうか。また好奇心から不用意な事をしてしまった。過去の失敗を連鎖で思い出してきたので、気晴らしに遠回りしよう。今ならちょうど夕日が見れる。
樹木の繁栄した薄暗い公園を抜け、土手を上がる。通り抜けの人達が作り出した道がある。
心拍数の上昇と共に視界が広がる。
空に赤みがかかってきている。美しい。少し気が軽くなる。大丈夫だ。
土手の向こうは川の縁が見えない。まだまだ草は高いがすっかりススキなど秋草にとって替わっている。その中に混じって異質を感じる。よく見ると人だ。決してキレイでなく整備もされてない、こんな所に人がいるなんて珍しい。気づかれないように行き過ぎようとする。風もサワリとゆく。と、その人の顔が見えた。
あれ、なんか見た事ある知ってる?思わず凝視する。
あぁ、あの人だ!認識すると、逃げたい気持ちとまた会えてよかった安堵感が身体を満たす。声をかけたい。想像するだけで、身体が寒くなって無理だと思う。
いや。後悔するから立ち向かえ。
数歩近づくと声をかける。
「あの…以前○○店によくお見えになっていらっしゃいませんでしたか?」
無言で体ごとこちらに向く。意外としっかりとした体格だ。
「っと…、私が外で作業をしていて、中のお客様を覗き込む様な形になり、気分を害されたのではと心配でした。申し訳ありませんでした」
その人はこちらを見たまま言う
「別によくある事だし気にしていない」
「…ただ、もう行く気はない」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます