12 新人バイト参戦で熱々ソーセージ

 ビアガーデンが開店してから二週間が経ち、新しく加わったアルバイトのエっちゃん(エスメラルダさん)の働きぶりは目を見張るものがあった。


 彼女が加わってからというもの、店の運営が格段にスムーズになり、特に会計業務は彼女の手によってめちゃくちゃ効率的に進められるようになった。毎日、多くのお客さんが訪れ、ビアやグリルソーセージの注文がひっきりなしに入る中、エっちゃんの存在は不可欠となっている。


 いつの間にか、「マリン・スノー号」の備品の中には車体と同じマリン・ブルーの業務用エプロンが追加されていた。ちゃんとエっちゃんとお揃いで着ている。


 ある日の朝、店のカウンターで開店準備をしていると、エっちゃんが颯爽と近づいてきた。今日の彼女はキャラメルブラウンのコルセットワンピースに、シンプルながらも品のある白いブラウスを合わせ、髪をきっちりポニーテールにまとめている。その姿は優雅であり、店の雰囲気にぴったりと溶け込んでいる。


「スイさん、ちょっとお話が」


 彼女が微笑みながら声をかけてきた。僕は手を止めて姿勢を正す。


「どうしたんだ、エっちゃん?」


 エっちゃんは、いつの間に作成したのやら、手に持っていた帳簿を差し出した。


「ここ最近、売上がかなり好調です。特にグリルソーセージの売上が伸びてきて、そろそろ百本を達成しそうです」


「本当? それはありがたいなあ」


 エっちゃんはさらに続ける。


「実は、今日でグリルソーセージの売上が百本に到達しそうなんです。お客さんにもそのことを伝えて、何か特別な催し物を考えてみてもいいかと」


 僕はその提案に乗ることに。


「それはいいアイデアだね。何かお祝いの企画を立てて、皆んなで楽しもう」


 エっちゃんの目が一層輝いた。


「では、すぐに準備を始めますね!」


 その日の営業は、ビアガーデンの入り口に置いてあるメニュー黒板に「グリルソーセージ売上百本達成予定記念! 本日限定、全品の銅貨一枚オフ!」という内容が書かれるところから始まった。


 なんと、このメニュー黒板は超絶便利で、指示した内容を自動的に表示してくれる。掲示を見たお客さんたちは興味ありげに店へと足を運んでくれて、ビアガーデンの賑わいはより一層増した。


 僕はお客さんの人だかりを見渡しながら、エっちゃんがどのように売上を管理しているかを見守っていた。彼女に任せてあるのは会計とグリルソーセージの販売。あとは僕が休憩時の店番。彼女は忙しく動き回りながら、お客さん一人一人にその完璧スマイルで対応し、業務を迅速にこなしている。その姿はまさにプロフェッショナルそのもの。貴族令嬢とは思えないほどだ。僕もようやくドリンクの仕事だけに専念できる。


 女の子が入ったことで店内の雰囲気もさらに明るくなった。お客さんたちも楽しそうに食事をしながら、エっちゃんに感謝の言葉をかけていて、微笑ましい。


 夕方、店内はますます慌ただしくなり、グリルソーセージの注文が立て続けに入った。エっちゃんは一瞬の隙もなく、計算や在庫管理を正確にこなしながら、笑顔を絶やさずにお客さん対応を続けていた。彼女の姿勢は僕も見習うべきところがある。


 ついに夕食時がピークに達し、僕はエっちゃんの立つ会計カウンターに近づいた。


「エっちゃん、どう? 目標に達しそう?」


 エっちゃんは帳簿を見ながら微笑む。


「あと少しで達成できそうです! これで達成すれば、今日のイベントも大成功ですね!」


 エっちゃんの宣伝効果はすごい。


「お姉ちゃんもいるし、今日はグリルソーセージをもう一つ追加で買っていこう!」


 などと言ってくれるお客さんが増え、店の雰囲気はますます熱気を帯びていた。


 そして、ついにその瞬間が訪れる。


「スイさん、やりました! グリルソーセージ売上百本達成です!」


 エっちゃんがはしゃいでいる。


 僕はすぐさまエっちゃんに向かって、「達成おめでとう!」と声をかけた。するとなぜか、エっちゃんは「ありがとうございますぅ〜! スイさんやお客さんのおかげですぅ〜!」と涙ぐみ始めてしまった。いい子だなあ。


 その夜、僕たちは「跳ねる角兎亭」でささやかながらエっちゃんの歓迎会を開くことにしていた。エっちゃんもここで一部屋借りて暮らしている。


 「跳ねる角兎亭」では、ご主人夫婦のログさんとアミナさんがご馳走を用意してくれていて、エっちゃん歓迎のための祝賀ムードが漂っている。今日の主役、グリルソーセージやビアはもちろん、王都セリスの特産品を使った料理がずらりと並んでいた。


 そのとき、ドアが開き、入ってきたのは普段のラフな服装のクロードさんだった。シャツとトラウザーズというカジュアルな格好だというのに、そこにいるだけでなんだか華やかな雰囲気へと変わった。クロードさんは軽く手を上げて、店内を見回す。彼の登場に気づいたエっちゃんは、目を大きく見開き、驚きの表情を浮かべた。


「クロードさん!」


 エっちゃんが声をかけると、クロードさんはにこやかに微笑みながら、「お久しぶり、エスメラルダ嬢」と応じた。


 僕もクロードさんに気づき、近づいていった。「クロードさん、エっちゃんの歓迎会に来ていただきありがとうございます」と感謝の言葉を伝える。


「なに、エスメラルダ嬢の新しいスタートを祝うために来たまでさ」


 うん。やっぱり……すかした人だな。許さん。


「実は、エスメラルダ嬢の噂はエリュシオ王城にも届いていたんだ。貴女が王都セリスに来る前に、国境警備隊から報告を聞いていた」


 エっちゃんは驚いたようで、目を大きく見開いていた。


「私の話がエリュシオ王城にも届いていたとは……」


「そのことは気にしないでくれ。エリュシオ王国騎士団長として、この国に来た貴女を歓迎する」


「王国騎士団長って……あの『邪竜殺し』クロード・シュヴァルト!?」


「おや、俺の噂もリリネルト王国に届いているようだ」


 クロードさんは薄い唇に苦笑いを浮かべた。


「ところでスイ、報告があるんだ」


 クロードさんはこちらに向き直った。


「なんですか?」


「俺はついに騎士団長を辞めることにした。俺も副業、いや、本業を始めることができる。……つまりだ、俺を雇え」


──はああああ!?


【ビアガーデンLv5になりました】

【メニューに[ラガービール(黒)]が追加されました】

【メニューに[スパイシーポテト]が追加されました】

【次回LvUP条件:1000人から売上を得る】

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