5 マリン・スノー号
「ジンジャーエールが手に入ったということは作れちゃうんですな!」
──そう、「
作り方は簡単。
①ビールを1/2グラスに注ぐ。
②ジンジャーエールでもう1/2を満たす。
③お好みで軽く
入手したのは辛口のジンジャーエール。
炭酸の効いたラガービールにはジンジャーエールのキリッとした爽快感が相乗効果でぴったりだ。
アルコール度数も約3%と、食前酒にちょうどいい。
「まさか食事代を半額にしてもらったことで売上判定になっているとは。いつの間にかレベルアップもしていた」
ウィンドウを開いて再確認する。次のレベルアップ条件は売上を百人から得ること。……いきなり難易度が上がった。
「一人のお客さんに百杯売ればいいわけじゃないからなあ……」
王都の名前は「セリス」というらしい。ひとまず人が集まりそうなセリス中央公園の管理事務所へと販売許可を取りに行った。
「商売するなら、商人ギルドの許可証を提示してくれ」
と、管理人のおじさん曰く。
……あ、ヤバい。持っていない。確かにどんな商売でも、特に飲食なら許可は絶対に必要だ。バイトだって検体提出してたもんね。
商人ギルドに駆け込んで、ギルド登録して許可証を発行してもらった。銀貨十枚の出費だ。それで済んだだけ幸いだけど。
商人ギルド登録が終わり、再び公園の管理人さんのところに戻ってきた。出来立てほやほやの許可証を見せる。
「売るのは別に構わないが、今日は平日の日中だよ? 休日だったら仮設市が開かれるんだけど。本当にいいのかい?」
「親切にありがとうございます。でも大丈夫です!」
──というわけで、この場所でもラガービール、そして新メニューのシャンディガフも売ることにした。
なんとメニューを閃いたからか、シャンディガフもサーバーのバルブをひねれば注げるように登録されてしまった。地味に便利だ。
値段は、ラガーもシャンディガフも銅貨五枚。お酒の飲めない人用のジンジャーエール(辛口)は銅貨三枚。
これは、「跳ねる角兎亭」のエールが一杯で銅貨五枚だったからだ。売上にはならないけれど、飲料水と炭酸水は無料サービスでいいと思う。日本人の居酒屋バイトとしては水は無料サービスだという認識があるからだ。
もちろん、水がサービスで出てくるということを評判にしたいという打算もある。
「【ビアガーデン】!」
発動させるのにもだいぶ慣れてきた能力。しかし、突然として目の前に現れたのは、夢のような光景。
「これは……車!?」
現れたのは、マリン・ブルーに塗装された可愛らしいキッチンカーだった。車体はまるで南国の海を映し込んだかのような、爽やかな緑がかった青で彩られている。日差しを浴びてつやつやと光沢を帯びている様子は、眺めているだけで心が躍る。
キッチンカーの外観は、丸みを帯びた形状で親しみを感じさせた。車両の側面には大きな窓があり、その窓からは内部が少しだけ見える。中には、木製のカウンターと、様々な設備が整っているのがわかる。手作り感のある装飾が施されており、どこか懐かしさもある。
前面には大きな看板が取り付けられていて、そこには「マリン・スノー号」と書かれたロゴが描かれている。ロゴのデザインは白地に、やはりその名の通り、ビアカクテルの「マリン・スノー」みたいな清々しい青緑のカリグラフィーだ。細部まで作り込まれているなあ。
車体の側面には、透明なカーテンがひかれており、その中にわずかに見えるのは、モダンな調理器具や今まで通りの高級感溢れるビールサーバーだ。
車両の下には、安定感を持たせるために四つのスタンドが出ていて、しっかりと地面に固定されている。これで公園の芝生の上でもぐらつかずに営業できるのだろう。
「すごいな、これが【ビアガーデン】の力か」
恐る恐る中を調べてみると、内部は思ったより広い。なぜかキャンピングカー並みに容積が大きい。後部には居住スペースがあり、そこにはベッドが整然と
「気のせいかな……空間が歪んでるんだけど」
きっと聖女(笑)の力なのか。なるほど、つまり【ビアガーデン】そのものの正体なのかもしれない。今まで狭い場所でしか能力を発動しなかったからサーバーしか出てこなかったけれど、今度は広い公園で発動したから、このキッチンカーがようやくお目見えしたのだろう。
「でっかい馬車だー!」
いつの間にか公園で遊んでいた子供たちに取り囲まれている。
「立派な鉄の
杖をついたおばあさんまで珍しそうに寄ってきた。
「今からここでお酒を売ろうと思うんです。もしよかったら、水と炭酸水は無料なので、それだけでも飲んでいってください」
と、説明してカウンターからお水をおばあさんに渡すと。
「あら、冷たいお水ねぇ。ちょうど今、散歩から帰ろうと思っていたところなのよぉ。こんな冷えたお水が無料なんて驚いたわ。ぜひいただくわねぇ」
おばあさんは、近くにあったパラソル付きのテーブル席に腰かけて、心地よさそうにお水を飲んでいる。
子供たちには炭酸水が「しゅわしゅわしてるー!」と人気のようだった。
子供たちの親御さんが、「子供が水をもらったお礼に」と少しずつだけど商品を買いに来てくれた。
「ビール」という名前だと「エール」と混同してしまうので「ビア」という商品名で売ることにしていた。
こうして、ビア(ラガー)、シャンディガフ、ジンジャーエールも徐々に売れていき、公園で売り始めてから三日目にして、百人からの売上を達成したのである。
【ビアガーデンLv4になりました】
【メニューに[アップルジュース]が追加されました】
【メニューに[グリルソーセージ]が追加されました】
【次回LvUP条件:グリルソーセージ100本の売上を得る】
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