第4話 ※オーガ軟膏

 宣誓の魔法で契約すれば、互いに縛られることになる。理不尽な契約は危険を招くが、友好的な契約なら、大きな安心を得ることができるだろう。


 ましてや、聖女の魔法なら……偽りの契約は結べない。真心あるのみ。


 ただ、こんな種族を超えた契約を、今まで果たせた聖女はいない。魔力の消費量が大き過ぎるからだ。


「レフィア、この契約で君の魔力が尽きてしまうかもしれないぞ。それでもいいのか」

「アルベルト様、そんな事を心配してくださったのですか。もう、優しいんだからぁ」


「いや、別に俺はレフィアに魔力があろうとなかろうと、どっちでも構わないんだが」

「大丈夫ですよ~」


 相変わらずの能天気。

 何が大丈夫なんだか。


「じゃぁ、オーガさん、えーっとグランデ王。こちらへ手を翳してください」

 

 レフィアがテーブルの上に契約書を出現させた。


「読めますか?」

「ウガッ」

「アルベルト様も読めますか?」

「ああ」

「じゃぁ、いきますよっ」


 ―――私、レフィア・フローレスは聖女の魔法において、オーガ王、グランデ様と『対等なる意思疎通の契約』の宣誓魔法を交わします


 オルべス ユラーティオ クリャトーヴァ

 

 母なる大地よ 我らの友好を祝福してください―――


(眩い光が契約書から放たれ、それぞれの手元に吸い込まれていく)


「これでよしっ」

「ほ、本当にこれだけで」

「レフィア殿、我らオーガにも道を開いてくださり、感謝申し上げる」


 おお、オーガ王、グランデ王の声が俺にも聞こえる!


 くっ、なんて魅力的なバリトンボイスなんだっ。


「いいえ。全てはグランデ王の英断です。ありがとうございます」


 おお、レフィアがまともな応対をしている。もしや大聖女の力に目覚めたのか?


「と言う訳で、早速試してみましょう。グランデ王、見ていてくださいね。アルベルト様、こちらへ」


「こちらへって……」


 見ればテーブルの横へ簡易ベッドのようなスペースが作られている。


「ここに寝転がってください」

「なんで?」

「んもう、知ってますよ」


(バサバサと羽音)


「アルベルト、太腿をどつかれたんだよぉ」

「くそっ、またお前か、ドルーク」

「先日のミノタウロスとの戦いで、太ももを強打されたんですってね」

「もう痛くない」


(疑わしげな目でちろり)


「まだ、痛いはずです」

「痛くない(目を逸らす)」


(レフィアがアルベルトへずいっと近づく。アルベルトがたじろぐ)


「(耳元に囁く)本当のことを言うと、グランデ王にオーガ軟膏の効果を一緒に確認してもらいたいんです。だから、お願いっ」

「うわっ、擽ったい」

「お願いっ(うるうる目)」

「そ、そういうことなら」

「ありがとうございますっ」


「アルベルト殿、よろしく頼む」

「(キリッと)グランデ王、お任せください。我が傷にて効果を証明してみせます」


(アルベルトが寝転がると、レフィアがズボンを下ろしにかかる)


「おわっ、あっと、自分でやるからっ」

「だーめ。全部脱いでもらいます」

「そんな必要」

「ありますっ。アルベルト様は直ぐに大丈夫って言うけど、大抵大丈夫じゃ無いですからね」


 いや、そんな事より恥ずかしいのだが!

 グランデ王の瞳がほのぼのしているのが、余計に羞恥心を煽るし。


 ん!?

 オーガの表情が読めるなんて。

 あの契約すげー

 レフィアの魔力もすげー


(レフィアにズボンをポイッとされる)


「あっ」

「ああっ、やっぱり。どす黒い痣があっちにもこっちにも。えいっ(ツンと突く)」

「うっ、いっ、くっ……」

「痛いでしょう。でも、このオーガ軟膏を塗ればあっという間に」


(太腿の大きな痣に軟膏を塗り込んでいく)


「ぬーりぬり、ぬーりぬり」

「うおっ、やめっ」

「動かないでくださいっ。グランデ王にもよく見えるように」


 くっそうー

 これはいったいなんのプレイだ!?


 ああ……でも……

 スーッと痛みが引いていく。

 

 き、気持ちいい……


「ほら、グランデ王見て下さい。こんなに気持ちよさそうにしています。オーガさんの牙の効果、凄いです。あっという間に痛みが無くなっちゃいますっ」

「グランデ王、本当に楽になりました。素晴らしいです(精一杯の笑顔で)」


「レフィア殿、お役に立てて光栄です。アルベルト殿、己の身を差し出しての検証、ありがとうございました」


 おお、笑った!

 オーガの王が嬉しそうに笑っている。


「では早速、里の者達へ牙の提供を呼びかけます」

「取引の細かい事は、アルベルト様が良いように取り計らってくれるはずですので、安心してくださいね」

「(上半身起き上がって)私にお任せ……(レフィアをちろり、レフィアはすぅ~っと視線を逸らす)ください」


「なんと心強い。アルベルト殿、よろしくお願いします。レフィア殿、日よけアイグラス眼鏡と日焼け止めクリームの開発も頼みますよ」

「はいっ、頑張ります」


「では、ひとまず私は里へ帰ります」

「先程の契約に、直通魔法の約定も加えてありますから、最短で行き来できますよ〜」

「かたじけない。では」

「「お気をつけて」」


(グランデ王がスッと空間へ消える)


「やったぁ~」

「レフィア、やったぁーじゃないぞ。とんでも無い契約を交わしたな」

「うふふ。これでオーガ討伐は必要無くなりましたね」

「代わりに商談丸投げされたけどな。でも、よくやった(レフィアの頭を撫でる)」


「えへへ。褒められたぁ。アルベルト様に褒められた。嬉しい(心の底から嬉しそうに)」

「レフィア……」


(アルベルトがレフィアの頬を両手で包み込む)


「レフィア、君は素晴らしいよ。俺は心からそう思う」

「アルベルト様……」


(二人、良い雰囲気に見つめ合う)


「でも、こんなふうに褒めてくださるのはアルベルト様だけですね」

「そんな事は」

「いいえ。分かっています。この後、みんなへの説明でアルベルト様が大変な思いをされる事も」

「レフィア……」


「巻き込んでごめんなさい。だからせめて……精一杯、アルベルト様を癒して差し上げますねっ。えいっ、貼り付けの魔法〜」

「うおっ」


(ボスっと布団に戻されて身動きが取れなくなったアルベルト)


「オーガ軟膏。まだ全部に塗れていないので、この間のようには逃げ出せないようにしました。うふふ」

「やめろー」

「ぬーりぬり、ぬりぬり」

「うっ、ふぁ、ひっ、あぁ〜」


「ちょいちょい、ねろーん」

「……ハァ、ハァ……ハァン〜」

「気持ちいいですかぁ〜」

「……」

「あれ……気持ち良すぎて白目剥いて寝ちゃったみたい。うふふっ、おやすみなさい(頬にちゅっ)」

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