第2話 ※スライムシート

「さぁ、ここに座ってください」


(ガタリと椅子に座らされる音)


「治療を始めますからねぇ。さぁ、脱がしますよぉ」

「いや、こら、やめろ」

「あん、抵抗しないでください。ボタンがちぎれちゃいますぅ」

「う、くっ」


(見下ろす真下にレフィアの頭。顔が近い。バサリ、スルリと洋服が脱がされ床に落ちる音)


「ああっ、こんなに深く切られて」


(レフィアが胸を触る気配)


「痛かったでしょう。でも、この鍛え上げられた胸筋のお陰で命拾いしましたね。ぐふふ」

「な、何をっ」


(レフィアの指先が筋肉をなぞりまくる)


「や、やめろっ。指先がっ、擽ったい。気持ち……良い……あっ」

「ふっ(軽く息を吹きかける)、ふぅ~」

「はぁ、はぁ、や、やめっ」


「動かないでください。回復魔法中です」

「何だと。息を吹きかけるのが回復魔法なのか? 普通は患部に手を掲げて詠唱するだけだろう」

「だって、私がそれをやると余分なことになっちゃうんです」

「余分なことって」

「筋肉ムキムキ、とか。指が一本増えちゃう、とか」


 お、おうふっ。

 それは確かに不味いな。

 仕方ない。ここは大人しく言うことを聞いて。


「ふぅ~、ふっ」

「お、あ、ああっ」

「ふっ、ふふっ」

「くっ」

「ふぅあ〜、ふぅー」

「うっ……くあぁ……」

「はいっ、終わり〜」

「はぁ、はぁ」


 息絶え絶えで傷口を見下ろせば、確かに影も形もなく元通りになっていた。

 流石、大聖女候補だっただけの実力は健在だな。


「あ、ありがとう」

「いいえ、当然の事をしたまでです。私にとってアルベルト様は命の恩人ですから。教会を追い出され、実家のフローレス公爵家からも恥扱いされて行き場の無かった私を、こうやって生かしてくださっているんですから」


「そんなこと……レフィアの実力は本物だ。だから、これからもこんなふうに俺を癒してくれ」

「勿論です。い~っぱい恩返ししますからね」

「いや、恩返しとかじゃなくて、その……俺の妻」

「あーっ」

「な、どうしたっ」

「スライムシートの続き」

「お、おう」


(シートをテーブルに広げる音。レフィアが手をかざして詠唱を始める)


「悪しきを退け、血潮を治め、速やかなる快癒を助けよ。聖女の魔法、発動します」


(シートが眩く光る)


「これでよしっ」

「これだけで、出来上がりなのか?」

「はい。でも、試してみたいですね」


(ちょきちょきとシートを小さく切る)


「アルベルト様、もっと体を見せてください」

「え、いや、もう」


 (再度椅子に座らされる)


「あん、もう、まだ洋服着ちゃ駄目ですってばぁ」


(せっかく羽織った白シャツをポイッと捨てられる)


「こらっ、やめろ」

「ああっ、ここにも、ここにもっ、傷が……」

「そんなのかすり傷だ」

「いいえっ。小さな傷を侮ってはいけません」

「それはそうだが」

「隊長だからって、我慢ばかりしないでくださいね」

「レフィア……」


「うふふ、試させてもらいますよぉ。こうやってピトって貼ると」

「う、うわっ、冷たい」

「最初は冷たく感じると思いますが、徐々に人肌に馴染んでくるはずです」

「おお、確かに」


(じい〜っと患部を見つめ続けるレフィア)


「お、おい。そんなに見つめられると恥ずかしいんだが。もう服着てもいいかな」

「駄目ですっ」

「そんな」

「スライムシートの出来栄えを確認しているんですから、些細な変化も見逃せないんです。もう少しだけそのままでいてくださいね」


(下から見上げられてドギマギするアルベルト)


「……わ、分かった」


(そうっとレフィアが触れてくる)


「うおっ」

「どうですか? 痛みとか痺れとかありませんか」

「だ、大丈夫だ」


(スリスリと撫でられて)


「感覚はありますか」

「ああ、寧ろ、感度良好、あうっふ」

「よかったぁ(スリスリ)」

「も、もう、やめっ」

「おおっ、徐々に傷口が綺麗になっていってますね」

「うっ、近いっ。レフィア、近すぎる」


「だって、よーく見たいからぁ(スリスリ)」

「くっ、これ以上は……」

「綺麗になったぁ(ちょんっと突く)」


「うおっふ。あっ……」

「ああっ!?」

「……はぁ、はぁ……ど、どうした?」

「どうしようっ。私また、余分な物増やしちゃいました」

「はぁあ!?」

「だって、アルベルト様のここが……大きくなっちゃったっ。ごめんなさい」

「こ、これはっ!」

「……(心配そうな目)」

「これは生理現象だっ。レフィアのせいだけどレフィアのせいじゃないと言うか」

「やっぱり、私のせいなんですね。回復魔法をかけたら戻るかしら。ふぅ〜」

「や、やめろー」


(ガバリと立ち上がって服をかき集める)


「アルベルト様、まだ治療が」

「帰る!」

「で、でも」

「大丈夫だ。直ぐに戻るから」

「本当に戻るんですかぁ?」

「また来るっ」


(ドタバタと立ち去る音。ドアの開閉。馬へ駆け寄り、慌てて服を着る)


 くそっ!

 無自覚エロ無双聖女めっ。


「アルベルト様〜」

「付いてくるなよ」

「スライムシート外さないと」

「分かった。後で自分で外すから」

「そっちも(ちらり)、本当に大丈夫でしょうか」

「あー、本当に大丈夫だから。またな」


「はいっ。お待ちししています。スライムシートもいっぱい作っておきますね~」


 ふぅー

 ギリギリ生還……


 俺の忍耐、いつまで保つだろうか!?




 

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