第33話 お姉さんキャラ

 アリシアたちがヨンダルク家へ襲撃をかける今日、俺はすでにシャランさんとともに行動していた。


 俺の護衛……だったと思うのだが、なぜか彼女は防具を身につけずラフな格好をしている。


「いいアキトくん、まず何が大切かというと力の強さよりも心の強さなんだよ。あっ、ほらムキムキで屈強な人が実はか弱い乙女のような心を持っていたら可笑しいでしょ?」


 分かるようで理解できない例えを挙げてきた。


 シャランさんは今、俺の背後から抱きしめるように腕を前へ回して、俺の木剣を握っている手に被せるようにして触れている。


「だからまずは精神統一からしよっか。剣を構えた状態で、目の前に斬るべき相手を想像するの。じゃあとりあえずオルン様がいるとしよう」


「えっ、オルンさんを斬るべき相手に例えるのは流石にどうかと……」


 それにオルンさんは明らかにあなたの目上の存在ですよね、様で呼ぶほどなんだし。


「大丈夫だいじょーぶ、これはあくまで想像だから、失礼とは言わないんだよ」


「……まぁそれなら」


 そうしてシャランさんに後ろから抱きしめられた状態で目を閉じて精神統一……?というものを実践してみる。


 だがしかし何故だ、なぜこんな事になった。


 俺たちは先ほどまで部屋にいたのに、どういうわけかシャランさんに連れられて騎士団の修練場にきている。


 周囲には、稽古に励んでいる騎士の姿が見受けられる。


 片目になってからというもの、剣を持って構えた際に剣先の一致に違和感を覚えてしまっている。


「………シャランさん、部屋に戻りませんか?」


 剣を握っても今は自分に自信がない。


「そう、もういいの?アキトくんが剣を振りたそうな顔をしていたからここに連れてきたんだけど……」


「えっ、俺そんな顔をしてました?」


 思ってもいなかったし、なんなら部屋で本を読んでいた。


 木剣を手放して、俺とシャランさんは屋敷の中へと戻ってきた。


 ファラディオ公爵家の騎士団とはいったいどういう立ち位置なのかなと思っていたが、屋敷の中では以外と高い位置にいるようだ。


 もちろんアリシアや当主などを除き、屋敷内の使用人やメイドの人たちは、シャランさんを見るなり頭を下げて敬意を表している。


 それに応えるようにして軽く手を振るシャランさんだが、案外素振りが手慣れているように見える。


「騎士団の副団長は人気者なんですね」


「むっふふん〜っ、アキトくんも私を好きになっちゃうか〜」


「いえそうは言ってないです」


 自室へ戻り、机に大量に積み重ねられている書籍に手を伸ばした。


 この世界の歴史はとても面白く壮大なものだ。


 ファンタジー物語の中のストーリーだと思ってしまう時があるが、ここでは俺にとって現実で起きていたことなのだ。


 そう、例えばここルージュリア王国の成り立ちなんかも記されていた。


「アキトくんは本当に本を読むのが好きだね。私なんてまともに文字を読んだことすらないよ」


 ベッドに座って読書している俺の隣で、グデーっと寝そべっているシャランさん。


「最初に興味を持ったのはもちろん剣だったし、アキトくんがそうして文字を眺めているように私はずっと剣を眺めてたなぁ。そんなだったから頭はバカだし、剣を振る以外は何もできないんだよねー」


 誰に話しかけるでもないトーンで自分のことを喋っている。


 俺はむしろ勉強以外は全くできなくて運動なんて何をやっても成功した試しがない。


「だけど、私は剣を振るのが大好きなの。他の何もできなくても剣を振ることができていればそれだけで楽しいんだよね。剣と対話している瞬間は私の生き甲斐だよ」


 最後の一文だけは俺の方へ向けられたもののように感じた。


「それがさっきの精神統一ですか」


「そっ、心が不安のままだと剣を振ることだってできやしないんだよ。アキトくんは今、不安と焦りと自信がごっちゃになってる。その中でも特に焦りが強いんだよね」


 俺は本を読むのを中断し、パタンと閉じた。


 何気なく何でもないように言っている彼女の声がよく耳に届く。


「聞いたよ、アリシア様とオルン様と学院の入学試験を受けるって。頑張らないと、アキトくんだけ落ちちゃうよ。焦りは禁物、不安なんて吹き飛ばして自信だけ持っていたらいいじゃん」


 起き上がり横から顔を覗かせるシャランさんは、優しく見守るような目をしていた。


 なんていうか、ここでお姉さんキャラの本領を発揮できたという満足した表情のように見える。

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