第17話 ウザ絡み師匠の丸焼き
アリシア・ファラディオが本家屋敷にいることはほとんどない。
屋敷の使用人すらも起床していない時間から、アリシアは自室から姿を消す。
幼い頃から天才と言われてきた彼女の力は、先天性のものではなく努力をして身につけたものだ。
ルージュリア王国の外を出た、遥か先にある大森林の中へと降り立ったアリシアは、ある人物へと会いに行く。
「………もう来る必要はないと言ったはずだ」
どこからともなく声がするも、アリシアは動じることなく目的の場所へ歩き続ける
「あなたの意思はどうでもいい。私が来たいから来ているだけ」
深々とした緑の奥地へと迷わず突き進んでいくと、一際大きな樹木の前に辿り着いた。
樹木というものの大きさを遥かに超えた幹の太さをしており、上は天まで突き上げるほどの高さを誇っていて下からその終わりは見えない。
僅かに腰を沈め、上へと視線を向けるアリシアは、次の瞬間に地面を勢いよく蹴りつけて宙へ跳んでいった。
樹木の壁に沿って天高くへ飛び続けるとやがてその勢いは衰えていき、そして上へ上がらなくなった。
普通であれば急激に落下するはずが、彼女はその場で足をついて見せた。
まるで透明な地面が宙に浮いているかのようで、見下ろせば大森林を上空から一望することができる。
───ここはルージュリア王国領地外 とある大森林の遥か上空に位置する『隠された都市』
そこの隅っこに腰を下ろし、上空からの眺めに目を向けていると人の近寄る音が聞こえてきた。
「今日は一段と上機嫌じゃないか、アリシア」
彼女の隣に同じようにして腰を下ろした。
「なんですか師匠」
「……お前がここに来たからこうして会いに来てやってんだろ」
アリシアから師匠と呼ばれた女は、奇怪な発言をする目の前の人物に対して怪訝な目を向けた。
「師匠は私が天才だと思いますか?」
「そうだろうな、少なくともお前のような人間が世界中にどれだけいるかを考えれば分かる」
アリシアが無言で女の方へ視線を向ける。
「……天才だ、私から見てもここにいる者から見ても、お前は紛れもない天才だ」
嘘偽りなく、贔屓なく本心からそう言った。
しかし言われたアリシア本人は無表情のままでいる。
「……ダメですね。師匠から褒められたところで微塵も嬉しくない」
「お前は私で遊んでいるのか……?」
この二人の光景を傍から見ても、おそらく師弟関係だとは誰も思わず姉妹だと勘違いするだろう。
「……お前が上機嫌なのはあの少年が原因なのだろう。なんだったか、確か名をアリムラアキトだっ───」
「違います。それだけは断じて違いますので変なことを口走らないでください」
言葉を遮りものすごい勢いで否定してきたアリシア。
その様子を横で見ていた女は、口元をニヤつかせた。
「あれれぇ〜?アリシアちゃん、もしかしてあの少年に恋してるんじゃないのかな。ねぇそうなんでしょ?」
先ほどのアリシアの反応に加えて、上からアリシアとアキトの関わりを見ていた女はここで考えをほぼ確信的なものへとした。
「私に褒められても何も思わないが、その少年から褒められたら嬉しいんだろ〜?さっきの質問はそういうことなんだよな?そうだろアリシアちゃn…───」
「……───死ね」
全てを言い終える前に、女は一瞬でアリシアによって轟々と炎に呑み込まれ吹き飛ばされた。
途轍もない爆音が周囲に響き渡り、女の姿はもうどこにもない。
アリシアはその様子を不機嫌そうな目で見つめてから、立ち上がりこの場を去った。
魔法により瞬間的に大樹のそばに降り立ったアリシアは、そこに見知った人物を見つけ少し驚きの表情を見せた。
「………オンカ」
「用があって来たのですが……先ほどの爆発音はもしかしてアリシア様ですか」
鎧に真剣というフル武装をしたオルンがいた。
「誰か殺したんですか?」
「あぁ、一人な。気にすることはない」
「もしかしてお師匠様ですか?」
「そうだ」
淡々と問いかけるオルンに平然と答えるアリシア。
アリシアの師匠と一度面識があるオルンは、アリシアと共通の認識であの女を見ている。
人智を超えた者の所業を理解することはできないとして、考えることすら放棄している。
「それでオンカ、私に用があってきたのだろう。用件はなんだ」
「少年──アキトくんについてです」
オルンがその名を口にした瞬間、僅かにアリシアが唇をグッと噛み締めた。
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