第13話 ギルド加入希望です
連続して発生していた多くの人々の失踪事件の真実が、裏ギルドによる奴隷売買のための人攫いだということが王国中に知れ渡った。
今回セントラル街ルージュリア通りで攫われた人々は一人残らず解放されたものの、それ以前に囚われていた人々の行方は今も調査中とのことらしい。
すでに奴隷に堕とされ売られているか、どこへ売られたのか。
あまりに多くの国民が被害を受け、犠牲を伴った大規模人攫い事件は王国が自らの手で処理する方針らしく、以前から調査していたオルンさんは手を引いた。
ただ今回、俺が連れて行かれたアジトとそこのボスと呼ばれていた男は、本拠地でも主犯格でもなく別にあるという。
王国は裏ギルドの脅威度を改めて、一縷も残さず消滅させると公に宣言した。
「──これまでも裏ギルドがいくつか問題になった事件があったんだけど、さすがに今回のような大きな被害はなかったから王国も甘く見ていたみたいだ」
「その裏ギルド……っていうのは、他にもあるんですか?」
「あるよ、っていうかどれだけあるのかは私はもちろん、王国にだって分からない。もしかしたら公認のギルドより多いかもしれない」
戦う術を持たない民にとって、裏ギルドという犯罪者集団は生活を脅かす存在でしかない。
……って俺も戦えない非力な民だった。
「あれ、ていうかオルンさん、俺って王国民なんですか?」
「ん?違うぞ、少年は紛れもない非国民だ」
「ですよねー……」
突如この世界に来て気づいたらこの国にいたわけで、手続きも何もしていないのだから当然といえば当然だが、あれ……これって不法滞在とかで犯罪者にならないのか?
「ルージュリアは入国制限等していないから安心していい。旅の者や他国の者もそこら中にいるだろうさ」
「そうですか、よかったー……。……あの、オルンさん」
「どうした少年、そんな改まった顔をして」
洞窟の中でボッコボコに蹴られ殴られて実感したことだが、この世界で戦う術を持たない俺は、結局のところアリシアやオルンさんに助けられるだけだ。
自分の身は自分で守れるようにしたいし、人に頼ってばかりは嫌なのだ。
「その……素人が戦い方を学べるような場所ってありますか?」
「戦い方を学べる……学院へ行けばいいのではないか?」
「でもそういう所ってだいたい試験とかあるじゃないですか。俺本当に何もできないし、知識だってゼロなんです」
異世界の学園はなぜか魔法ができて当たり前で入学して、そこからさらに力をつける──的なことをする場なんだよな。
「魔法とか、あと剣を使えるようになりたいんです」
一番最初に路地でオルンさんの剣を振る姿を見た時から、憧れを抱いていた。
「………なるほど、だがそれなら私が教えてやろう」
「えっ、オルンさんがですか……?」
そんなことを言ってもらえるとは思っていなかっただけに驚いた。
「私では不満か?」
「い、いえっ。よ、よろしくお願いします……」
「うむ。……だがな、悪いが魔法は教えてやれない。教えられない以前に、私は魔法を一切使えないのだ。受け持てるのは剣術だけになる」
自らの手のひらを見つめて悔しそうな表情をした彼女は、苦笑いで俺の方を向いた。
なにか人に話せない事情でもあるのだろうか。
「いえ全然大丈夫です!むしろオルンさんの剣術をマスターできるように頑張ります!!」
「魔法は、アリシア様に教えてもらうといい」
剣をオルンさんに教えてもらい、魔法をアリシアに教えてもらうなんて……そんなのもう楽園じゃないか。
アリシアに教えてもらっている光景を想像すると少しハードになるかもしれないが、それでも最高だ。
「───やるわけがないだろ」
頼み込んだ結果、即答で断られた。
「しかしアリシア様、お師匠様との稽古はさほど頻繁にあるものではないでしょう。合間で少年に魔法を教えてあげることくらいできるのでは?」
オルンさんがアリシアに対して何とか頼んではいるものの、渋い顔をした彼女の意見が変わることはなさそうだ。
「しつこいぞオンカ。去れ、そのような遊びに付き合ってやれるほど暇ではない」
「あ、ちょっ、アリシ──……ア」
呼び止めることはできずに部屋の扉を閉められてしまった。
「………どうしましょう、オルンさん」
「仕方がない、ついて来い少年。いい場所がある」
そう言われて、オルンさんについて行きセントラル街を出た。
王国の中心地でなくとも多くの人が行き交っている。
「よし、ここだ」
「ここはいったい……?」
なにやら大きな建物の前に到着した。
「ギルドだ。さあ中に入ろうか」
彼女に背中を押されるがままに建物の中へと足を踏み入れていく。
「うわぁ……!すごい……」
大勢の人がいてガヤガヤと多方から人の声が聞こえてくる。
広々とした空間になっており、天井はぐっと高く、まるでホテルのロビーのような雰囲気が漂ってくる。
受付が横一列にずらりと多数並んでいる。
「ほら、少年」
オルンさんに腕を掴まれ、空いている受付へ向かった。
すると美人な受付スタッフの人が俺たちに気がつき、完璧なスマイルを浮かべて見せた。
「──ようこそ、育成ギルドへ!」
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