第11話 それは銀ではなく白金
「………ウゲッ」
「おらとっとと起きろ小僧」
眠っていたところを、顔面を殴られて目を覚ました。
この世界に来てからやたらと殴られ蹴られている。
「な、なんですか──…ッ」
唐突にまたしても頬を殴られ、顔が横へ向いた。
「あぁ……さっきは俺の部下が悪かったな」
髪の毛を鷲掴みされ、無理矢理に顔の向きを戻された。
「わ、悪いと思うなら今すぐ──…ウグッ」
今度は髪の毛を掴まれたまま殴られたことで衝撃が逃げずに骨の芯にまで激痛が襲ってきた。
殴られるたびに口から大量の血が溢れ出てくる。
「口答えするな小僧………、あのチビはお前の連れか?」
チビとはカシュのことだろうか。
「───やめてくださいっ!いた、痛いですって!」
「カシュ!?」
「はっ!アリムラさ──っ!」
言い終わるよりも先に地面に突き飛ばされてしまった。
「大丈夫ですアリムラさん!アリムラさんが貴族だということは決して話していませんっ!」
「ちょ、は、カシュ!?」
自信満々の表情で俺を見るカシュに、俺は焦りを隠せずにはいられなかった。
そもそも貴族ではないと弁明しようとしたら連れていかれ、そして今、俺は馬鹿によって貴族であるということをほぼ事実であるかのように宣言された。
アリムラが名前でアキトが貴族の家名だとでもいうのか?!おかしいだろ!
「家名は何だ」
「いや、だからッウ………!」
髪の毛を掴まれているから、殴られるたびに顔の痛みに加えて毛根の痛みも襲ってくる。
「禿げる、禿げるから殴るのだけは──ウグッ!?」
口を開けていた状態で殴られ、思い切り自らの舌を噛んだ。
言い表せない強烈な痛みに思わず涙がこぼれ落ちる。
ダメだ……口答えしたら殴られるのでは、俺が貴族だという間違いを正すことすらできない。
というかこのクソジジイ、人を殴ることに一切の躊躇いもない。
真顔で人の顔面をボコスカ殴るとか、人の心ないのか……?
「……家名を言え」
「………アキト」
「アリムラ・アキト……?聞いたことねぇぞ、本当に貴族のガキなのか?」
それを違うと言いたいのに、こいつは俺が何か言おうとするとすぐ殴ってくる。
「おい、どうなんだ小僧」
「ウグゥッ!?な、なんで……」
何も喋ってないし口答えしていないのに腹を殴られた。
理不尽が当たり前であり、全ての理屈がここでは通らないのだろう。
カランカラン………コロンッ
不意に服のポケットから、金属物が軽快に転がる音が鳴り響いた。
円の形をしたそれは、地面の上をゆっくりと転がり、やがてバランスを崩してコロンと倒れた。
銀色のように見えるが、いったい何なのだろうか。
「ボス、その小僧の服の下から何か落ちてきました。金属の塊みたいです」
「ん……?それは紋章だアホ、俺によこせ」
「は、はい……」
下っ端の男が目の前のクソジジイその銀色のものを手渡した。
「はっ、貴族の紋章じゃねぇか。これは貴族の家のモンじゃねぇと持つことは許されねぇ。確かに貴族のガキのようだな」
貴族の紋章とやらを眺めながら気色の悪い表情へと変わった男は、掴んでいた俺の髪の毛を無造作に離した。
「よしお前ら、この小僧を人質にして貴族から金を払わせる。王国に警告を出せ」
「え、でもボス……そんな小僧一人で王国に警告を出すんですか」
「バカだなお前は。いいか、これは銀の紋章だ。貴族の紋章が明確に区別されている中で銀の紋章は相当な階級だ。下手すりゃ伯爵の小僧、王国は無視できねぇよ」
「お、おぉ……!そいつはスゲーですねボス!大金が手に入る」
そうと分かれば何やら一斉に準備に取り掛かる男たち。
貴族の紋章なんてものに全く見覚えはないし、ポケットにそんなものが入っていたことにも驚きだ。
「おい小僧、お前はこれから人質として俺たちと王国の架け橋になるわけだ」
「お……俺は、どうすれば……」
「簡単だ、交渉がうまく成立することを願っているだけでいい。成立しなければ、お前は死ぬだけだ」
ニヤけた表情で至近距離まで顔を近づけてくる。
男の口からタバコ臭が混じった異臭が漂い、鼻で呼吸することを即座に中止した。
こいつらには悪いが、俺は貴族の子どもではないからもちろん王国が俺のために身代金を払うはずもない。
挙げ句の果てに、そんな者は国民にはいない、と言われて呆気なくこいつらに殺される。
だがまぁ、奴隷になって一生働かされるくらいならここで死んで方がいいのかなとも思う自分がいる。
……そういえばオルンさんは今何をしているのだろうか。
先ほど檻の中から見かけたが、どうも本当に捕まっているようには見えなかった。
彼女に朝連れ出され、人攫いの集団に捕まり、なぜかポケットに入っていた貴族の紋章とやらで人質にされる。
これって、もしかしたらあの人の策略なのではなかろうか。
あぁ……アリシアは今どうしてるのかな。
オルンさんが言うには、アリシアは朝に弱いようだから、まだ寝てるのかも。
こういう時、意外にも悪役令嬢に助けられるなんて展開は有り得るのだろうか。
物語的には悪役であっても、いちプレイヤーにとってはそうでない。
プレイヤーに懐いた悪役令嬢が、彼のピンチに駆けつける、なんて甘い展開のストーリーがあれば、きっと今の俺の状況を言うのだろうか───…
見上げていた洞窟の天井に一筋のヒビが見えたその瞬間、轟音とともに深紅の炎が突き破った。
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