第10話 テクニカルノックアウト
「ん………」
しばらくして、同じ牢に入れられた少年がゆっくりと目を覚ました。
「お、起きた?頭打ったみたいだけど大丈夫か」
放り込まれていた際に軽くヘッドスライディングをしていた。
「う、うわぁぁっ!?だ、誰ですかあなた?!」
俺の顔を見るなり大慌てで壁際に逃げた。
「そんなにビビられると流石に傷つくんだけど……」
顔は俺よりも幾分か年下のようだ。
「も……もしかしてあなたが僕をここに連れてきたんですかっ……」
恐る恐る聞いてきているが、全くのハズレだ。
「もしそうだったら俺も一緒にここにいるわけがないでしょ……」
「かっ、監視が目的なら……別におかしなことじゃないはずです!」
100パーセントの疑いをかけてやまない。
「……周りを見てみろよ。どう見てもここは牢屋なのに、わざわざ中で監視する必要がない。檻の外で監視するだろ普通」
「………本当だ。はぁ……よかった、てっきり僕の秘密の力を狙った悪い人たちなのかと思っちゃいました」
俺が敵でないと分かるや否や、胸に手を当てて安堵の表情を見せる少年。
「秘密の力……?そんなものがあるのか?」
「…………はっ、やっぱりそれが狙いだったんですね!?危うく騙されるところでした……っ!」
再び警戒心マックスで身構え始めた。
こいつはあれだ、少しばかり頭が馬鹿なのだろう。
「だから俺はお前の敵でもなんでもないって……」
「今度こそ騙されませんっ!この力は誰にも知られてはならないのです」
「いやだから────……」
「──なるほどそういう事だったんですね!すみません僕の早とちりだったようです」
「わ、分かればいいんだよ……分かれば………」
およそ10分間におよぶ説得の末に俺が少年にとって敵ではないことを分かってもらえた。
「あの、お名前をお伺いしても良いですか?」
「あー、俺は有村明人」
「アリムラ……アギト?」
「違うアキトだ。アリムラ、アキト」
「アリムラ・アキトさん……ですね。僕はカシュです。どうか呼び捨てで呼んでください」
カシュという名のこの少年には、姓がないという。
姓があるのは家名を持つ貴族だけであり、平民やそれ以下の者には姓は無いもしくは剥奪されるらしい。
「その剥奪されるって、どういうことだ?」
「そのままの意味です。ま、平民である僕には関係のないことです。……はっ、ごめんなさい。貴族様の前でこのような話をするべきではありませんでした」
突然腰を曲げて深い謝罪をしてきたカシュ。
「待ってくれカシュ、何か誤解をしているぞ。俺はk──…」
「──おい、そこのお前。コソコソと話してると思ったら、まさか貴族のガキか?」
檻の外で監視していた男が口を挟んできた。
「いや違っ、だから話を聞けって──」
俺の話を聞きもせずに檻を開けて中に入ってきた。
「こりゃぁ大したもんが釣れたかもしれねぇな。奴隷に落とすよりもよっぽど価値がありそうだ」
「えっ、なに奴隷……?おわっ!?」
「来い、お前には特別室を用意してやる」
いかつい顔の男に腕を掴まれ、強引に牢屋から引っ張り出された。
両側に見える牢屋の中にいる人たちに見られながら、洞窟の先へ連れて行かれた。
一層薄暗く不気味な雰囲気が漂っている。
いかつい面にごっつい体格をした大男が大量にいる空間にやってくると、俺の腕を掴んでいた男にその場で突き飛ばされた。
「ボス、こいつどうやら貴族のガキみたいです」
「………貴族。俺が一番殺してェ奴らだ………」
両手にナイフを持った大男が、地面に座り込んでいる俺に視線を向けてきた。
ここは強烈な異臭が漂っていて息をするのも苦しい。
むさ苦しい大男たちの汗のような臭いに加えて、なぞの腐敗臭が充満している。
「フゥ………ハァァ………」
男からタバコのような臭いとともに煙が飛んできた。
「うっぷ……」
タバコの臭いと煙は昔から苦手だ。
「………小僧、どこの貴族のモンだ」
「だから、俺はウゲッ………」
喋り出そうとすると途端に体内に煙が入り込んで思わずむせてしまった。
「ゲホッゲホッ……ウグッ!?」
突然横から飛んできた大男の蹴りが脇腹に入り、地面に身体を打ちつけられた。
「ハヒュッ……ハヒュッ……っ、ハッ………な、んで……」
強烈な衝撃により、一瞬呼吸がままならず必死で空気を吸おうとした。
しかし必死の思いで取り入れた空気は激臭に加えてタバコの煙も混ざっている。
蹴られた十数秒間は生きた心地がまるでしなかった。
「ボスに聞かれてんだ……とっとと答えろ」
「まっ……頼む、から、まって………」
再び蹴りのモーションに入った男に必死で懇願するも虚しく、横たわる俺の前腹部に男のつま先部分が突き刺さった。
聞いたことのない音ともに、明らかに肋骨が折れた音がした。
骨の折れた痛みに加え、内臓への衝撃により呼吸ができずにこの二撃目で意識を落とした。
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