第9話 大規模人攫い集団
セントラル街のルージュリア通りと呼ばれるここは、まっすぐに行けば王国宮殿に辿り着くことからその名がついている。
「意外と似合ってるじゃないか、その格好」
「そうですか……?ちょっと着慣れないですけど」
オルンさんから貰った服を着て、彼女と二人で通りを歩いている。
普段はどこに行くにも男装をするという彼女の服は、どれも男ばかり。
何気なく彼女の胸部を見ると、サラシが巻かれているせいか全く膨らみがない。
こんな外見の人が実はあんなに大きいとは誰も思わないだろう。
「思っていることが丸見えだぞ少年。そういうのはもっと気づかれないようにするものだ」
「はい………すみません」
「謝る必要はない。私たちはもうすでに裸の付き合いを済ませているのだから。そうだろう?」
大通りの路店で並べられている品物を手に取りながら、何食わぬ顔でそう言い切った。
傍から見れば美少年と普通の少年、何もないはずの男同士の関係を如何わしく想像してしまったらしい店員の女性が顔を赤らめていた。
誤解を解くのは面倒なためオルンさんの手をとって早々にその場を後にした
「そういえば、オルンさんはいくつなんですか?」
「ん、私の年齢か?16だ」
「16歳なんですか?!俺と同い年じゃないですか」
もっと上かと思っていたとは口に出さないでおく。
「そうなのか、私はてっきり12かそこらかと思っていたが」
あっ、俺はもっと下だと思われていた。
「ちなみにアリシア様も同じ年齢だ」
アリシアが16と知って納得できるようでできないような……
16歳とは思えない圧倒的な怪力で死ぬほど殴られたが、可愛いだとか綺麗という言葉だけで照れてしまうのは、むしろ16歳とは思えない。
「オルンさん……俺って、アリシアに認められたってことで良いんですか」
「そう捉えても問題ないと私は思っている。きみがどう思うかはきみ次第だが」
昨夜は屋敷の空き部屋に泊まらせてもらえた。
アリシアがメイド数人に空き部屋の清掃を命令し、必要なものを置いてくれた。
その一連の出来事に、当主は一切関与していない感じであった。
ちなみに、俺が一晩寝て過ごした部屋の隣はオルンさんの部屋だったため、朝早くに呼び出されて今に至っている。
どうやら俺の考えていることはこの人に筒抜けらしい。
行き場のない俺はファラディオ公爵家に居座る他に選択肢はないわけで、アリシアにも許されている。
当主の了承は得られていないが。
「きみはアリシア様と共にいたいと思っているのか?」
「俺は……───」
とその時、突然通りの向こうから重低な爆発音が鳴り響いた。
パレードでのアリシアのものと比べると小さく、炎なども見えないが、それでも音で地面が振動するとは余程な爆発だ。
「何が起きたのか……私は少し向こうを見てくる。少年は───」
「うぐっ」
突然背後から何者かに身体を担がれた。
全身を黒のローブで覆った集団とともに、俺は一瞬にしてオルンさんから離れてしまった。
「ちょっ、おい何を……す……る………──」
抵抗しようとしたその時、急激な眠気に襲われてそこで意識は途切れた。
頬に冷たい感触とゴツゴツとした違和感を覚えて、目を覚ました。
まるで洞窟のような、岩肌に囲まれた空間に横になっていた。
手首には金属のような黒い手錠がはめられており、左右を鎖で繋げられている。
そして目の前に見えるのは、縦に組まれた鉄格子。
ここが檻の中だというのはすぐに察しがついた。
ファンタジーにありきたりな牢獄のような場所に、どうして自分が閉じ込められているのかは、まるで推測ができない。
鉄格子まで寄って外の状況を確認しようとするも、うまく見渡せないばかりでなく監視員のような男に睨まれ呆気なく元の位置に戻った。
「俺……殺されるのかな。それとも一生ここにいるとか?」
こういう場合、焦って「出せよ!」とか叫んだ日には刺されるか別のヤバい部屋に連れて行かれるのがオチだ。
何もせずに、何か好機が巡ってくるのを待つしか方法はない。
「──たっ、助けてくれ!頼む、娘だけは助けてくれ!」
「うるせー、とっとと歩け」
ここを通ったのは手錠を嵌められ黒の集団に連れられた男性だった。
その後ろには幼い少女も、同じく連れて行かれた。
あちこちから悲鳴や助けを乞う声が聞こえてくる。
その後も、次々と連れられる人たちがここの檻の前を通っていくのが見えた。
「お前はここだ。入れ」
檻が開かれ、男が突き放した一人の少年が俺の目の前に転がってきた。
収容に限界でもきたのか、それとも似たもの同士で区切っているのか。
放り込まれた少年の意識はまだ戻っていない。
黒のローブ集団はあのルージュリア通りで大量の人々を攫いここに連れてきているのだろう。
担がれる前に起きた爆発は、周囲の気を紛らわせて攫いやすいようにするための囮に違いない。
檻の前を通った人たちの多くは、単なる民間人で戦闘が極端にできないような背格好をした人たちばかりだった。
そういう外見をしている人を中心に狙ったのだろう。
「──おらっ、チンタラしてねぇで歩け!」
「そう怒るな、頭に血を上らせればそれだけそのハゲが進行してしまうぞ」
「なっ、てめぇ……!」
「お、おい手は出すなよ、こいつは結構な高値で売れるかもしれないんだから。大事な商品だ」
「ははっ、分かってるじゃないかお前」
そんな会話を平然としながら目の前を通ったのは、オルンさんだった。
俺に気がついたのか、ウィンクをしてそのまま通り過ぎていった。
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