第5話 地獄のオルフェ
オンカと呼ばれた偽パーティリーダーに手を縛られ、さらにアリシアの魔法により一瞬にして目の前の場所が変わった。
「あの、ここはいったい……」
「アリシア様の部屋だよ。おめでとう少年、きみがこの部屋への初めての来客だ」
「黙れオンカ。とっととその変態を風呂に入れろ」
キッと鋭い眼光を向けて言い放ち、どこかへ行ってしまった。
「あ、あの……オンカさん──」
「オルンだよ」
寸前違わず言い返したその表情は、どこか怒っているような、怖い顔だった。
「……アリシア様だけだよ、私をあんな呼び方するのは。私の名前はオルンだよ、少年?」
一瞬だけ見せた顔は消え失せ、再び笑顔を浮かばせている。
「あっ、俺は有村明人です」
「えっと………名前は、アキト……でいいのかな?」
「そうです」
オルンさんに連れられてこの部屋を出て、異常なほど広い廊下を歩いていく。
公爵令嬢であるアリシアの家は当然公爵家……つまり俺は今、超上流階級の屋敷の中にいるということだ。
その証拠に、すれ違う人のほとんどがメイド服を着た女性か真っ黒のスーツを身に纏った執事のような人ばかりだ。
こんな顔面がボコボコに殴られた男が歩いていることで、すれ違う人が皆して引いた表情を見せているが、その直後にスッと顔を俯けて道を開けている。
彼らはみんな、俺の少し後ろ横を歩くオルンさんを見ているのだ。
道中、誰もオルンさんに挨拶の一つもする人はいなかった。
皆この人を恐れているように身を引いている。
「さっ、着いたよ。ここで君のその顔面をきれいにしよっかー………プフッ」
「人の顔見て笑うことが失礼だって教わらなかったんですか?」
「ごめんごめん……プッ。いやだって、そんなに殴られるだなんていったいアリシア様にどんなことをしたっていうんだよ……プフッアハハハハッ」
俺の顔を見ては腹を抱えて笑い、ツボにどハマりしているオルンさん。
そんなのは置いといて、俺は辺りを見回す。
浴場の脱衣所……のようだが、これは………一般的には到底考えられない豪華さだ。
「きみは先に脱いで入っておいで。私は少し手間がかかるから後で追って入るよ」
「あっはい、分かりました」
確かに今もまだ武装した状態のオルンさんでは、全部を脱ぎ切るのに時間がかかるだろう。
これほどの脱衣所だ、浴場がどれだけ豪華なのか気にならないわけがない。
慌てるように服を脱ぎ、オルンさんから手渡されたタオルを持って中へ入った。
「うわぁ………凄すぎないかこれは」
もう意味が分からないくらいに豪華絢爛な装飾が施されている。
いくつもある洗い場が囲むようにして、中央には巨大な浴槽がある。
この光景を目の当たりにして、興奮して騒ぐどころかむしろ萎縮しているまである。
自分の想像を超えられると、人は驚き以上に困惑してしまう。
「──すごいだろう、ここの浴場は。貴族の中でも特に我が公爵家当主は風呂がお好きなようだ」
後からやってきたオルンさんの声がよく響く───!?
「おっ、オルンさん……女の人だったんですか!?」
「きみは少し失礼なところがあるみたいだな。そのせいでアリシア様にも殴られたのだろう?」
タオルを巻いて隠してはいるが、明らかに隠しきれないほどの大きさを誇っている。
一歩二歩と動くたびに、そのたわわな胸が躍動しタオルの中で跳ねている。
あんな大きなものが鎧の中に収まるわけがないだろ!?
「普段は晒しを巻いてこれを隠しているんだ。ほら、私は顔だけ見ればどちらかと言うと男だろ?屋敷の中でも私は男で通っているんだ」
「確かに……というかそう思ってましたが、今のオルンさんの格好を見ると印象がまるで違います……」
「お?なんだ、照れてるのか少年」
タオルを一枚巻いただけのオルンさんがすぐ目の前にいる。
その姿で俺の顔を窺うようにして至近距離で覗き込んでくる。
「ほらさっさと洗い場へ行け。特別に私が洗ってあげよう」
強引に腕を引かれ、鏡の前に座った俺の後ろに立つオルンさん。
頭から洗われ、柔らかいたわしで身体を洗われていく。
背中を満遍なく洗われ、腕を持ち上げられ洗われていくこの状況で俺はひたすら目を閉じたままいた。
「なんだ、目に泡が入ってしまったか?」
「い、いえ……目のやり場に困るというか、なんか見てはいけないような気がしただけなので……」
目の前の巨大な鏡のおかげで、俺の身体を洗っているオルンさんがばっちり映ってしまう。
頭を洗われていた時に目を開けていたら、視界にちょうど彼女の脇が鏡越しにはっきりと見えた時は精神が危うくなりかけた。
俺の腕を洗いおえたオルンさんは、あろうことか身体の前側へ手を回してきた。
「ちょっ、オルンさん!?前は自分で洗いますから…───!」
脇下から回された彼女の腕は、俺の身体を後ろから抱きしめるようにして密着してきた。
タオル越しでもしっかり伝わる背中の柔らかい感触と、胸に当てられた彼女の手が妙にくすぐったい。
「───…きみは今、とてもエッチな気分だ」
耳元で囁くようにして声を発せられ、身体全身がびくりと震えた。
彼女の吐息が耳の奥に入っていくのと同時に全身の力が抜けていく。
「……そうだろう、少年?」
「………っ、す、すみません……」
「ん〜?なんで謝るんだ?」
彼女が喋るたびに俺のHPはぐんぐんと削られていく。
天国と地獄──身体の快楽と精神の苦痛が同時に舞い込んでくる。
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