第9話
「…………」
家に帰った僕は、パソコンの画面を睨んでいた。画面に映っているのは小説投稿サイト。もうすぐ完結するシリウスをコンテストに応募するかどうか、十五分は悩んでいる。
(……でも……)
凪さんは、応募しようと一生懸命書いてる。それなら僕も……
意を決した僕は「現代ドラマ」にチェックを入れて、「応募」ボタンをクリックした。
「……よし」
ボソッと呟く。
今日と明日の更新分はもう予約してるし、今日は曲作ろうかな。
僕はヘッドホンをつけてパソコンを起動した。
僕は、曲を作る時はメロディーから作るタイプ。それに合わせて歌詞を書くんだ。
ラスサビまで作り終わってるから、あとは後奏だけ。全体的にピアノとオーケストラで作ったけど、後奏はピアノだけにしよう。ラスサビのメロディーを繰り返すけど、だんだん遅くしてって……最後に、ピアニッシモの一音。
「……できた」
メロディーだけ、ボーカロイドに歌わせてみる。
……うん、いい感じ。じゃあ次は歌詞だな。
メモアプリを開いて、入れたい歌詞を打ち込んでいく。この曲は落ち込んでいる人に寄り添う曲にしたいけど、『頑張れ』なんて安直な言葉は使いたくない。
……やっぱり、モチーフは星かな。夜でも光ってて、目印になってくれるし。シリウスもそんな理由で作ったけど、アップテンポな曲だったし。
「……あ」
帰ってきたの、四時くらいだったんだけどな。七時になってる。
「奏太」
その時、ちょうど母さんが顔を出した。
「ご飯できたよ」
「うん、今行く」
僕は椅子から立ち上がった。
けど、僕は知らなかった。凪さんが、僕が思っている以上に追い詰められていたということを。
それは一ヶ月後のこと。いつも通り、執筆をしていた。
さっき、学校にレポートは提出したから、執筆に集中出来る。
歌詞は……止まってる。上手く書けない。僕、あまり歌詞を書いてる時に手が止まるタイプじゃないから、結構珍しい。もうちょっとで完成なんだけど……
だから、先に執筆してる。シリウスは完結させて、今は新作に取り掛かっているところ。
今まで手を出してこなかったファンタジー系。凪さんと再会して、頑張ってる凪さんを見ていたら、僕も、新しいことに挑戦してみたくなって。
多分、十万字以上の長編になるから、一週間かけてプロットを練った。ひょんなことから異能力を手に入れた少女が、仲間たちと戦う物語。これも王道なストーリー展開だけど、僕は突飛な発想ができないから、文章力で魅せるつもり。
と、スマホが震えた。
「……メール? 学校からかな……え!?」
メールを開いた僕は、驚いて立ち上がった。
そのメールは、僕が応募したコンテストの審査員からのメールだった。件名は「中間選考内定について」。
ってことは……中間選考突破!?
スマホを持つ手が、細かく震える。
元々僕はあまり感情の起伏がないタイプなんだけど、今、すごい心臓の鼓動がうるさい。
「嘘……シリウス……が……?」
息も上がってきた。頭が回らない。だってまさか、通るなんて思ってなかったから。
「奏太?」
と、開きっぱなしにしていたドアから母さんが顔を出した。
「大きな声が聞こえたけど、どうしたの?」
呆然と、母さんを振り返る。
「……僕の作品が、中間選考突破した」
「え!?」
驚いた母さんが駆け寄ってきて、僕はメールの画面を見せた。
「すごいじゃない奏太!」
母さんは、自分の事のように喜んでくれた。その笑顔を見てようやく、実感が湧いてくる。
僕、中間選考、突破したんだ。
……そうだ、凪さんにも伝えなきゃ。
気持ちを落ち着けたあと、僕はパソコンに向かった。DMの画面を開いて、中間選考を突破したことを知らせるメッセージを書いて送る。
そういえば、凪さんが応募してた児童小説のコンテストも、二週間後くらいに発表だったっけ。中間選考を突破したなら、凪さんにもメールが送られててもおかしくないな。もしかしたら、その話も聞けるかも。
僕は、そんな悠長なことを考えていた。
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