第8話
「――でも、私も手を貸したことには変わりない。止めることだって出来なかった。だから……本当にごめんなさい……!」
私は座ったまま頭を下げた。けど、謝ったって、許されることじゃない。高校生になっていじめられる側になって、ようやく辛さに気づいた。
体育着の件の時、喧嘩になったって止めるべきだった。そこで止められなくったって、手を貸すんじゃなかった。そんな後悔ばかり渦巻いている。
「顔、上げて」
カナタさん――ううん、八代君の冷たい声。顔を上げると、八代君は私の話を聞いていた時と全く同じ顔をしていた。無表情で、何を考えているか分からない目。
「……凪さ――笹原さんが全部話したから、僕も思ってたこと言うけど。ずっとくだらないとは思ってた。でも、笹原さんが僕をいじめるのに否定的なのは気づいてたよ」
「え……」
「そもそも、僕をいじめてたグループにも最初から気づいてたし。けど、その中で笹原さんだけ辛そうな顔してたから、ちょっと気になってはいたんだ。――まあ、あのリュック、中二の時に死んだばあちゃんが買ってくれた形見みたいなものだったけどね」
八代君がボソッと言った言葉に、私は胸が締め付けられる思いがした。
リュックの件には、私は関与してないけど。私がいじめを止められていたら、防げたこと。
そう考えたら、悔しくて、悲しかった。やっぱり自分のことが嫌いだ。
「……で、答えたくなかったら答えなくていいんだけど」
少しの間の後、八代君が言いにくそうに言った。
「今、笹原さんをいじめているのって、僕をいじめてた女子たち?」
びっくりして、顔を上げる。だって――その通りだから。
「……どうして、それを?」
「笹原さんたちが同じ高校に行くのは知ってたんだ。だから、もしかしたらと思って」
八代君の表情が、いくらか柔らかくなった。
「ああいう人たちって、自分と合わない性格の人をすぐに攻撃するから。笹原さんは、あの人たちと合ってなかったからね」
……すごい。
中学校の頃は表情が全然変わらなくて、何考えてるかよく分からなかったけど、ちゃんと周りを見てたんだ。
「小説書いてる身だからね。ネタ集めとかしてるうちに、色々頭の中で考えるようになってさ」
私の心を見透かしたように、八代君は軽く笑った。
「まあそんなわけで、不登校になってからは執筆や曲作りに専念するようになって、今に至る。だから、別に笹原さんたちのこと、恨んだりはしてないんだ。元々過去のことは割り切る性格だしね」
八代君はあっけらかんと言った。多分、本当に気にしてないんだろうけど……私は気にしちゃうよ。そういう性格だから。バッサリ割り切れないから。
「……そういう気持ちでいたら、児童小説なんて書けないよ。自分もワクワクしてなくちゃ」
ハッとする。
言われればそうだ。小学校の時に児童小説を読んだときの衝撃を思い出す。あの時も、すごくワクワクしてた。
……そうだよね。自分が楽しんでなきゃ、他人も楽しめないよね。
「……うん」
笹原さんが頷いて、微笑む。僕の前で見せた、初めての本当の笑顔。
何回か笑ったことはあるけど、どこか表情が固い気がしてたからちょっとホッとした。
「じゃあ、この話はこれでおしまい。続き書こう、凪さん」
「そうだね、カナタさん」
凪さんはパソコンに向き直った。
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