第3話
その連絡が来たのは、ちょうど書いていた小説が一段落ついた頃だった。アイデアが出てきたおかげで明日の投稿分まで書き終えて、キッチンからアイスココアを持ってきたとき、パソコンに通知が来た。
「DM?」
SNSのDMの通知だった。連絡来るの珍しいな……アカウントはあるんだけど、新曲公開とか小説連載とかの告知にしか使ってないし、誰かから連絡が来ることはあまりない。
開いてみると、送ってきたのは凪さんだった。
『こんばんは。突然すみません。コメントにも書いたのですが、カナタさんの曲を聴いて、救われたような気持ちになりました。アップされていた曲を全て聴かせてもらったのですが、いつの間にか泣いていて、少し心が軽くなりました。小説も、シリウス以外にも読んでみようと思っています。本当にありがとうございます』
シリウスっていうのは、僕が今連載している小説のタイトル。実はこれ、さっき凪さんがコメントをつけてくれた曲を元にして書いているんだ。
もともと思いついたストーリーを曲にしてみたらすごく評判が良くて、小説も出してみようと思ったんだ。目の見えない大学生の青年が、年下の少女に出会って恋する話。王道なストーリーだけど、そこそこ人気も出ている。
そろそろ公募も始まるし、応募してみてもいいかもな。
僕はそんな事を考えながら返信を打ち始めた。
それからというもの、小説や曲を更新するたびに凪さんはコメントやいいねをつけてくれるようになった。すごく細かいところまで見てくれているのがコメントからよくわかる。長い感想はDMでくれたりして、時折雑談も混ざるようになった。
そして、それが一ヶ月ほど続いた。
『もしかして、私とカナタさんって住んでいるところが近いかもしれないです』
そんなDMが来たのは、最近連載を始めた日記を更新した数分後のことだった。
僕は思わず画面に釘付けになった。
『私の近所にも、そのショッピングセンターあるんです。それに、お祭りがあるって言ってましたけど、私のところもそうなんです。だから、もしかしたらと思って』
――まさか、こんな偶然があるなんて。
僕が返信できずにいると、凪さんからさらにメッセージが届いた。
『実は私、前からカナタさんに会ってみたいと思ってたんです。カナタさんの小説をずっと読んでて、それで私も小説を書きたくなって書いてみたんですけど、あまりうまくいかなくて。だから、図々しいかもしれないですけどアドバイスをもらいたいなって』
『DMでもいいんですけど、会った方が話しやすいと思ってて』
『だから、もしよければ、空いている時間、会っていただけませんか?』
……多分、本当なんだとは思うけど。この近所に住んでるってことは、僕の顔見知りかもしれない……ってことだよね。ちょっと、それはな……
……でも、凪さんが教えてほしいって言うなら。行ってみてもいいかな。文章越しではあるけど、一ヶ月話して、凪さんが嘘をついているようには思えないし。
僕は深呼吸を一つして、キーボードに手を置いた。
『わかりました、大丈夫です』
『僕の行きつけのカフェが近所にあるのですが、そこで待ち合わせるのはどうでしょうか?』
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