第六話: 森の中の罠と謎の少年

悠斗とエリスは、新たな目的地を目指して旅を続けていた。彼らは森の中に入ることを決め、木々が生い茂る道を慎重に進んでいた。森は静かで美しいが、その静けさが逆に不安を掻き立てる。エリスが、ふと立ち止まり、周囲を見回した。


「なんだか…妙に静かじゃない?」


「そうだな。何かいるのかもしれない。気をつけよう」


悠斗は警戒しながら進むが、突然、地面が崩れ落ちる音が響いた。彼が踏み出した足元が陥没し、悠斗はとっさに後ろに飛び退いた。目の前に現れたのは、大きな落とし穴だった。


「罠か…」


「悠斗、無事?」


エリスが心配そうに駆け寄ってきたが、悠斗は無事なことを伝えた。


「大丈夫だ。でも、これは…誰かが仕掛けた罠だな」


二人は罠の存在に驚きながらも、周囲を警戒しながら進むことにした。森の中をさらに進むと、次々と罠が仕掛けられていることに気づいた。木に隠されたトラップや、地面に仕掛けられたロープなど、巧妙に隠された罠が二人を待ち受けていた。


「一体誰がこんなことを…?」


エリスが不安そうに呟いたその時、茂みの中から何かが動く気配を感じた。悠斗はとっさにその方向に目を向け、木々の間に小さな影を見つけた。


「そこに誰かいるのか?」


悠斗が声をかけると、その影は驚いて飛び出してきた。現れたのは、まだ十代半ばの少年だった。やせ細った体にボロボロの服をまとい、彼の目には警戒心が浮かんでいる。


「何者だ?」


悠斗が慎重に問いかけると、少年はしばらく黙っていたが、やがて震える声で答えた。


「…ごめんなさい。僕が仕掛けた罠です」


少年は頭を下げたが、その言葉には恐怖と緊張が混じっていた。エリスが優しい声で問いかけた。


「どうしてこんなことをしたの?私たちに危害を加えるつもりだったの?」


少年は驚いたように首を振り、慌てて言葉を続けた。


「違うんです!あなたたちを傷つけるつもりはありません。僕は…強盗団に追われていて、身を守るために罠を仕掛けていたんです」


「強盗団?」


悠斗とエリスは顔を見合わせた。少年は辛そうに続けた。


「僕の名前はリュウ。孤児で、ずっと森の中で一人で暮らしていました。でも、ある日、強盗団に見つかって…彼らは僕の住んでいた場所を奪おうとしているんです。だから、こうして罠を仕掛けて、自分を守っていたんです」


「なるほど…それで、君は一人で戦っていたんだな」


悠斗はリュウの話を聞いて、彼の苦境に心を痛めた。エリスも同じ気持ちだったのか、リュウに優しく微笑んだ。


「リュウ、一緒に来ない?私たちと一緒なら、安全に旅を続けられるわ」


「でも、僕なんかが一緒に行ったら、迷惑をかけてしまうかもしれません…」


リュウは自信なさげに答えたが、悠斗はその言葉を否定した。


「そんなことないさ。俺たちは君を守るし、君もきっと何か役に立てることがあるはずだ。だから、一緒に来いよ」


悠斗の言葉に、リュウの目に希望の光が宿った。彼はしばらく考えた後、ゆっくりと頷いた。


「…わかりました。お願いします」


こうして、リュウが新たな仲間として加わることになった。しかし、彼らがこれから直面する困難は、まだ始まったばかりだった。


数時間後、悠斗たちは森の中の開けた場所にたどり着いた。そこはリュウが住んでいた小さな家の跡地で、周囲には生活の痕跡が残っていた。しかし、その家は無残にも壊され、今は見る影もなくなっていた。


「これが…」


リュウが辛そうな顔をするのを見て、エリスはそっと彼の肩に手を置いた。


「リュウ、もう大丈夫よ。これからは私たちがいるから」


「うん、ありがとう…」


リュウがエリスに感謝の言葉を伝えた瞬間、突然、茂みの中から物音が聞こえた。悠斗が素早く構えると、そこから現れたのは武装した男たちだった。


「おい、あのガキがここにいるぞ!捕まえろ!」


男たちはリュウを見つけると、一斉に攻撃を仕掛けてきた。彼らはリュウが話していた強盗団だった。


「エリス、リュウを守ってくれ!俺がこいつらを何とかする!」


悠斗は素早く立ち上がり、木の枝を武器に強盗団の男たちに立ち向かった。男たちは刀や斧を振りかざして襲いかかってきたが、悠斗のインフィニティグロースのスキルが発揮され、次々に撃退されていった。


「何て強さだ…!」


強盗団の一人が驚きの声を上げたが、悠斗は一瞬の隙を突いてその男を地面に倒した。男たちは次々に逃げ出し、最後の一人が取り残された。


「くそっ…こんなガキにやられるなんて…!」


その男が立ち上がろうとした瞬間、悠斗は木の枝を突きつけ、静かに言った。


「もう二度と、リュウや他の人たちを襲うな」


男は怯えた顔で頷き、すぐに逃げ去った。悠斗は肩の力を抜き、エリスとリュウの方に歩み寄った。


「これで一安心だな」


「ありがとう、悠斗さん…僕、一生恩を忘れません」


リュウは涙を浮かべながら、感謝の言葉を口にした。エリスも微笑みながら彼を抱きしめた。


「これからは私たちと一緒に行こう。もう一人じゃないわ」


リュウはその言葉に力強く頷き、新たな決意を固めた。こうして、悠斗たちはさらに強い絆で結ばれ、次なる旅路へと向かうことになった。


異世界での彼らの冒険はまだ始まったばかりだが、仲間との絆を深めながら、彼らはどんな困難にも立ち向かっていく。そして、その道のりの先に待ち受けるのは、彼らがまだ知らない真実と、さらなる試練だった。

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