水曜日
雨が降っていた。朝から晩までずっと。
鈍い頭痛を抱えながら電車に乗り込み席に座る。
年月を経て色あせた布とじっとり湿ったスカートとが触れ合う。絞り出された雨水が腿ににじんで気持ち悪いので、浅めに座るのが常のことだ。
腕の重みを乗せて足の爪先についた傘が、ときおり傾いで膝に触れる。水滴のついた膝を擦る手は生温かい。
雨の日は少しだけ乗客が多い。体感はいつもの一・五倍くらい。それは今日も例外でなく、あのスーツの女の人が乗ってくるまでにも私が一人になることはなかった。
靴の底がキッと音を立てる。いつもと違った靴音を鳴らして、彼女は私の右隣に座った。
大雑把に畳んだ折り畳み傘をビニール袋に入れて無造作につかんでいる。思いの外柔らかで温かい濃い色のスーツはやっぱり妙に目立つ。
鞄を抱き締め、なるべく肩を触れ合わせないように気をつかいながらちらりと彼女の横顔を見た。
彼女がこの電車に現れてから三日になる。最初は仕事か何かで来ているんだろうと思ったが、本当のところはどうなんだろう。
発車の反動に襲われて、バランスを崩して彼女にもたれかかってしまった。
「すみません」
とすぐに体幹を立て直す。
「大丈夫です」
そう言う彼女は微かに笑んでいる。
私は曖昧に笑い返して、首のあたりを擦りながら前に顔を戻した。
向かいの席では疲れたサラリーマンが腕を組んで居眠りしている。意味もなくその揺れる頭を観察しながら、私は残りの駅をやり過ごした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます