第10話 城からの脱出
「はぁ……はぁ……」
俺は息を切らしながら、城の入り口へとたどり着いた。俺はヴェルとレムが無事かどうかを確認するために、あたりを見渡す。
「ヴェル!レム!」
すると、城の入り口から二人の姿が見えた。俺は安堵のため息をつくと、二人の元へと駆け寄る。
「二人とも無事だったんだな!」
「いや……ソウマって…………なんでそんなに体力があるんだよ…………はぁ……はぁ……」
「そ、そうですよ……こんな……に……走ってきて……」
「いや、二人とも体力なさすぎじゃないの!?」
二人はもはや息も絶え絶えの状態だった。そういえば、俺もなぜこんなにも体力があるのかと不思議だよ。だって俺たち2キロメートルの距離を限界まで走ってきたのにもかかわらず、まだレムやヴェルのようにぶっ倒れていないことに、俺は違和感を感じていた。
もしかしたら転生効果というものなのかな?俺はそんなことを考えながらも、ヴェルとレムの無事を確認できたことに安堵した。そして俺は、ある程度の体力が戻ってきたことがわかったので二人に水晶龍が相棒となったことを話した。
「なるほどな……それでその竜は?」
「はーい!!何か呼びました?」
「うぉっ!?」
急に目の前に現れたアオに、ヴェルは驚きの声を上げる。
「あ、ごめーん」
アオは舌をかわいく出しながら謝る。
「な、なんだこいつ……?」
ヴェルはアオを見て、訝しげな表情を浮かべる。
「こいつは俺の相棒のアオだ。なんか俺の相棒になりたいんだってさ」
「ソウマ様という相棒がいます、私はそのソウマ様のパートナーです!!」
「わかったわかった」
俺にしてみれば、今はベビードラゴンでも、本来の姿は立派な龍なので、パートナーと言われても、なんとも複雑な気分だった。
すると、ベビードラゴンは俺の左肩に止まり、俺の肩にちょこんと顎をのっけた。
「ふぁっ……」
ヴェルは驚く声を上げている。
「なんか、可愛いですよね。ちょっとびっくりしたけど。なんか、ほかの言葉に表せないほど、やっぱり可愛いんですよ」
レムはそう言いながら、俺の左肩に飛び乗った。
「何か、なんとなく……これ、だけは、かわいいんだな、と」
あーあ、二人とも赤らめてるよ。でもまあ、かわいいと言えばかわいいし、かわいいだろうなって思ったけどね。
「……なあ、ソウマ。この子、どこから来た?」
「んー。どうなんだろ。この姿はベビードラゴンらしいけど、アオの本当の姿っていうのはさっきの龍そのものだから、多分龍として生まれたってことだろうね」
「そうか……なら、少し、の間、この子に似合わねえけど……俺が、面倒をみよう」
ヴェルは、なぜか、恥ずかしそうにしながらもそう口にするのだった。
「ヴェル……?」
ヴェルは恥ずかしそうにしながら、俺の顔色をうかがうように見つめる。実際に見るのはたぶん久しぶりだもんなぁ。
「いいじゃん。可愛いの可愛いはいいってもんだ。別に悪いことじゃないだろ」
俺がそう言うと、ヴェルは恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうな表情で頬を緩ませていたのだった。
***
そうして、二人がベビードラゴンと仲良くなったあと、俺たちはここで野宿をすることになった。
「……さて、ここは、どうだかなあ?」
「うん。夜は少しだけ温かいからね」
俺とアオは、空いている空間に飛び込み、まだ暗い空を照らす月がゆっくりと輝いていた。ヴェルとレムは、近くの大木で眠っている。俺はそんな様子を見て、見張りをするなら、誰か交代要員を探そうかとも考えていた。焚火の温かさに包まれながら、俺は眠りに誘われるのを感じた。
「……ねえ、ソウマ……ごめんなさい」
「?、どうした?」
アオはうなだれるように俺のお腹に抱き着いてきた。急に謝るだなんて珍しいなと不思議に思いながら、俺はアオに声をかける。
「あの時、みんなを怖がらせるような登場の仕方しちゃって…………ソウマを怖がらせてしまったことに…………後悔してるの…………ごめんなさい……」
アオのその声に、俺は何をそんなに謝っているのか、なんとなく、察してしまったのだった。
「……そうだな。別に俺、びっくりしただけだぞ?」
「……え?」
アオは顔を上げて、こちらを窺うようにして見つめてくる。
「……もしかして、あいつらに怒られるって思ってるのか?」
「うん…………ソウマだけは……大丈夫かなって…………」
アオは不安そうにしながら、俺のことを見てきた。
「確かにお前のような竜が出てきたら驚くかもしれないぞ?だけどな?ヴェル達はお前のこと、認めてくれたんだから」
「ほ、ホント?」
アオの目は、とても不安そうに見えた。
「ああ。心配しないでくれ。それに、俺はお前のことを認めてるからな?」
アオは、俺の言葉に涙をぽろぽろと零しながら、嬉しそうに微笑んだのだった。
「ありがとう……ソウマ…………」
俺がそう返すと、アオは俺に抱き着いてきて、俺にしがみ付くように抱きついたのだった。
「アオ、今日はもう寝ようか。明日には早く出ると思うし」
「うん…………」
そう言うと、アオは素直に頷いたのだった。
ヴェルもレムもアオも、眠っている。俺が瞼を閉じたところで、もうすっかりと暗くなっていた。
アオが寝静まったことを確認すると、俺は近くの岩山まで飛ぶことにしたのだった。
「……ここは…………」
俺はその、雲間から見える月を目の当たりにして、その美しい姿に息を飲んだ。
俺はその光景に、息を呑んでいたのだった。
「……綺麗だ……」
月が雲の隙間から現れ、雲は月を隠さず、月だけを輝かせているようだった。俺はあまりの美しさに、思わずそう漏らしていたのだった。思えば、今日は電脳世界に来て1日目。異世界に来てからは、1日も経っていないのだけれども、この世界に来た時に感じた空気は、今思い出しても綺麗だと思った。もしこのまま一人だったらと思うと、とても心細い思いだっただろう。
俺はその空を見上げ、この異世界に来た理由を、思い出してしまったのだった。
俺は、この世界で、大切な人と出会ったのだ。
大切な人と過ごした時間を考えると、嬉しくて幸せでたまらなかったのだった。
俺はそのまま、再び眠りに誘われ、意識を手放すのであった。
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