第5話 移動
「おい、お前って帝国の剣士か?」
「帝国?」
「お前、帝国の剣士じゃないのか?」
「……えっと」
俺は男性の話に少し戸惑った。帝国ってなんだ?
「おい、お前。帝国の剣士なら、この剣のマークは知ってるだろ?」
俺の剣の紋章は何かの剣が二つ交差しているような形だった。
「いや……知らないな」
俺は投げかける言葉に詰まらせていた。
「そうか、お前強そうかと思ったんだが……」
「なんか……ごめん」
「別にいいよ」
男性は、そう言い返した後俺の元から離れた。
俺ってやっぱり帝国?っていうところの剣士なのか?でも、俺はそんな国知らないぞ……
「それより、この世界について教えてほしいな。電脳世界ということだけしかあたまになくて」
「電脳世界か……。すっかりこの世界がそういわれるようになったか」
「うん、ここってもしや帝国内?」
俺がそういうと、男性は振り返って俺を睨みつけてきた。
「帝国なんて大層なもんは昔に滅んでしまったよ」
「え!?まじ?」
「ああ、マジだ。今は誰もいない寂れた廃墟の町。帝国があったなんていうのは大
昔の人の妄想だ。簡単に言えば、灰色の世界」
灰色の世界……。
「帝国の剣士のお前はなぜここに?」
「おい、その『帝国』って何だ?俺はそんなもの知らないぞ」
「お前、いったい誰だ?」
男性は再び俺を睨みつけてきた。俺、なんか変なことを言ったか?
「俺の名前はソウマだ。どこから来たというと……うー……」
「……まあ別に言いたくないなら言わなくていいよ。俺の中では帝国の生き残りと覚えておく。俺の名はヴェールド・シュトラウス。ヴェルと呼んで」
「ヴェル……」
ヴェールド……シュトラウス。あれ、どっかで聞いたことがあるような……、まあいい。
俺は数少ない人々の中で巡り合えたヴェルに感謝しながら会話を続けていく。
「それよりヴェルはこれからどうするつもりなんだ?」
「俺は、城へもう一度向かうつもりだ」
「そうか、なら一緒にに行こう。俺も城の光景を見ておきたい」
「わかった、ついてきてくれ」
俺は、ヴェルについていくように城へと足を運ぶのであった。
「なあ、ヴェルはなぜ城へ?そしてなぜあの場所に?」
「俺は、あの城が帝国のものであると信じているからだ。そしてあの場所にいたのは……」
ヴェルは何か思いつめたような顔をしていた。何か訳ありなのか……。
「まあ、それはいつか話そう。それよりソウマ、お前はなぜあんな場所にいたんだ?」
「うっ……」
俺は一瞬焦った。ヴェルにはこの世界では見ず知らずの人間である俺だ。そんな俺が
「異世界に来て彷徨っていました」なんて言っても信用してくれるはずがないよ。
「言えないのか?」
「いや……はは」
俺はつい笑ってごまかした。
「そうか、なら別に追及はしない。俺も詮索は嫌いだしな」
ヴェルはそう言うと、先へと進んでいく。すると大きな白い建物が見えてきた。
「あれが、城の跡地だ」
ヴェルは淡々とした口調でそう言った。本当にここに城があったのか?
「みんな……いないのかな?」
俺はふと疑問を口にした。そうだ、ここは無の世界と言われているんだ。いるはずもない。もしかしてまだ意識があるうちに、俺以外の人たちは電脳世界へ転送されたのかもしれない!しかしそれはヴェルの言葉で否定されるのだった。
「城の中には生き残った人がいると聞いたが、正直生きているのはごく僅かだろう」
「ヴェルは……その人を探しに?」
俺がそういうと、ヴェルはゆっくりと頷いた。そして続けて言う。
「でも……もし生きている人がいたとしても……」
俺は息を飲み込んで、その先をヴェルの口から聞くことを避けた。その続きを聞くことが怖かったからだ。きっとみんな死んでいるんだろうな……。俺はそう思いながら城の方へと足を運んだのだった。
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