第16話 恩着せがましい事件
あまり細かい事を気にしない女性上司が、育児放棄されている親戚の女の子を引き取ったと言っています。
私もみんなも勿論、偉いなと感心しました。
その子は上司の家に住みながら、定時制高校に通い、昼間は我が社でアルバイトしています。
ただ、上司は二言目にこう言います。
「この子はね、あわや中卒で社会に放り出される所をあたしが拾ってやったの」
言われるたびにその彼女はつらそうにうつむきます。
「あたしが自分ん家に住まわせてやって、定時制高校も行かせてやって、おまけにうちの会社で働かせてやっているの。卒業後はここで正社員として働かせてやるからさ。あんた、あたしに感謝しなさいよ。一生、頭が上がんないでしょ」
彼女は言われるたびに苦笑いしています。
あまりにも毎日言うので、聞くに聞きかねた男性社員が言いました。
「言い過ぎじゃないですか?〇〇さんだって、そんなに毎日恩着せがましく言われたらつらいよね?」
彼女はうなずいていいものか、迷っています。
女性上司は大声を張り上げました。
「だって本当の事だもん。あたし、この子の恩人だもん。この子、あたしに感謝すべきだもん」
それは相手から言う言葉であって、自分から言うのはやはり嫌らしいでしょう。
その後、その女の子は定時制高校を卒業し、自力で通信制の大学へ進学、卒業後、
別の企業に就職し、自分でアパートを借り、あらゆる意味で独立しました。
恩着せがましい事を言われるのがよっぽど嫌だったのでしょう。
あまり細かい事を気にしない女性上司は
「裏切られた!」
と大騒ぎしていましたが、誰も相手にしませんでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます