第16話 恩着せがましい事件

あまり細かい事を気にしない女性上司が、育児放棄されている親戚の女の子を引き取ったと言っています。

私もみんなも勿論、偉いなと感心しました。

その子は上司の家に住みながら、定時制高校に通い、昼間は我が社でアルバイトしています。

ただ、上司は二言目にこう言います。

「この子はね、あわや中卒で社会に放り出される所をあたしが拾ってやったの」

言われるたびにその彼女はつらそうにうつむきます。

「あたしが自分ん家に住まわせてやって、定時制高校も行かせてやって、おまけにうちの会社で働かせてやっているの。卒業後はここで正社員として働かせてやるからさ。あんた、あたしに感謝しなさいよ。一生、頭が上がんないでしょ」

彼女は言われるたびに苦笑いしています。

あまりにも毎日言うので、聞くに聞きかねた男性社員が言いました。

「言い過ぎじゃないですか?〇〇さんだって、そんなに毎日恩着せがましく言われたらつらいよね?」

彼女はうなずいていいものか、迷っています。

女性上司は大声を張り上げました。

「だって本当の事だもん。あたし、この子の恩人だもん。この子、あたしに感謝すべきだもん」


それは相手から言う言葉であって、自分から言うのはやはり嫌らしいでしょう。


その後、その女の子は定時制高校を卒業し、自力で通信制の大学へ進学、卒業後、

別の企業に就職し、自分でアパートを借り、あらゆる意味で独立しました。

恩着せがましい事を言われるのがよっぽど嫌だったのでしょう。


あまり細かい事を気にしない女性上司は

「裏切られた!」

と大騒ぎしていましたが、誰も相手にしませんでした。

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