第15話 教訓が全然活かされていない事件
あまり細かい事を気にしない女性上司が、三十代で独身の女性社員に言いました。
「ねえあなた、結婚しないの?うちの娘は私が結婚しなさいと言えば結婚するし、子どもを産みなさいと言えばきちんと産むのよ、だから幸せなの。だからあなたも結婚しなさいよ」
料理が出来ない彼女にも似たような事を散々言っていたのに、
全然それが活かされていない、学習していない、と周囲が慌てました。
三十代で独身の女性社員は、こう返します。
「私の人生を決めるの、私ですよね?」
あまり細かい事を気にしない女性上司が高らかに言います。
「人は親業をやって初めて親を安心させられるものなの、親業っていうのは、親になる事ね。だからあなたも親を安心させる為にも早く結婚して子どもを産みなさい」
三十代で独身の女性社員が言います。
「私は自分の人生を生きる為に生まれたのであって、親を安心させる為に生まれた訳ではありませんよ」
あまり細かい事を気にしない女性上司が食い下がります。
「あなた、きょうだいは?」
「姉がいます」
「娘が二人とも独身じゃ、お母さん困っちゃうわねえ」
「どうして姉が独身って決めつけるんですか?姉は結婚していますよ」
「子どもは?」
「いません」
あまり細かい事を気にしない女性上司が、
さも疲れたようにハーハーため息を付きます。
三十代で独身の女性社員も、みんなも、呆れて見ています。
女性上司が吐き捨てるように言いました。
「それで親、何も言わないの?」
独身女性が平然と返します。
「言いませんよ」
女性上司がみんなに向かい、同意を求めるように言いました。
「ねぇ、この人の家、おかしいわよね?おかしいわよね?」
見るに見かねた私たちは言いました。
「全然おかしくないですよ」
「そうですよ、今時そんなのちっとも変わっていませんよ」
「○○さん、言い過ぎですよ」
あまり細かい事を気にしない女性上司が憤然と啖呵を切ります。
「いや、おかしい。この人の家、おかしい。だってある程度の年齢になったら焦るのが普通よ。結婚をまるで考えていない、焦りもしない、姉夫婦には子どもいない、親は何も言わない、完全におかしいでしょうが」
あまり細かい事を気にしない女性上司は、
それからもその人にいらん事を毎日言っていました。
「若さは必ず衰える」
だの
「その年でひとりなんておかしいわよ」
だの
「あなた疲れた顔しているわよ」
だのと。
三十代女性社員はしまいにこう言いました。
「ああうるさい!もう黙っててくれます?ねえ、おばあちゃん!」
私もみんなもびっくりしましたが、女性上司はやっと黙ります。
そしてずっと悲しそうな顔で仕事をしていました。
気の毒な気もしましたが、おばあちゃん呼ばわりすれば黙るんだ、と暗黙の学習がありました。
みんながいたたまれない空気の中、
上司が仕事をするキーボードのカタカタという音だけが響いていました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます