第14話 妊婦は雇わない事件

料理の出来ない彼女が、妊娠八ヶ月に入りました。

大きなお腹をユサユサさせながら仕事をしています。

翌月から産休と育休なので、引き継ぎに忙しそうです。

私たちも精一杯協力して、彼女の負担を減らそうとしています。

あまり細かい事を気にしない女性上司がやってきてこう言いました。

「あなた、色々人に頼んで何様のつもりなの?」

妊娠した彼女が毅然と言います。

「何様のつもりはありません。きちんと引き継ごうとしているだけです」

女性上司が言います。

「うちはもう妊婦は雇わない、妊婦は雇わない」

妊娠した彼女は静かに言いました。

「誰だって最初から妊婦ではありませんよね?」

女性上司は減らない口で言いました。

「あなた、子どもが熱を出したとか、

病院だ何だってしょっちゅう休むようじゃ困るわよ」

妊娠した彼女は尚更静かに言います。

「最初から弱い子が良いと思っている親なんてひとりもいませんよ」

周囲が焦って止めに入ります。

「まあまあ、まあまあ」

「そうそう、もうその辺で」

「お腹の子に障りますよ」

「早産しちゃったら大変だから、もうお互い黙りましょう」

女性上司は仕方なさそうに引き下がっていきました。

ひとりが妊娠した彼女をいたわるように

「大丈夫?」

と、聞いた所、彼女は笑顔でこう言いました。

「大丈夫よ。この子が私の精神を守ってくれているのが分かるの」

みんなほっとします。


ああ、母は強し!

みんなで彼女の赤ちゃんが無事に産まれてくれる事を心から願いました。


(明日に続きます)

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