第17話

金属質な肉片が何十キロも飛んで雨あられと降って来た。


「あいつの破片が飛んできたから慣性断層バリヤ張るジャリ」


ガン、ゴン、ドカン、と、百メートルほど上空の見えない壁にぶつかって巨大な金属塊が跳ねている。

離れた所では、地響きを立てながらビルくらいの破片が地面に深々と突き刺さる。


「きゃっ、なにこれ!!」


清子は頭をかばうようにしながら息子を抱き寄せ、その上に屈み込ながら夫のもとに走った。


「清宗がさっき護身術のビームでめちゃめちゃに撃った怪獣の破片!!」

「この子がやったの?これぇ…?」

「見てたじゃないか」

「まさかと思うわよ、あんな」


一家が空を見ている内にもバリヤに降り積もる破片でたちまち星が覆い隠されて行く。

戦場のような爆発音と地響きが周り中に響き続ける。


「ものすごい音。暗くなって行くわ」

「おいおい…、こんなにしちまったら交渉も何も無いなぁ…」

「外の音遮断するジャリ。宇宙に怪獣とか居るからってちょっと身体強化し過ぎなんジャリよなあ…。生化学系が拡張されてどの種族も宇宙のどこにでも住めるのが当たり前になったのじゃ飽き足らず、宇宙船並の格闘能力を子供でも持つなんて過剰ジャリ…」

「さっきのあれ、俺も家で清宗によくやられるけど、「ベシッ」て感じで当たるだけなんだよ、抑制フィールド張られてないとこんな威力なのか…」

「人体に適用されるのは常に最新鋭技術の結晶ジャリからな、あれがみんなできるジャリ、バリヤー機能もほぼ宇宙船と変わらないし、あれでも直撃したってケガはしない程度に抑えたものなんジャリよ」

「しかし、さっきみたいのに簡単に踏み潰されるよりはよっぽど良い。理由もなくここまで強化しないだろ」

「天文現象のエネルギーはえげつないジャリから、まあ、親心からすると宇宙に出ても安全に暮らすにはいくら強化してもやり過ぎではないんだろうジャリがな。身体面での人工進化を決断した祖先に感謝ジャリ」


一家の上に数百メートル大の塊が音もなく直撃した。


「こわい!!ものすごい大きいのが降ってきたじゃない!!」

「さっきのやつやっつけたの?」

「爆発して散った破片がみんな生きてるジャリ、通信し合って六割がたの機能を維持。あいつしぶといジャリ。報復を呼び掛けてるから船に帰るジャリよ、転送!」


次の瞬間、一家は仕事部屋である居間に宇宙服を脱いだ状態で戻っていた。


「ああ、戻ってきた。よかった…」

「お母さん、アイス、アイス」

「ちょっと待ちなさいよー。疲れたわよぉ」

「おとうさーん、アイスぅ」

「後でな。さーて。どうするかな…」

「やっつけるんでしょ?」


清宗は嬉しそうだ。


「そうなるジャリねえ」

「うーお。ビームいっぱい出して勝つ!!」

「やめなさい!!…危なくないわよね?それ」

「駆除作業自体は全然安全ジャリが…」


赤松は言いよどんだ。


「何だよ、一家でビーム撃てとか言うのか?」

「いや、おおきいサイズの宇宙怪獣は人の出せるビームじゃなかなか倒せないジャリ、あれより大きいの今外に十万体以上居るから、手作業では不可能ジャリ」

「十万体以上?あれよりでかいのが?」

「そんなにどうするのよ…」


清子は早速ちゃぶ台の上で急須にポットから湯を注いでいる。


「サウル299のガスの中深くに潜り込んでるんジャリよ、いまどんどこ飛び出してきたのがこの船囲んで激しく攻撃して来てるジャリ、船の砲で撃って駆除するジャリ」

「もう攻撃されてるのかよ」

「ちーとも効かねえかわいいもんジャリがねえ、口ばっかり達者で脅しながら。奴ら大騒ぎジャリよ、こっちが子供でも宇宙怪獣殺せるのがバレたジャリ。火星はそこそこ進んでる部類ジャリからな、あいつらまだポッと出で宇宙の広さ知らないみたいだったジャリ」

「すまん」

「戦争ジャリ。しょうがねえから殲滅戦やるジャリ、さっきのやつのシステムの中で話してるのモニターしてても揃いも揃ってどーしようもねえゴロツキしかいねえジャリ」


清子が手を挙げた。


「ところで、ピクニックに来てた人達って、大丈夫なの?」

「ぜんぜん心配することないジャリ、遥かに高度な文明に属してるから」

「そうなのね…」


当の二人は仲良く肩を寄せ合って何か話しているのが赤松には見えていたし、向こうもこちらを見ていた。


盛宗は座布団を下にしいて座り込んだ。


「あーあ。これで一応やる事はやってるんだよな?」

「そうそう。説得の手順は踏んだジャリ」


清子は清宗と茶を飲みだしていた。


「清宗、田舎から送ってきた栗ゆがいたのあるけど、食べる?」

「うん」

「ちょっとまっててね…。よい、しょ」


清子は台所に立った。息子を妻に任せておき、宗盛は赤松と話した。


「で、状況は?」

「向こうからは既に色んなエネルギーの必死こいた射撃攻撃の猛攻を受けてるジャリ」

「それ、だいじょうぶなのかよ、余裕みたいに言ったけど」

「見るジャリ」


全方位の景色が宇宙空間となり、光り輝く星の海の只中で、第二ゆきぐに丸は膨大な数の宇宙怪獣らに包囲され、激しいエネルギー照射の的になっていた。


「ううわっ!!」

「すげっ!!」


ありとあらゆる方向からのビームが集中して来る映像に父子がのけぞる。


「ふん、ここを中心とした百万キロの範囲に宇宙怪獣がおよそ一千万体、群れ全部集まってるジャリ、サウル299から雲霞のごとく湧き出て来たのが、この船を隙間なく包囲してるジャリ」

「幾ら何でもこれはダメだろ、飛んで逃げないと…」


宗盛は生きた心地のしない気分で言ったが、赤松はまったく平然としていた。


「中性子弾、反陽子、ニュートリノ、電磁波、タキオン、まあいろいろ撃ってくるもんジャリ、全部命中させてるのはいい線行ってるジャリが、何万束ねても本船に何の効果もないジャリね、こちらとはエネルギー準位の次元もぜんぜん違うジャリから」


数十から数万キロメートルの巨体を持つ宇宙怪獣の膨大な群れが、時空が煮えたぎり、軋むような集中砲火を第二ゆきぐに丸に浴びせていたが、物理的干渉一切をはねつける力を持った船にはかすり傷ひとつも損傷が無かった。微動だにせず完全な漆黒を保つ船体の周囲の空間は超新星爆発並のエネルギーで溢れ、猛烈なガンマ線が飛び散っていた。


「マイクロブラックホール撃って来てるのが七千匹くらい居るジャリ、当たった時に時空間軸がブレるからうぜージャリ」

「あれ、星とか一発で消すやつだろう…、そんなに撃たれてて船に穴開いたりしないか?」

「こちとら毎度次元こじ開けて山盛りのキノコ届けてるジャリ、こんなもん効かねえジャリ。さっさと一掃してやるジャリよ」



外部…

宇宙怪獣たちの会話


『何やあの物体は!!重っ力特異点が効けへんぞ!!』

『縮退物質弾が弾かれよる!!』

『ストっレンジ物質まで弾きやがった!!』

『時っ空破壊が打ち消されよる!!』

『アホな…』

『こんだけ撃ったら恒っ星かてとっくにバラッバラですやん普っ通!!』


数千キロの体長を持つ、「我こそは無敵」を確信していた宇宙怪獣達が驚嘆の声を上げる。

二万キロくらいの龍が言う。群れの中では五番目くらいに大きい個体だった。


『何にもしてきやがれへんのは防っ御で手一杯やからやろ、撃ち続けろ』


小さな者達は群れてその言葉に続いた。


『せや!!撃ったれ撃ったれ!!』

『せやかて熱いで、一億っ度あるやんここ…』

『百億っ万度まで加っ熱や!!!』

『破っ壊や!!』

『殺っ戮や!!』


宇宙怪獣たちの集中攻撃はいや増しに加熱して行く…。



船内。


「あいつら退治するんだ?」


待ってましたとばかりに清宗が言う。


「そう。そこで、力を貸すジャリ、御二人さん」


赤松はそう答え、突如としてちゃぶ台の上、二人の前にゲームセンターで見るような「押しボタン」、そしてタコメーターが実体化した。


「これなに?」


宗盛はスイッチを手で掴んで持って裏返した。


「砲台の発射スイッチジャリ、武器使用の判断は人間が一回一回やらねばならないジャリが、ものすげえ数ジャリから、そのスイッチ連打して欲しいジャリ、砲の照準は自動追尾で合わせてあるジャリ」

「もしかして十万回以上?」

「ジャリ」


「じ、じゅうまんかい押すて。スイッチの耐久テストじゃねえか。もしかしてコレが「面倒な作業」の本命か!?」

「そージャリ。大体百万回押したら全滅すると思うから、頑張って欲しいジャリ」

「えぇ…ひゃーくまんかい…?」

「栗持ってきたわよ、清宗」


清子がゆがいた栗の入ったザルを手に戻り、

宗盛が力なくスイッチに手を置いた時。


「うーラララララララララララララララ!!」

ガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガ


清宗は恐ろしい勢いでボタンを連打し始めた、こういう時は子供の方が頼りになる事もある。


船の表面から白銀のエネルギービームが無数に放たれ、弾道上の宇宙怪獣を蒸発させた。


『グァァァアア!!』

『撃って来よったで!!』

『くそっ、何ちゅう威力や!!』


慌てて飛び回り始める宇宙怪獣。

宗盛と赤松は呆気に取られながら見ていた。


「そんなに悔しかったか、アイス…」

「頼もしいジャリ」


「負けてらんねーかぁ…」


宗盛は連打を始めた。


「んで?メーターの方は?」

「この船のメイン動力にかかってる負荷ジャリ。こいつが100%越えて来たら相手が強いていう事だから引き揚げるジャリ」

「ふーん。今ゼロだな」

「あれぐらいじゃ何のダメージもないジャリからなあ…」


第二ゆきぐに丸はクエーサー並の高エネルギーで押し包まれていた。


ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ


「あっ、あいつネバネバしてて二発撃たないと倒せないジャリ」

「めんどくせーな…」


ガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチ


「千キロ級のあいつは分離するから四発ジャリ」

「ララララララララララララララ!!」


ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ


「五十キロメートル級編隊百万機、接近ジャリ、弾幕厚く!!」

「うをーーーーっ!!!」


ガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチ


「二万キロ級!あいつは硬えので出来てるし長いから十六発要るジャリ」

「中ボスだな!!清宗、気合いだ!!」

「ララララララララララララララ!!」



連射されるビームを浴び、惑星大の宇宙怪獣は全身を焦がされながら最大速で接近すると、全ての運動エネルギー制御系能力を動員して三千キロの太さの尾に物質構造の強化を施しながら光速以上の速度で船へ振り下ろした。


『砕けろや!』


第二ゆきぐに丸は静止したまま、尖っていたので渾身の力で振り下ろされた尾を貫通し、宗盛らはそれに気付かなかった。


『グアアアァァァッ!!』


予想しなかった損傷が尾にもたらされ、全力の一撃を放った直後の宇宙怪獣には、場の制御による防御の力すら残っていなかった、振り下ろした後の尾の制動にも全力が必要だったからだ、乾坤一擲であったのだ。


ビーム連射がその巨体を瞬く間に消し飛ばした。

そして尚も、親子による猛烈なエネルギーの爆裂が続く。


ガガガガガガガガガガガガガガガガガガ…



暫く後



「おおい、赤松さんよ、怪獣減った?」

「でかいのだけでまだ七万匹は居るジャリな、総数八百万」

「ひええ…マジかよ!!」


頼もしかった清宗はさっきから湯がいた栗を清子に食べさせてもらっている。


「あなたー。」

「何だ、このいそがしい時に」

「栗の皮切ってあげてよ、硬いのよ」

「それぐらいやれよ、俺もう腕ガタガタなんだぜ?」

「あんたの親戚から送ってきた栗じゃないのよ」

「それがどーしたよ!?」

「もう…」


清子はあまり切れない包丁で栗を切り続けた。


「さっきからこのメーター、ゼロパーセントのままピクリともしないんだが、壊れてない?」

「まったく使ってないからジャリ、障害物除去用の砲台を1440分の1、使ってるだけジャリし、外からの砲撃もたんなる通常の物理現象ジャリからな」

「そんな弱い砲なのか。ちゃんと効いてるんだろうな」

「さっき上陸した惑星くらいなら一発で吹き飛ぶジャリよそれ」

「どんな出力してんだよインフラトン器官て」


インフラトン器官とは、真空からビッグバンのエネルギーを取り込む極めて極めて精密な生体機械装置(実際のところ、ここまで精密な生体器官は天然に全く存在しない、故にそれは生命体以上の何かである)だ。最近はあまりにも強大な出力があるので、持て余し気味。


「古代的にゆーなら、この船の主機の炉心温度はハゲドン度ジャリ」

「すごいのか?」

「アツいジャリ。あまり戦闘が長引くと熱汚染のせいで苦情が出て部長が始末書書く破目になるから、早く片付けないといけないジャリ…」


「そうだ、「時空破壊砲」ていうのは使えないのか?」

「あれ使うと直径百光年の範囲で百年間、ありとあらゆる構造が素粒子に至るまで完全に破壊され続けて、どえらい影響になるジャリ、政府に怒られて部長どころか会長が始末書書く事になるジャリ」

「なら使えねーな…何であるんだそんなん」

「あれ、極微の燃料漏れみたいのわざと発生させてその場を逃れる非常手段ジャリ、初歩的な恒星間文明だと一瞬で吹き飛ぶから、いざとなっても銀河系内だとまず使えないものだと覚えておいて欲しいジャリ、真空エネルギー技術作りたての種族がたまに起こして一発で絶滅する工場火災なんジャリよ…」



連打は続いた。




ジョナサン地表


「戦いが激しくなって来たね」

「まぶしいわ」

「それに暑い、熱の放散もすごいや」

「後でたいへんそう」


空を指差す。


「あ、流れ弾だ…」


ベッドのある辺り、大陸の半分が、惑星を掠めたビームによってえぐり取られ蒸発して消え、そして雨あられと降り注いだ同じようなビームに貫かれ、引っ掻かれ、抉られ、次第に形を失って、ジョナサンという惑星は消えて行った。





その後もボタンを押し続けた宗盛だったが、さすがに休憩は必要だった。


「だめだ、腕が動かなくなった」

「寝室のメディカル機能ならすぐ治せるジャリ」

「今はな、すぐに治りたくない」

「そージャリよねえ…」


「お父さん、栗ーー」

「おお。ありがとう」


宗盛は息子に手渡された栗を食べた。


「あなた、お茶」

「ありがと」


渋茶を一杯飲み込む。


「ところで積み荷のキノコ、何で末端価格グラム27億もするんだよ、俺ら近所のスーパーであれ特売んとき78円で買ってるぜ?なんか違うやつか?」


返った言葉は以外なものだった。


「工場出る時はひと株32円ジャリ。輸送費が」

「宇宙船て燃費ゼロだろ?」

「ジャリがな、キノコ運ぶ時に使うタイムフリーザーがすーーーーげえランニングコストなんジャリよ。納入先の企業さんが「ウチのキカイじゃないと責任持てねーから」って、機材ねじ込んで来たんジャリ、そいつのせいで」

「すげえな「スーパーどろめだ」。あんな値段のモノどうやって捌くんだ」

「アンドロメダには貨幣経済文明圏の巨大なのがあって、レート格差がすげえから、持ってくとこ持ってくと、こづかいほぼゼロのとっつぁんがきったねー飲み屋で一杯やる時のつまみの佃煮に使われたり、バアさんが野菜煮染めるののダシに使ったりするジャリ」

「一周回って火星と同じになる訳か」

「結局キノコジャリからな。でもタイムフリーザーに詰め込む時は工場長がヒヤヒヤしながら陣頭指揮執るジャリ、間違って機材壊すとウチは社運が傾くジャリ」

「どこが儲けてんだよ…」

「経済てそんなんばっかで成立してるもんジャリ」


そうこう言っている間も、全天の景色はビームの集中砲火であり続けた。

外からの攻撃はまだ変わらず激しい。


「さっきとぜんぜん同じだ…」

「ビカビカずっとしてる」

「眩しいから私隣の部屋に行くわね」


清子は目をショボつかせて部屋を出て行った。


「元々が兵器ジャリから、あれが存在意義なんジャリ」

「そうなのか」

「あれでも心があるのにああとしか生きられないジャリ」

「かわいそうだな」

「いや、それで満足して死んで行くんジャリよ。あいつら戦わず壊れる方が不幸なんジャリ…」


しみじみとした雰囲気になり、宗盛は伸びをした、こちらは少しも逼迫していないが、宇宙怪獣たちは本気で戦っている。赤松はセンサーに奇妙なものを感じた。


「ん?近くの宙域にトラベラージャリ」

「何が居るって?」

「ふむ、どこか遠くの時空間座標から来ているジャリ…。少し離れたところにも、別な位相に潜んでこちらはガイド付きで。どちらの異星人も我々とかけ離れた時間線から来ていて、それぞれもまた近いけど別個の時間線から来てるジャリな…。打刻してった理由はこれジャリか」

「並行宇宙から?」

「そうみたいジャリ。片方が一番でかいのと交信してるジャリな…」

「どんなの?」

「スルメ返せとか言ってるジャリが」

「あいつら相手にスルメ?」

「並行宇宙は普通、訳が分らんジャリ」


その時から次第に砲撃が弱まっていった、全周からのビームの光が減って行く。


「んー?だいぶ減ってない?」

「いや、群れが次第に超光速で移動しだしてるジャリ、撤退じゃなく立て籠もって戦おうとしてるんジャリが、どうも原因は今現在の中枢個体とトラベラーとの交信内容の雲行きを読んでらしいジャリ」

「どこ行ってるって?」

「…どうやら宇宙怪獣ども、今は向こうとの喧嘩に切り替わったジャリ、サウル299のガス雲に潜って警戒、筐体の中で無数…数京の思考クラスタが起きて最適解を探り始めてるジャリな、それ程の相手と認識してるジャリ。そしてこちらは行政というものが関係するらしいから…あいつら宇宙政府のこと殆ど分かってないジャリが、まだ危険性は低いと見て、警戒しつつも手を引いてるジャリ」

「で、こっちよりスルメの方が大事とかいう話か?何だそれ」


そしてとうとう、一発のビームも撃って来なくなる。


「向こうの話し合いが決着するのを待つジャリ、暫くお茶してるジャリ」

「このまま終わらねえかな…。最近肩も調子良くないし」


宗盛はため息をついて茶を含み、酸っぱくなって来た口の中をゆすいだ、清宗はスイッチをいじり回して確かめていた、とても単純な造りをした装置だ。


「これ連射オート機能ないの?」

「それがあると人が見ずに撃ってる事になってしまうんジャリよ、法律違反で捕まるジャリ…」

「ふうん…」


「あ。決着するジャリ」


宗盛はやれやれ、と思ってだるい肩を前後に動かした。


「とすると、作業再開?」

「いや…現在の映像出すジャリ」


突然、すさまじく眩しい光が襲った。


目の前の大宇宙を二分して明らかに光速より速く光線が走り、その直径にすっぽりと褐色矮星を飲む光景。清宗が驚いて叫んだ。


「うっわーーー!!」

「何だ!?」


「並行宇宙からの客がとんでもない威力の時空破壊浴びせてったジャリ、たった一人、生身で。それに通常のスカラー波動ではなかったから、巻き込まれてたら危険だったろうとこの船の思考器官が分析してるジャリ。今ので宇宙怪獣はサウル299ごと一掃されたジャリ…」

「生身で星ごと消したのか…。どういう関係だったんだ」

「不明ジャリ、トラベラーはどちらも別時間線に帰ったジャリ」

「惑星はどうなるんだ?」

「それが、とうに消えてるジャリ、奴等の撒き散らした流れ弾食らって」

「ピクニック客もか?」

「居ないジャリなあ…」

「救助出来たんじゃないのか、ちゃんと再生されるんだよな?」

「いや、再生しなくてもあれごときでどうにかなる存在じゃないジャリから」

「どういう事だよ…」


事態は不明だが、怪獣は一掃されていた。


「怪獣退治おわったの?お父さん」

「そうみたい」

「お疲れさまジャリ」


釈然としないが、盛宗は気を取り直した。


「…なあ、こんな性能してて逃げなきゃならない宇宙強盗ってのはどんな奴らなんだ?」


乗っている船の性能がとんでもないものなのを見た上で、さらにそれでも逃げなければならない相手が居るというのは想像しにくい事だったし、子供連れである以上、無視できなかった。


「そうジャリな…。まず、このカエリー・ルークス型みたいな銀河間輸送船なら、この宇宙の当り前の物理法則で起こってる現象でかすり傷一つ付けられる事はないジャリ。でも宇宙強盗の中には多元宇宙丸ごとに対応してるのに乗ってるのが居て、そいつらはやべえジャリ、素粒子の位置を制御してほぼ確率ゼロの物理現象まで自由自在に具現させるような、マジで何でもありの攻撃してくるジャリ、それもレベル4までならこの船のキャンセラで打ち消して同じことやり返せるけど、襲って来る奴等の改変能力はそれ以上ジャリ。そいつらを何とかしようと思ったら宇宙警察に通報するしかないジャリ…」

「怖い通り越してもう何だか分からねえな…」


宗盛は腕組みして天井を見上げた。


「宇宙警察ってすごいん?」


清宗は興味しんしん、といった顔で尋ねた。


「すごいジャリよ。火星にも配備されてるのの中だと、シターケンシリーズが最強ジャリ。あいつら、相手がどんな数学に基づいた多元宇宙で出来てるのか瞬時に見抜いて、無限の数の多元宇宙群を何もさせずに一瞬でクッシャクシャに潰して乗ってる奴ら逮捕しちまうジャリ。でも、あいつらだって第Ⅲ期政府が本気で運用してる、量子より小さいパトロール船「アンダーカバー」には手も足も出ないし、そのパトと同等の奴が仮に宇宙強盗の中に居ても第Ⅱ期政府には何の影響もないジャリ」

「シターケンて大した事ないの?」

「いや、「アンダーカバー」があまりにも強烈なんジャリ、隠れた変数というやつそのものジャリし、あれは時間の流れを操ってる次元の文明に属するジャリ」

「ふーん。シターケンてどうやって戦うの?」

「シターケンが相手の数学を解析する時は、相手に内包されてる宇宙の全歴史時間内に生起する全ての現象を比較検討解析して、その全てを知り尽くすジャリ。そうやって異なる純粋数学を割り出す処理を無限回平行してプランク単位以下のところでゼロ時間でやり、全てを崩壊させる攻撃方法を繰り出すジャリ。つまり、あいつらは基本的に本物の全知全能の存在の一種ジャリ」


宗盛は二人の会話を聞いていて呆れ顔を浮かべた。


「神かよ…」

「神の入り口ジャリなあ…。それでもこの船とは比較にならない怪物ジャリが」

「宇宙強盗ってのはそれに近いんだろう、とんでもねえのが居るな、じゃあたった二人で銀河のはずれをピクニックとか、ものすごく危険じゃないのか?」

「本来ならそうジャリ。まあ、あそこに居た二人とかみたいな一般的宇宙人は、第Ⅱ期政府直結で保護されてるから、そもそも生身で居たって宇宙強盗なんかどんだけ強くても足元這ってる粉ダニみたいなもんジャリがな…。そのテの進化競争から外れた、もうそれより上は無いというものの一部ジャリから」






ク、と、力の方向が手繰り寄せられ、小さな主星とその惑星は、何事もなかったかのようにそこに戻った。


それをした二人は、相変わらず寛いでいて、今はカウチに腰かけて手に手にカップを持って茶にしていた、そして、一人が小さな瓶を持ち、その中には一千万の小さなロボット達が浮かんでいた。






「いくら「これより上はないものの一部」でも、居た星が破壊されたらひとたまりもないんだろう?」

「いや、ついさっき再生させた惑星の上に二人とも居るジャリ、ここに来てからずっと、今もイチャイチャしてるジャリ」

「再生させた?」

「簡単にやってたジャリよ、ここの星系は来たときと何も変わってないジャリ、宇宙怪獣達も」


盛宗は狐につままれたような気でその話を聞いた。


「宇宙怪獣達も?」

「あれはおそらくよそへ行くんジャリ。終極へ。Ⅰ期政府は全てのものが生き延びた集合体ジャリから」

「ふうん…」

「わからない事ばかりあるのが宇宙ジャリが、それが全部関係あるのも宇宙ジャリ」




「生きるために殺し合う」という、物悲しく貧しい在り方は宇宙種族には無い。


アトランティス人は1万年前、既に通常の基準、つまり生まれた宇宙内では何でも可能という範囲での全知全能に達していた、どこの宇宙種族も故郷の星を飛び立つ頃には自ら設計した思考機械によって爆発的な技術力を手にし、それを道具として外在させるより自らに取り込んで【能力的無限大】に到達してしまうものだ、科学文明の誕生とその現実世界に対する超越は、宇宙にとって同時に起こる。だが、宇宙は安定的に存在している…。


彼らは結局、所与だった「人生」を満喫する事にした、誰にも操作されていない進化のもたらした性質、つまり、真正の自分たちを、大幅な改良版ではあるが、生きている。何者によっても恣意的でない過程からもたらされた本質というものは、全ての知性体にとって重要なものだ、省略化や合目的化しか出来ない知性体自身による設計思想は、結局「創造」など出来ないものだからだ、既にあるものを無価値にしてしまうことしか出来ない。


地球人類は元々動物界では弱者だったから、生殖能力が高い構成になっていた、そのために、彼らの星の動物に一般的な、二種の形態同士の遺伝因子交換という繁殖方式、そして絶えず生殖しようとする行動法則…を、引き続き自分たちらしさの重要部分として継承していた。


美醜の感覚は相手の身体がどれだけ理想的な性能に近いものを持って発達したかを見分けられる皮相的特徴を捉えるセンサーだが、個々の人間には単に精神的な満足のためのものとして働いて来た、そしてそういった性質の満足こそが「幸福」であって、生きる意味とは結局そんなものの追求である。


アトランティス人の「その後」は、絶世の美男美女が常に一対となって行動し、繁殖行動の予行演習をずっと続けている状態が維持されている。「個々の尊重」と「繁殖の成就」が、地球人類の精神構造にとって最高の価値だからだ。性別の数は二種類、互いを自らと同じ「最も重要な一人」と見做し合う者同士の、合意による甘美な関係、そして最も重要な、人生自体にとっての目的である次世代の存在を得ること。


要するに、彼らはいつまでも続く蜜月を過ごすのだ、遥かに延長された生の間。そしてかなり経って子孫を育て、現世から去るが、消えはしない。



彼らは今日、デート中に拾ったものを交番に届けに行った。


ジョナサンに「あったかも知れない」草原も、彼らと一緒に出て行き、後には全くの砂漠と星空だけが残った。




「お、ここで丁度勤務時間終了ジャリ、お疲れ様ジャリ」

「お疲れ様!!」


清宗が元気よく返事をした、宗盛は疲れた腕を振ってほぐした。


「あーー、おつかれさまーー」


午後17時、今日の仕事を終えた。


「初日の仕事はこれで終わりジャリ」

「明日は何喋ろう」

「また何かあるジャリよ、明日喋ることは明日手に入るジャリ」

「なかなかきついな」

「それが生活というものじゃないジャリか」

「そうだな…。夕飯作りに行かないと。清宗、その間宿題やっとけよ、飯食ったら見てやるから」

「からすみ食べたい!!」

「からすみー?どこで覚えたんだ…しょっぱいだけだぜ?」

「食べたい!!」

「作れねーーって」

「合成できるジャリから」

「ベンリだなぁ…。じゃあ合成したの出して貰って、飯作りに行くわ」


盛宗はいそいそと台所に向かった、生活というものは人生の中身そのものなので、生活のための用事をやらなくなるというのは生きない事なのだ。


まだ新しい仕事の事はよくわからない。

全ていずれ分かるのだろう、遠くの交わりで。

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