第14話

虚空に一瞬、フィラメント構造が生まれた。


それは、こんな内容だった。



今の所、手詰まりなのです。というのも、あそこに居住していた全員とも完全に現地人になっていました、我々の段階では光波への操作は人権条項のために禁止していますし、【亡くなられた】お二方の光波を補足しお迎えしたのですが、お母さんの方が復帰拒否の意志を持っておられて、ご家族も複雑ながら本人の意志を尊重すると…。人格のコピーすらなさっていません。


ではやはり「殺人事件」という事に…。


自然主義の考え方では、そういう事になります。


娘さんの方は精神的な療養が済み次第日常生活に復帰、という段取りで進んでいますが、まだ四歳ですので、お母さんを亡くしたというショックは相当に大きい、それをまた現地で現地人として生活なさると…。


後に価値観を中性化するのに苦労なさいますね、自我の確立後だと、一度組みあがった自分自身を溶解させるのは難儀です、月で暮らして頂く訳にはいきませんか。


お父さん側からすると、そういった体験の余地を与えるのも愛情であると、そうお考えのようで。奥さんとの間での了解は元々あって、遺言というものも双方で用意していたからと。まあ我々が人間で居続ける以上はそのような価値を否定出来ませんが、重々気を付けて見守って行かなければならない事はご承知でした。


こういう手段は不公正かも分かりませんが…、以後は護衛のオートセーフを周辺に展開します、国家として守らねばならない信義に準じて、そういう措置を講じざるを得ません。


事例数は通算174例となりました、復帰拒否26名です。


我々が「移行」する時には全員一緒に、とされています。熱力学的遷移によって意を翻すには平均六十万年かかる見通しとなっていて、本当に回復に時間のかかる事故なんですよ…。


これ以上拒否者を出す前に遷都を済ませませんと、本土への永住希望者が失われた家族となります。





本土周辺の現地文明ですが、現在世界平均的に彼らは知性化段階I1の途上にあり…、原始状態を脱して一度緩んだ生得的行動法則が記号的知覚世界の内に再創出される時点で起こる一時的野蛮化により苛烈化しています、別コミュニティの雌性は殺すか犯すかの対象でしかないと。個人のライフサイクル上の思春期の相に達しました。


富貴の原始社会については「黄金時代」と語り伝えていますね、我々に関する言い伝えとも混同されている。


彼ら自身のグランドデザインでは、「この世の終わりに過酷な試練を経て天国の門が開かれる」が平均的未来解釈です、天国のイメージは選民のみの厳格なメンバーシップ、メンバーシップ外の者は裁かれ、殺戮されて消える運命です。


I2到達にはあと三世代かかります、もう一度その到達の節目である「黄金時代」が到来した後、彼らの脳機能と現在のノンバーバルカルチャーの形成状態からすると、「魂体」的精神発達が少し不足します、その時集合的な行動として理性的である民族が数える程ですので、過半がI0タームの状態、つまり学童期以前の心理で高度記号化文明に直面してしまい、混乱が予想されます。


やはり性急に進み過ぎるきらいがあります、新人類はあまりバランスが良くない。



目下、並行生命相は安定しています。


地上には「魔族」が存在しますが、これの正体は彼らや我々の投影されたものですから、ある意味、区別が付きません。飢饉が増加しており、近いうちにまた「魔王」が現出します、更に我々を恐怖するでしょう。


集合意識の反射活動に関して、直近では飛翔する熟達者、白い人間が活動を始めます、そのストレンジアトラクタはノガを向いています、11次元写像ではこうです…。


これは彼らの一部伝統で言う『原人アントロポス』の事ですが、熟達者を媒介として、相同の歴史の集合であるオルスアトクタの中に―同時代かつ我々とは別種の【旧人類】が。


飛翔する熟達者としての白いアントロポスが植え付けられたのは約五万年前ですので、我々と重なります。


彼我にコンタクトがあり得たようです。




再建に成功しつつある先達者の末裔がそのコンタクト座標を由来も不明なまま「ウエギニヨンの環」と呼んでいますが、第Ⅱ期政府の所有でありますので、詳細は詳らかではありません。開示もされないでしょう。




彼ら先達者の末裔同士が相争う宙域には、誰も手を出さぬよう勧告を受けています。かつてのクル族やプルポン王国と同様です、適任種族があるのでしょう、我々は事態を観測し続けるだけです。





私たちよりも遥かに先行していたはずの兄である彼らが、原始的な精神に堕して争っているのは残念だ、人間を続ける限り退行は避けられないのだろうか。かつては今の我々を凌いでいたとも…。





先行種族が必ず通過して来た移行期ですから、先例も山ほどありますが、ああした退行は珍しいという事ですので、解消には時間が。






では、今後予定されている帝都遷都後五十億年間の展望を…。

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