第12話

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。




平茸家家長・平茸宗盛は、妻である清子、息子の清宗を伴って貨物船「第二ゆきぐに丸」の居住区画を訪れ、今後住むことになる部屋に引っ越し荷物を運び入れていた。


平茸家は火星中南部の平原で農業を営んでいた家系で、かつては豪農として知られたが近代化の波に乗り切れず没落、古来からある平行事象から出来の良い作物を選択して現出させる「量子選別農法」から、その農作物が最終消費者に必ず美味しく食べて貰える「美食保証作物」への移行失敗がその原因であった。作物の構成原子全てに自律的に未来を選択する能力を組み込む技術開発の途中で予期せぬ高次元知性体が無数に発生するという技術的なボトルネックを解決出来なかったのである。


数兆とも数千京ともつかぬ数に及ぶ新種高次元知性体を発生させ、それらの進化の方向性に責任を負った結果、全てを汎宇宙政府機関に委ねて廃業せざるを得なくなった。


当時の社長、平茸清盛は廃業に際して息子達を集めた家族会議の席で三男の宗盛に「スマンけど、長年の付き合いの運送屋が雇ってくれるからそこで働いて」と言い、学校を出たてで家業のそれなりの育成枠(新規支社営業部主任)に置いていた彼をトラック乗りの道に進ませたのである。


宗盛はそこで大型免許を取得、何年か働いていたが、その運送屋も平茸コーポレーションという大口の顧客を失って経営が傾き、やがて自主廃業、以後宗盛は運送業界を転々としながら、営業部主任時代に結婚したばかりの元食品メーカーOLの清子とまだ幼い息子清宗を養ってきた。


現在35歳、独立系のIT(インテグラルアーキテクチャテクノロジー企業。情報の増大や拡散、相互作用などと言った振る舞いを統合的に分析してシステムソリューションを行う技術を提供する技術屋)に就職した同期がコバカバーナの海岸近くでランボルギニーに寄りかかって美人妻と撮った写真を送って来てしたたかイラついていた。


-家賃四万白蟻に食い荒らされた木造築六十年なんてボロアパートに住んで毎日嫁や息子と五パック188円(税別)の即席麺すすって日曜まで仕事してる俺は何なんだ!-


実務経験も学歴もあるにも関わらず、「元・中堅世襲企業のボンボン、それも三男」という偏見は大きく、書類選考すら通らない。


「お前何やってんの?もう三十路も過ぎてるだろ?」という、何も知らない世間の目。


だが、今回の仕事は破格の待遇だった、ずっと輸送船で暮らす事になるとは言え、その居住設備たるや24LDK、家族同居可、時給24000円、家事労働アンドロイド付き、生活物資等は合成機から無制限に支給…。その他諸々。


銀河間貿易をやっている大企業ともなれば、末端労働でさえもこのくらいの待遇になるのだ、物質的なコストなど屁でもない水準の文明に属しているからだ。大体、遥か昔から真空のエネルギーを無尽蔵に取り出しているのにまだ太古の時代と変わらずコスト削減なんて事を言い続けているのがおかしい。


そういうのはナノテクだかフェムテクだとかいう、質量保存の法則に縛られた上での物質操作までしか可能でないローテク全盛の古代に既に解決されていたはずなのだ…。




「清宗、プラモデルはもう置いて自分の荷物運びなさい」


清子は玩具で遊び始めた息子を叱って両手に抱えていたダンボール箱を床に置いた、一家の荷物は船内の無人キャリアが玄関前まで運んであり、そこからはアンドロイドに任せて良かったのだが、室内のレイアウトにこだわる清子がアンドロイドに荷物を触らせないのだ。食器と衣類と寝具の他は小さな一人用家電とプラスチックケースやカラーボックスがいくつかあるだけの一家の荷物は、まだ大半が玄関前にある。


清宗は父親が「いい仕事に就けたから」と言って買ってくれた「マシーン大納言のソフビ人形」(プレミア14000円・清子は1000円くらいだと思っている)を大事に抱えたまま、何室もある部屋を歩き回っていた、ウォークインクローゼットやウォークインフリーザー、鑑賞用小劇場、会議室、家のあらゆるポイントからワープ可能で動線の中心にある百畳敷のトイレ、メディカルポッドを兼ね、ふわふわの寝具が置いてあって半液状の高密度ナノマシン気体に満たされて常に快適性と清浄が保たれるくつろぎの寝室、ちゃぶ台と茶箪笥と横から見ても四角いモニターの置かれた四畳半の居間…。


新居の中を、清宗はドタバタと走り回った。


「うわーーーーい!」

「清宗!走るんじゃないの!手伝いなさい!」


清子が怒鳴るが、息子は言う事を聞かなかった、十歳の男の子なのである。


「ハハハハハハ、良いじゃないか、こんな広い家初めて見た、ずっと狭かったからなあ、そりゃ走り回りたくもなる」


宗盛は棚板が曲がった三段のカラーボックスを運びながら、元気いっぱいの息子を愉快な気持ちで眺めていた。


「転ぶわよ!!」

「ドーーン!」


清宗は母親に言われるが早いか毛足の長い純白の絨毯目掛けて飛び込んだ。


「全然痛くない!布団しいてある!」

「清宗!それ絨毯なんだぞ!」

「マジで!?」


清宗は激しく転がり回り始めた。


「ハハハハハハ…」

「ちょっと、笑ってないで手伝わさせてよ!」

「イテテテッ!ギャッ!!」


妻に脇腹をつねられ、カラーボックスを爪先の上に落としてしまう。


「重いもの持ってるのにつねるな!」

「ふんだ!」


清子は頬を膨らませて、プイ、と、次の荷物を取りに玄関へ行った。


「やれやれ…」


床に落としたカラーボックスの白い表面には清宗がマジックで描いた沢山の落書きが残っている、それはどこもかしこも輝くような部屋の中、目立って異質だった、前の家では気にならなかった薄汚れが目につく。


俺たちの暮らし向きが変わるんだな…。


宗盛は浮かれた気分になりかけたが、没落を経験した身の上であるので自制を働かせて冷静になった。


いつかは出て行くんだ、たっぷり稼がせて貰うぜ。


そして、楽しげな我が子には冒険を続けさせておいて、生活の染み込んだ品々を運んだ。





7日後、一辺が657キロメートルに及ぶ完全な漆黒の正四面体、【カエリー・ルークス型銀河間跳躍貨物宇宙船】・第二ゆきぐに丸は、タイムフリーザー機関に格納された1800億トンの新鮮なキノコを積載し終え、ガニメデの質量の大半を占める火星文明プラント群を離脱した、ここにプラント群が置かれている理由は、大規模質量を持つ構築物を新たに太陽系内に置く事によって、何億年もかけて安定性を獲得した系内の公転運動のアトラクターに無用な刺激を加えないためである。


電磁力の強烈な相互作用に慣れていると分からないが、物体の形成や運動が重力の作用で成り立っているスケールでの物体間の相互作用の安定性は極めて敏感なものだ。


輸送に伴って減少する1800億トンの質量は、新たに創造されたエネルギーによって創出された同等の素粒子によって補填される。質量バランスの管理は「熱汚染」の問題と同時に遠い過去、真空エネルギー依存文明に固有の難題となったが、現在ではそれがビッグクランチを招くとは思われていない、解決策もどこかにはある…。



火星文明プラント群では量子跳躍ゲートで通勤して来るパート労働者達が毎日毎日、合成元素や複製化合物から螺子やバネやハンバーグやキノコを製造している。


手作業で作ったものの方が機械で作ったものより良いから、と、世間では信じる事にしているが、太古の昔に本当に何もかもオートメ化してしまった文明は満足げに消滅して今は化石しか残っていないのである。


心理的な本質まで「ニート仕様」に変えないと、生きるための産業を過度にオートメーション化した種族は生き飽きて消滅する…。


生物にとって一番の関心事は常に「どうやって生き延びるか」次に「いかに繁殖するか」なので、他の関心事が一番になるよう作り変えていないままこういう事を考えなくて良くなると無気力化してボケて行くのだ。


これは「文明における遊び人問題」としてどこの種族も通る道であった。解決法は人工進化だったが、火星人達はやらずに済ませたのである。だから貧乏は無くならなかった。


無論、よその星人は全員極楽鳥のように楽しげに遊び回って生きていたりするが、火星人には昭和枯れすすき的な情緒を愉しむ心理があると言わざるを得ない。



ある日の夕方、顔面のくたびれた中高年パート主婦が港で第二ゆきぐに丸の近くに歩いて来て、そこで木星蟹を追って遊んでいた清宗に「見た目が悪いから検品に引っかかったもんだけど」と言って、小さい無地のレジ袋に詰めた赤いキノコをくれた、家ではもう誰も見たくもないと言う。


主婦はホログラフィの夕焼け空へ向けてタバコをスパーッ、とふかし、皺の節くれ立った瞼を持ち上げて人工の空を見上げると、「ウチはもう真夜中の時間だからさ。宇宙に居ると時間の感覚が分かんなくなってやんなっちゃう、気を付けなよ」と言い残して帰って行った。


清宗は何となく「カッチョいいなあ」と思った。





第一回目の配達の日、清宗は学校があるので八時には船内の跳躍ゲートで火星の小学校に行った、出発まで船に乗って居たがったが、勉強の方が大事なので夫婦二人で送り出す。


その後。


「ねえ、ホンットーにここが仕事場なの?」


清子が訝しげな視線で宗盛を見た。


「ああ、ホンットーに仕事場だってよ」


宗盛は訝しげな視線でまっ四角な箱状モニターを見た。


四畳半、ちゃぶ台、茶箪笥、一つの座椅子。


火星の本社で貰った分厚いマニュアルに、この部屋が船のコントロールルームである事が書かれていた、機械というものは思念で操作するものだから物理的にどういうものかなんかどうでも良いのだが、心理的にどうだろうこれは。設計思想上。


「ハロー、コクレア」


宗盛は「操縦席」みたいに思えなくもない座椅子に座り、一応、コンパニオンのアイコンだと記載されているモニターに向かって声をかけた。


「今日から仕事のはずだけど?」

「コンセント入れるのかしら?」

「コード無いぜ?」


パッ、と、モニターに光が走り、黒地に『勤務開始時刻』という白い文字が表示された。


「初めまして、平茸さん。コクレア4800シリーズ、第二ゆきぐに丸管制システムの赤松と申しますジャリ、勤務時刻丁度となりましたので今後の勤務内容の確認とご説明を始めますジャリ」


子供みたいな音声が挨拶して来た、語尾が特徴的だがどうしてなのかは分からない。


「初めまして。宜しくお願いします。ここ操縦席で間違いないですよね?」

「あなたの所定の席で間違いないジャリ。疑問に思う所とかあるジャリ?」

「仕事場って感じしないですね」

「そう、出来る限りそういう雰囲気を排除したジャリ、お仕事内容は雑談ジャリ、モニターに表示する勤務内容、給与額、社会保障、罰則等の就業契約に関する取り決めをご確認下さいジャリ」


色々と最終的な確認があり、紙のマニュアルに記された就業規則についての説明が行われた。


「これで最終確認を終えますジャリ、長期雇用とする事を想定していますので、しっかりと取り組んで下さいジャリ。…それでは、まず船外の状況確認の仕方を説明しますジャリ」


モニターに平面の画像が表示された、木星が映っている。


「えっ?これで見んの?」

「基本はそういう事ジャリ、雑談ネタになれば良いだけだから、臨場感とかは特に必要ないし、船のコントロールはこっちで丸ごとやってるから何も知らなくて良いジャリ」

「楽な仕事ねえ…」


清子は呆れてため息をついた。


「話が出来たら良いんだったら、洗濯とか洗い物やりながらでも良くない?」


乗り出してきてモニターに向かって言った。


「問題ないジャリ。出来たら奥さんも加わって欲しいジャリ、時給額の設定にそこらへんも考慮されてるジャリ」

「あらそう。それは良いわねえ、この人家の手伝い何もしないから。忙しい忙しいって言って…でも家に居るならねえ…?」

「あー、まあやるけど。ここから出たら駄目だろう」

「その間奥さんが残って貰えるなら良いジャリ」

「あっ、そう!?それで良いんだって!」

「何でそんな喜んでるんだよ」

「宜しくお願いしますね赤松さん」

「宜しくお願いしますジャリ」


何やら嫌な感じしかしない会話なので宗盛は清子を手で制してモニターから遠ざけた。


「船外を全天でも見られるかな?話題づくりに」

「できるジャリよ」


部屋の壁、床、天井が消え、外宇宙の光景が広がった、コントロールルームは船の中心に置かれているので停泊している宇宙港は二百キロメートル以上の彼方である、貨物搬入用の長さ十キロの波止場ですら小さく見える。


「木星やっぱりデカイんだな…」


宗盛は火星人にとって大地から見た事のない大きさの他天体の姿を見て呟いた、地球からはその月がとても大きく見えるそうだが、それよりも大きく見えていたからだ。


「私は見に来た事あるけど。あれ近くで見ると気持ち悪いのよねえ…」

「色合いもなかなか不気味ジャリ」

「そうそう。あんなのが途方もないスケールであるんだから宇宙って怖いわ」

「どんな?」

「映すジャリ」


木星付近にズームした画像が視界一杯に広がった。宗盛は一目見てぞっとした。


「ぐわっ!気持ちわるっ!」


絡み合う褐色のガスの乱流が見渡す限り広がっている画像というものは抽象的な不安を掻き立てるものがあり、思わず仰け反り、立ち上がる。


「やめてよー!」


清子も得も言われぬ宙吊りの感覚を覚え、身震いを起こした。


「更に寄ってみるジャリ、求人票にもある通り、この船のセンサーは高精度ジャリ」


おぞけをふるうような木星の画像はどこまでも接近して来た、これは本当の「落下」だと全身で感じるくらいの明瞭さで表示されたまま。


「落ちてる落ちてる!」

「いーやー!怖い怖いー!」


清子はキャッキャ言って宗盛にしがみついた、なかなか楽しい。


二人は木星のガスの中をどこまでも落下して行った、凄まじい暴風の中を。


「鼓膜が傷付くような轟音になるから音響は切っているジャリ」


上も下も、褐色の巨大な雲がどこまでもどこまでも積み重なっていた、星の直径より深い大気の底で、液化したガスの水面に行き当たり、更にその中を潜って行く、宗盛は巨大な世界に見入った。


「これ今現在の画像?」

「センサーによるリアルタイム走査で捉えているジャリ」

「ふうん…木星の核の中も見られるとか?」

「太陽の中心も、白色矮星の中心も、船のセンサーには同じことジャリ」


赤松はそう断言して、別な画像を全天表示した。銀河系が視界一杯に広がる。


「我々の銀河系を外部から見た画像ジャリ。三万光年の位置を今拡散中の光波を捉えたリアルタイム画像ジャリ…そして、次のはアンドロメダ銀河の中心部付近、積み荷の主な配達先である集荷場ジャリ」


周り中、上も下も、無数の星が輝く空間に切り替わり、漆黒の構造体がその中に存在しているのが黒い領域となって見て取れた。


「えらく遠くまで見えてるんだな…」

「感知範囲は一千万光年だから、アンドロメダ銀河は近い所ジャリ。範囲内なら全部の原子の見分けが付くジャリ」

「ねえ、清宗今どうしてるか分かる?」

「算数の時間ジャリ。いきなり小テスト出されて戸惑ってるジャリ」

「考えてる事も読めたりするのか?」

「能力的には一千万光年範囲内の全ての生物の精神活動をエミュレートできるジャリ。でも、それは感知する事が厳重なプロテクトで封印されているので、特定の外敵のみに対して行うジャリ」

「何でも読めてたら雑談も出来ないわよねえ…」


わざわざ求人を出さなくてはならない程の退屈に見舞われるくらい、他人の事は分からないようだ。宗盛は疑問を呈して会話を続けた。


「プロテクトて解けたりしないか?」

「解けないジャリ。少なくとも、この宇宙内に存在し得る文明には施す事も外す事も不可能なプロテクトジャリ。技術体系が論理的に存在出来ないジャリ」

「それなら安心だな」

「本当に?覗き見出来ない?」

「プロテクトは思考経路にまで及んでいるから、船の思考能力はほぼ全面的に抑圧されているジャリ。実存としての主体性を持った思考に限っては、本来の能力は全く使われていないジャリ」

「まあ、そんなもんなんだよな。本当に能力に制限の無い人工知性は人格なんか持たないから、対話も不能だ」

「私は基本的に宇宙運輸装置のドライバとして構築されているジャリ、万能の超知性とは違うジャリ」


部屋は元の四畳半に戻った。


「うん、つまりこの部屋の感じで接すれば良いんだな…」

「そのための部屋ジャリ」

「あなたさ、他の部屋は豪華なのに、基本的にこの部屋で過ごすんだね…」


清子は他人事のように言った。


「お前もだよ。時給に入ってるて聞いたろう、ちゃんと仕事しないとここ、出る事になるんだから居ろよな」

「ええー?」

「仕事で住み込んでるだけなんだから。土日祝以外、基本ここ」

「なにそれー」

「前住んでたとこよりは良いだろ」

「変わんないわよ」


清子は呆れ返ったように言って部屋の中を見回した。


「昼ごはんの支度するわ。お仕事頑張ってね、それじゃ」


さっさと出て行く。ダイニングキッチン、「台所」でなくキッチンへ行ったのだった。


「あーハイハイ…。じゃあ仕事しようか。で、船の出発ていつ?」

「港の積み込みの仕事は昨日で終わってるから、予定通りに向こうと事務方の連絡が通ればあと五分で跳躍転移するジャリ」

「ふうん、俺何かやる事ある?」

「運転とか荷物の取り扱いに関してやる事は無いジャリ、まあ帰りにちょっと掃除しに寄り道するから作業らしきことやるのはその時ジャリ…」

「それ、大型の免許何で要ったんだよ…」

「法律があるからジャリ…」

「なるほど…ちょっと全天表示で外見せてくれ、初めての船出だ。清子ー!出港するぞー!」


夫婦は初の銀河間転移を目に焼き付けようとして目を凝らした。


「銀河間跳躍態勢に移行するジャリ。慣性制御器官正常、インフラトン器官正常、次元転位器官正常…。全部言ってたら予定過ぎるから言わないジャリ…。秒読み2、1、跳躍転移」


いきなり二秒前から開始された秒読みの後、外の景色はただ単にパッと切り変わってさっき見た集荷場前のものになった。


「あ?もう終わりか?」

「着いたの?」

「着いたジャリよ。退屈なもんジャリ」


船は早速接岸に向かう、集荷場には似たような幾何学形態の輸送船が何十と集まっていて、全体は長方形をしていた。


「本船と同型の輸送船が集まっているジャリ」


何も特徴のない「黒」なので実感が無いのだが、船のサイズからすると集荷場はさしわたしが五千キロはあるようだ。


「真っ黒だ…。しかしデカイなぁ…」

「直径二十ニ万光年の銀河系の物流拠点ジャリ、あんなみっしり詰まった高密度な施設は珍しいジャリ」


接岸すると、第二ゆきぐに丸の思考器官が仕事をして膨大な手続きや確認を処理、生物の小さな脳では到底把握出来ない手順を組んで莫大な積み荷を荷卸して行った。


集荷場の倉庫の出庫スケジュールにある時間と空間をパズルのように組み立てた上での短距離転送の繰り返しである、全てがスケジュール通りに進行しても、完了には数時間を要する計画となる。

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