小屋の中

 ある男がいた。彼は森の奥、薄暗い木々の中に立っている小屋の中で生まれた。小屋には男が寝ていた真っ白い布団しか見当たらない。彼は自分の身体を品定めするように見つめた。起き上がり小屋を出ると、視界は薄暗かった。高くそびえ立つ木々たちが男をじっと見ていた。男はそのうちの1つに聞いた。

「ここはどこだ。おれは誰だ。どこへ行けばいい」

 尋ねられた1本だけでなく、まるで森全体が1つの生き物かのように返事をした。「森を抜け、街に行け」男は怪訝な顔をした。“どこにいけばいい。なぜ行かなければいけない”と尋ね返したが、森はただ一辺倒にそれを繰り返すだけだった。男は浅くため息をつき、どこへともなく歩き出した。

 あてもなく林の中を歩いていると、ある1匹のリスが話しかけてきた。

「街はあっちだよ。ついてきて」リスは男の頭上からぴょんと飛び降り、男の前をすたこら走っていった。仕方なくついていくと、なにか小さな集落みたいな場所に行き着いた。そこには藁で作った家が複雑なパズルのように密集していて、それが1つのお城のように成り立っていた。男は聞いた。「ここは」先導していたリスが答えた。「ここは僕らの街だよ」藁でできた小さな家から数匹のリスがでてきて、そのリスに尋ねた。「リッカ、この人は?」リッカというリスは静かに答えた。「迷い人だよ」リッカと話していたリスは“そう”とだけ言ってうつむいた。木々がざわざわと音を立てた。風は冷たく、肌に刺さるようだった。

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山田 @tyakjokejdmnkogkjjdhj

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