唄が聞こえた。誰もいない暗がりのなか。

 その唄はいつも聞こえた。どこか寂しそうで、歌詞もわからない唄。彼が縁側でたばこを吸っていると、その唄はいつも鳴り響いていた。少女のようでもあり、たくましい女性らしさもある唄声。鈴虫がバックバンドのように鳴いていた。星がきらきらと光って、まばらな雲がゆっくりと進んでいた。

 要らなくなった缶のふたにたばこを押し付けた彼は、夜でもわかるその黒い灰を見て、それが自分であるかのように感じた。そして星空を見て、たった数秒の生を感じた。唄はまだ聞こえる。誰のものかわからない、悲しげな唄が。

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山田 @tyakjokejdmnkogkjjdhj

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