自由

 彼は鳥になりたかった。しかしなれなかった。だから彼はいつも空を見上げていた。そこに自由の鳥はいないかと。朝焼けが空を満たすときも、青が澄み渡るときも。灰色が空を覆い尽くすときも、暗闇に星が光るときも。そこに自由の鳥が現れれば彼の心は救われた。翼を持たない彼の心が。

 偽者の翼を振り回すモドキが地上にはびこっていた。彼ら彼女らはいつも得意げに翼を振り回し、それが他人に当たろうが物に当たろうが気にしなかった。彼らの翼に神経などない。偽者なのだから。しかし人々はその翼をうらやましがった。私もあの翼が欲しい、と自らの背中に針を突き立て、傷つけていった。立派な翼ができたと喜んでいるが、その背中には血と肉が浮き出ていた。彼はそれをただ傍観し、自分たちが人間であることを憂いた。

 鳥には鳥の苦労があることを彼は知らない。餌をとれなければ死んでしまうことを彼は知らない。彼らが地上では生きていけないことを彼は知らない。彼らが本当は自由ではないことを、彼は知らなかった。

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