反響

 男は暗闇の底で目を覚ました。男は問いかけた。

「誰かいませんか」男の声が空しく響きわたる。また叫んだ。「誰かいませんか」反響する声が大きくなっただけだ。ここには誰もいない。男は湿った地面に座り、息を整えた。なぜ俺はここに、誰に連れてこられたんだ。

 男は頭を垂れて、目を閉じた。なにも考えたくなかった。ただそうして、何分も何時間も過ぎていった。やがて彼は、自分がどこにいるのかすらもわからなくなっていた。ただ暗闇の中で目を閉じ、じっとしている彼がそこにいた。

 彼はただ待っていた。自らの命がつきる瞬間を。ただただそこで、待っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る