無駄口

 これは想像だ。妄想だ。

 俺は自分が死ぬとき、なにを思うんだろう。たくさんの後悔をするのか、たくさんの喜びを思い浮かべるのか。幸せか、悲しみか。それともなにも感じないのだろうか。完全なる無となるのか。

 生きることを当たり前だなんて思わないほうがいい。動物はいずれ死ぬ。人間も同じだ。こうやって自分が生きている間にも、たくさんの人が自ら命を落とし、たくさんの人が他者に命を奪われて。そんな中で、生きることを当たり前みたいに言う人間が嫌いだ。生きているだけで偉い、という人間も好きじゃない。それは病気の人や、重い障害を持つ人、命の保障がとれない場所にいる人だけが使える言葉だ。五体満足で、そこそこ裕福な暮らしをして、戦争も紛争も表面的には起こっていない場所にいる人に、そんなことを言う権利はない。そんな言葉は適用されない。でも俺だって、大切な人には生きていてほしいと思うばかりだ。生きていてくれるだけでいい、そんな言葉しか出てこないんだ。

 結局なにをやっても無駄だ。でもそう言えるのは、なにかをやった人だけだ。俺にはなにも言えない。なにも成し遂げられない。そんな風にしか、自分を見つめられないのさ。かなしい生き物だ。あわれな人間さ。でもそうなんだから仕方ない。持ってないカードは出せないよ。

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